身近な被害者、発生なの?
あれから小鳥遊さんは話しかけてこないし、もう大丈夫かな?
今日もこのまま帰宅して、姫様にでも噂の詳細を――。
「ちょっといいかな?」
「小鳥遊、さん……」
油断していたらこれですよ。
放課後、帰ろうと席を立ったら呼び止めてくるとか、まさか待ち伏せでもしていたの?
「あれ、小町帰らないの?」
「ごめん。ちょっと高木さん借りるね」
「そっか。じゃあ私達は先に帰るね、ばいばーい」
「えっ、ちょ!」
ここは助けてくれる場面じゃないの!
……口には出さないけど、目で訴えたのに伝わらなかった。
うん、そうよね。
所詮席が近いだけの付き合いだし、小鳥遊さんはそれこそクラスカースト上位にいる人物だから。
こちらの事情を小鳥遊さんも察してくれたらしい。
「あの子たち……お友達よね?」
「うん……多分」
「とりあえず、お店いこっか?」
「……はい」
移動している最中、私達の間に会話はなかった。
駅前のファーストフードに二人で入る。
てっきり後ろに居た二人もついてくるかと思ったけど、ここには小鳥遊さんと私の二人きりだ。
「早速だけど、あなたもプレイヤーよね?」
「……はい」
「もうっ、クラスメイトなんだし、他人行儀はやめてよ!」
あなたのテンションについていけないんですが。
その言葉は飲み込み、嬉しいような反応に困るような、微妙な気分になる。
だって、話し相手が欲しいとは思ったけど……まさか小鳥遊さんがプレイヤーだとは。
あなた、すごくキラキラして話しかけづらいんですよ!
「ごめんなさい。訳あってキャラ名は教えたくないから、一緒に遊ぼうって誘いではないのだけど」
「あっ、それ私も嫌です」
「そうなの? よかった。大体、期待した目で見られるから」
彼女がこうやってゲームの話をする相手は、さっきの男子みたいにフレンド登録しようと誘ってくるみたい。
だから小鳥遊さんも、あまりゲームの話をしなくなったという話を聞くと、私と同じで親近感が湧いてくる。
「そういえば、あのとき後ろにいた二人はゲーム仲間?」
「え? いやいや! 同じプレイヤーだけど、パーティは組んだこと無いよ! ゲームの話をするだけ!」
ということは、今の私みたいな関係なのかな?
同じゲームの会話はするけど、リアルだけの関係。
本当は逆だろうけど、ゲームの中ではっちゃけている人ほど秘密にしたいものだと思う。
だとすると、キャラ名を隠したい私も……うん、考えるのはよそう。
その後、小鳥遊さんとあのシステムがやりづらい、この仕様ってどうなの? あのクエストはこうすると効率が良いなどの会話を楽しむ。
流星たちとはこういった会話はできないから、普通のVRMMOって感じで盛り上がるわ盛り上がるわ。
「でね。その暴走族って呼ばれる人たちがすごい迷惑なの!」
「あっ、はい」
……途中、反応に困る話題もあったけど、概ね満足だ。
「そういえば、高木さんはアカバンの囚人って知ってた?」
「私もさっき知ったの。ゲームにハマっている人ほどアカ停止はつらいよね」
「そうそう。私の知り合いもなったから、独自で調べているんだけど……やっぱり情報は出回らないわね。VR機器自体高価なものだし、わざわざ二個目を買ってまで新キャラ作る人は稀だし」
一つの機器につき一キャラ。
VR機器ならではの制限だけど、それでアカウントロックは痛い。
新規キャラをつくっても前のキャラが消えるわけじゃないけど……いつ解除されるかわからない不具合に、ウン万円はちょっと出せない。
「まっ、運営が調査中というからには待つしかないわね」
「ただのプレイヤーじゃないみたいだし、イベントの可能性もまだあるね」
「イベントだとしたら告知が……考えてもわからないわね」
結局、お互いにキャラ名は秘密のままその日はお開きした。
リアルでの連絡先は交換したけどね!
帰宅してログインし、既に馴染んだアジトへ直行する。
設定すればここから開始できるんだけど、ログインしていきなりレースへと連れて行かれるのですぐにやめた。
のんびり自分のペースで遊びたいの!
「こんちはー」
「よく来たね。今は私しかいないが歓迎しよう」
流星とデス子ちゃん、ついでに久我はログインしているようだけど、アジトには姫様しかない。
やっぱりデス子ちゃんの言う通り、黒百合さんっていつも家にいる暇人……。
「君が何を考えているのかわからないが、ギルド長権限で報酬を減らしても良いんだよ?」
「や、やだなー……そんなこと考えていないですよ」
「ふむ。墓穴を掘ったことにも気づいていないか」
「あっ!」
やれやれといった感じに肩を竦めているけど、姫様は私をどうこうするつもりはないみたい。
ちょうどいいや、暇人の姫様ならなにか知っているかもしれない。
「あの、噂を聞いたのですが……アカバンの囚人って知ってます?」
「ほう。今トレンドな噂だね。もちろんだとも」
「あれって何だと思います?」
「質問がやけに抽象的だが、私は怪奇現象の類だと思っているよ」
怪奇現象?
私が疑問に思っていると、突然バイクが乱入してきた!
「きゃぁあ!」
「おい、何しているんだ? 走りに行くぞ」
「何でよ! いま大事な話を……」
「俺に先攻させたことを後悔させてやる」
……それだけ言い残して、嵐のように彼は去っていく。
ドア、壊れたまんまなんですけど?
「いいのかい? どんどん引き離されているよ」
「むしろドアは良いんですか! 風が寒いんですけど!」
「何、いつものことだ。いってらっしゃい」
「ああもうっ!!」
結局その日は流星を追いかけ、途中デス子ちゃんとも合流して制限時間を迎えた。
体感6時間って、こんなに早かったっけと思うほどに忙しかった。
ゲームを終え、あとは寝るだけ。
現実に戻って横になると、スマホに通知が入っていた。
「あれ、早速小鳥遊さんから…………え?」
その通知は、私の眠気を吹き飛ばすほど。
『私……ログインできなくなっちゃったかも。腕が6本ある男の人に負けちゃった』
あまりにも衝撃的だった。
ハマっている人間ほどアカウント停止は大ダメージです。
それこそ、リアルダイレクトアタック!




