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決闘勃発なの!

 

 今日の朝から、正確には昨日の夜から小鳥遊さんはご機嫌ナナメだ。


「じゃ、アイツから逃げ切れたわけ? 私でも無理だったのに!」

「そ、そうだよ。でもそれは小鳥遊さんの助言があったおかげで」

「ふーん」


 あの後、無事にログインできたという報告をしてからもスルーされたし、その時は寝てるだけかと思ったけど。

 これはまさか嫉妬なの?


「確認だけど、高木さんって初めたばかりよね?」

「え、そうだけど」

「レベルいくつなのよ」


 普段の彼女からは想像できないような冷たい表情をされる。

 ……この質問は小鳥遊さんにとって、それほど重要なことみたい。


「もうすぐ30だけど」

「はぁっ!」

「っっ!」


 その声に驚いたのは私だけじゃない。

 周りにいたクラスメイトも一瞬「えっ?」といったように、辺りが静まり返る。

 だって、いつもニコニコして明るい小鳥遊さんが、まるで私を責めるように声をあげるものだから。


 当然、クラス中の注目も集める。


「……ちょっとお手洗い行かない?」

「えっ、でも」

「ついてきて、く・れ・る・よ・ね?」


 顔はニッコリと笑って、傍から見ればいつもの小鳥遊さんだ。

 でも、対峙したほうから見ると、般若のような笑顔なんですがそれは。




 当然、お手洗いに行くといっても本題は別にある。


「確認するけど、高木さんは遭遇しただけで戦ってないのね? それでよく逃げ切れたものよ」

「う、うん。掴まれたら終わりってわかっていたから、すぐにログアウトしたよ」

「うん。無事なのは嬉しいんだけど、でも私だけログインできないのも何か複雑だし……それに速さには自信があったのに負けるなんて……」


 なんかブツブツ言っているけど、私はまだ小鳥遊さんが怖い。

 だって、逃げ切れたと言ったらあんなに豹変したんだよ? またいつ逆鱗に触れてもおかしくないし。


「答えたくなかったら良いけど、聞いていいかな?」

「はいっ、どうぞ」


 もちろん、私に否定する勇気などない。


「高木さんって、AGIどのくらいある?」

「あー」


 これは、正直に言っても良いのかな?

 魔法職でAGIが500越えなんて滅多にいない。

 それこそ、巷で話題の暴走ぞ……アジシャンじゃない限り!


 でも小鳥遊さんには職業を教えていないし、彼女もAGIに自信がありそうだから問題ないかな?


「職業柄、AGIばかり上げていたから。今は600かな」

「ろっ……! そ、それなら納得かな。高木さんの職業は知らないけど、随分と思い切ったことをするね」


 あっ、この反応。

 私よりも低かったのかも。


「同業者の可能性もあるけど、私も職業をバラすと特定されそうだし……そ、そうだね。つまり私は足りなかったってことかぁ……」


 何か一人で納得しているみたいだから、これで矛先を収めてくれたら助かるのだけど。

 その後は小鳥遊さんも持ち直してくれたらしく、さっきのクラスでの出来事は情緒不安定ということにしたらしい。


 うん。

 男子は不思議がっていたけど、小鳥遊さんの人望ならそのうち忘れ去られる出来事かな。






「というわけで、AGIが600あるってそんなに凄いんですか?」

「君のは補正も入れると700を越えるだろう? スキルも取らずにそこまでする馬鹿は中々いないさ」

「まあ、わたしには負けるけどね!」

「……参ったな。このギルド以外では、中々居ないだろう」


 第一、せっかくのゲームの世界でスキルを取らないなんて勿体無い。

 楽しむためのゲームを、初っ端から縛りプレイで遊ぶようなものだ。

 まあプレイスタイルはあるだろうが、君たちのようなプレイスタイルは稀だよ。


 とは姫さんの持論だ。

 極フリなんてそこら中に溢れているけど、レイドボスやクエストボスを相手にするとどうしても力不足になるらしい。

 いつも同じ時間、同じクエストを受注できるパーティでもいれば良いけど、そういった人間は滅多に野良パーティには現れない。


「なので、君たちは我がアジシャンズの誇りさ」

「どうしてなのかしら。嬉しくないわ」

「というか、どうしてわたしがスキルを取った後に全振りするのよ! また差が開いちゃったじゃない!」

「私もするつもりはなかったの! ただ、流星に負けるのが嫌だったから」


 AGIを極フリする原因となった流星は、知らぬ存ぜぬでバイクを磨いている真っ最中だ。

 何でも風の抵抗を少なくするとか言っているけど、意味あるのかな?


「まあまあ。デス子くんもここで終わるつもりはないんだろ? 新しいスキルで見返してやるんだ」

「ええ。手始めに草でも抜かして……って思ったけど、肝心なときに居ないのよねアイツ」

「ま、所詮はどこにでもいる雑草だ。そのうちひょっこりと生えてくるだろう」

「あっ、もう草で決定なんですね」


 あの後レースに勝った私は、正式にウィードを草と呼ぶ権利を手に入れた。

 それに伴ってか、ギルメンの皆も彼のことは雑草か草と呼ぶようにしたらしい。


 そのことについてウィードが「扱い酷いですよ!」とまともな口調で抗議したらしいけど、雑草の扱いだからと却下されたそうな。


「仕方ないわね。おにいちゃ……はまだまだ掛かりそうだし、あなたは最後に倒すとして! 久我、決闘レースよ!」

「ほう。中々良い選択肢だね。どうだろう……おや?」

「あれ、そういえば久我さんは?」


 つい先程まで流星の近くを動き回っていた久我だけど、既にアジトから姿を消していた。


「強制ログアウトでもされた?」

「いいや。彼は私よりも遅く着たため、それはないだろう。だとすると、どこかに……おっと、噂をすればだ」


 ちょうど、久我からギルドメッセージが届いた。

 そこには。


「今からアカバンの囚人と呼ばれる人物と決闘レースを行うことになりましてね。無論、負けるつもりはないですが、せめてもの役目として実況しましょう!」


 ……私がなんとか逃げ切れた相手と、未だ実力が不明な久我さんが決闘レースする宣言がされてました。


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