第131話 福神! 少女の幸福と不幸は表裏一体! (Cパート)
「ふぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
カフコは甲高い雄叫びを上げる。
カナミはその声に耳をふさごうとした思ったとき、カフコは動いた。
動いた、と思った時、カフコはカナミの目の前に飛び込んできた。
「――!?」
カナミが防御に入ろうとする前に、カフコは拳を振るう。
ブゥゥゥゥン!!
拳を紙一重でかわしたものの、風圧で弾き飛ばされた。
「わわッ!?」
「ふぉ……」
カフコは拳をかわしたことを感心したように一息入れる。
「速くて強い……!」
もしあの拳が当たったら、と思うと冷や汗が出る。
それに、動きが確実に自分より速かった。
「ふぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
カフコは再び甲高い雄叫びを上げる。
雄叫びとともに暴風が巻き起こる。
「うむ、結界を張っておいて正解じゃったな!」
煌黄は風に飛ばされないように、杖を地面に突き立ててしがみつく。
「そうですね。あれだけ強い不幸と出会ったのは初めてです。そして、私とあなたでは束になっても勝てないでしょうね」
「そうじゃな、勝てないどころか瞬殺じゃ、ハハハ!」
「俺も入っても傷一つ入れられねえだろうな、ハハハ!」
笑い事じゃないわよ、と、カナミは煌黄、フク、ミドリの会話を聞いて言いたくなった。
つまり、それだけの強敵で、文句を言って生まれるスキが命取りになりかねない。
「ふぉッ!」
カフコは声を上げる。
また来る。と思った。
バァン!!
カナミは先手を撃った。
カフコが動く前に魔法弾を撃つ。
しかし、魔法弾はカフコの身体に命中すると弾き飛ばされてしまった。
「豆鉄砲」
マニィは言う。
「石をぶつけられるよりずっと痛いようにしたのに!」
「ダメだよ。鉄砲で撃ち抜くくらい。それでも全然威力不足だけど」
マニィがそう言っているうちに、カフコが踏み込んでくる。
拳が放たれる瞬間、とっさにステッキで防御する。
バキィン!
ステッキはへし折られて、宙を舞う。
しかし、拳の速度は減速して、カナミはかわせた。
「でいやあああああッ!」
カナミは裂帛の気合とともに魔法弾を撃つ。
バァン! バァン! バァン! バァン! バァン!
連射した魔法弾はカフコの身体のそこかしこに当たる。
しかし、カフコの身体は魔法弾を弾き飛ばされる。
(なんて硬さ! こうなったら――!)
カナミは体勢を立て直して、ステッキの刃を抜いて斬りかかる。
キィィィィン!!
カフコは腕でステッキの刃を受け止める。
「斬れない!」
カナミが力を押しても、一向に斬れる気配がない。それだけカフコの身体が硬いということだ。
そうこうしているうちに、カフコは体勢を立て直して、カナミを見据える。
「ふぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
咆哮によって生み出された音圧は、強烈な衝撃波であり、カナミを襲う。
衝撃波をまともに受けたカナミは吹っ飛ばされて、空き地の塀に叩きつけられる。
「神殺砲!!」
カナミは頭や背中を強打したが、カフコから距離はとれた。
「ボーナスキャノン!!」
カフコが仕掛けるスキを与えず、砲弾を撃ち放つ。
バァァァァァァァァァァン!!
砲弾は見事カフコに命中する。
「なんて凄まじい威力ですか……!」
フクは神殺砲の威力を目の当たりにして、驚愕する。
「これが一人の人間が放つ術ですか!」
「カナミは特別じゃ。それに何よりカフコから、あれだけの攻撃を受けたにも関わらず、すぐに立て直して反撃したことじゃ」
「なるほど、それは特別ですね」
フクはそう言って、カナミを見つめる。
「ハァハァ……!」
カナミは息切れする。
塀に叩きつけられたダメージと砲弾を撃った消耗のせいであった。
しかし、気を抜くわけにはいかない。
戦いはまだ終わっていない。
今の砲弾では多少のダメージを与えたに過ぎない。
硝煙の向こうにまだ直立しているカフコの影が浮かぶ。
むしろ、ここからが本番、と、カナミは思った。
「リュミィ!」
カナミが呼ぶと、リュミィはすぐに飛んでくる。
そして、カナミの想いをすぐに理解したリュミィは光の粒子になって、カナミを包み込む。
粒子に包まれたカナミの背中には、虹色に輝く妖精の羽が生える。
「フェアリーフェザー!!」
羽はかなみが生まれた時からあるかのように、直感で羽ばたかせて舞い上がる。
「神殺砲! ボーナスキャノン!!」
カフコの真上から砲弾を撃ち放つ。
バァァァァァァァァァァン!!
砲弾は直撃する。
「もう一発!!」
間髪入れずにもう一発撃ち放つ。
バァァァァァァァァァァン!!
これも直撃する。
「ハァハァ……!」
二発もの砲弾を撃った消耗で息切れする。
しかし、それも一瞬のこと。妖精の羽は、周囲の空気に溶け込んでいる魔力を取り込み、カナミの消耗した魔力を回復してくれる。
ガシィ!!
爆煙から腕が伸びて、カナミの足を掴んだ。
そのまま、力任せに投げ飛ばされて、地面に叩きつけられる。
「ガハァッ!?」
叩きつけられたカナミは歯を食いしばって、再び羽を羽ばたかせて舞い上がる。
「ボーナスキャノン!!」
カナミは四発目の砲弾を撃ち放つ。
バァァァァァァァァァァン!!
四発も命中したカフコの身体はもうボロボロになった。
(あと、一発で倒せる……!)
カナミはそう直感し、即座に神殺砲の砲弾を撃ち放つ。
バァァァァァァァァァァン!!
五発目の砲弾が命中し、カフコは地面に落ちる。
「ハァハァ……倒したわ……!」
カナミは息切れする。
妖精の羽は魔力は回復しても、身体のダメージや体力までは回復しない。
カフコから受けたダメージ、神殺砲は五発撃ち放った反動はかなり消耗になった。
「油断するでない、カナミ!」
煌黄が檄を飛ばす。
ガシィ!!
ボロボロになったカフコは腕を伸ばしてあるモノを掴む。
「うぇぇぇぇぇ、なんでオレェェェェェッ!?」
それは、貧乏神のミドリだった。
「ミドリ、どうして!?」
「あ~、あれはまずいぞ」
「まずいですね」
狼狽するカナミに対して、煌黄とフクは神妙な顔つきで言う。
「何がまずいの?」
「あやつはお主の不幸。ミドリは不幸を引き寄せる貧乏神。相性がいいということじゃ」
「相性がいい、と、どうなるの?」
「融合する」
「融合!?」
「ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!?」
カフコはこれまでで一番の雄叫びを上げる。
ブゥゥゥゥゥゥゥン!!
雄叫びによって竜巻が巻き上がる。
「くッ!」
竜巻によって飛ばされないよう、その場に踏みとどまる。
踏みとどまるために、一瞬カフコを目を離した。
その一瞬の間に、カフコの姿が変貌する。
身体の筋肉がせり上がり、かつ鉄のような光沢を放っている。そして、捕まっていたミドリの姿が消えた。
「これは厄介なことになったぞ」
「他人事みたいに言わないでください。カナミさんが敗れれば、私達も危ないのですよ」
「うむ、最悪消滅の危険もあるじゃろうな」
「では、何故そんなに落ち着いていられるのですか!?」
フクは大声を上げると、カフコはその声を聞き取って、そちらを見る。
「ひ!?」
フクは自分が標的にされたことを悟り、悲鳴を上げる。
戦いになれば、自分は無力で、たちまちやられてしまうことがわかっているからだ。
カフコは腕から魔法弾を生成する。
カナミが神殺砲を撃ち出してきたのを真似たのだろう。
「ふぉッ!!」
そして、カフコは激昂し、魔法弾を撃ち出す。
「――!?」
その魔法弾は、フクに向けられていた。
バァァァァァァァァァァン!!
神殺砲と同じ爆発が起きる。
「あ、あぁ……!」
フクは震えたまま、その場で立ち尽くしていた。
「だ、大丈夫だった?」
カナミが震える声で問いかける。
「は、はい、おかげさまで……」
フクも同じように答える。
どうしてこんなことになったのか困惑していた。
魔法弾にあわや当たるかと思った時、カナミが前に飛び出てかばった。
カナミに助けられたのだ。
「どうして、人間が神を助けたのですか?」
「え、人間? 神? あはは、そんなこと、考えてなかったけど……」
「考えてない?」
「フクちゃんが危ないって思ったら助けないと、と思って……くうう……!!」
カナミは歯を食いしばって立ち上がる。
「おまえ、じゃま……」
カフコが言葉を話す。
「あんた、喋れたの?」
「ミドリと融合した影響じゃろうな」
煌黄にそう言われて納得する。
「ミドリは、あいつを倒したら元に戻るの?」
「倒したらな」
「そう!」
カナミは笑顔で答える。
カフコを倒せば、ミドリは元に戻って、不幸を倒したカナミは幸せになれる。
単純かつ何もかもうまくいく話だ。
「だったら、私が倒せばいいだけの話よ!!」
カナミは再び飛び上がる。
「ふぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
カフコも雄叫びを上げて飛ぶ。
「神殺砲! ボーナスキャノン!!」
「ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
バァァァァァァァァァァン!!
カナミの神殺砲とカフコの魔法弾が激突する。
爆発は何度も続く。
さながら連発花火のような轟音だった。
「凄いですね、彼女」
フクが呟く。
「ああ、そうじゃ」
「あなたが安心している理由、わかりました」
「ホホホホ、そうじゃろそうじゃろ」
煌黄は笑う。
バァァァァァァァァァァン!! バァァァァァァァァァァン!!
バァァァァァァァァァァン!! バァァァァァァァァァァン!!
激突は続く。
爆風は地上に届き、煌黄やフクを吹き飛ばしそうな勢いだった。
「しかし、儂はもう大丈夫ではないかもな!」
「ど、どうしたのですか!?」
「ここまで爆発が続くとのう、結界がもたなくなってきた」
「それは一大事です」
「カナミよ、結界が壊れる前に決着をつけてくれ」
煌黄は杖にしがみついた体勢で、カナミを見上げる。
「ハァハァ……!」
カナミは肩で息をする。
魔力はリュミィの妖精の羽のおかげで回復するものの、体力はそうはいかず、身体は傷ついていく。
カフコとの魔法弾の撃ち合いは互角だが、カフコの魔力は衰えている気配はない。
このまま撃ち合いを続けても敗色濃厚。
ならば、イチかバチかに賭けて仕掛けるしかない。
「ジャンバリック・ファミリア!!」
カナミは鈴を飛ばして、カフコの周囲を飛び回る。
バァン! バァン! バァン! バァン! バァン! バァン! バァン! バァン! バァン! バァン!
鈴から放たれる魔法弾が雨あられのように撃ち出される。
その魔法弾は、威力が小さく、カフコに決定的なダメージにはならない。
ただダメージを与えることよりも大事な意味があった。
「ふぉッ!? ふぉッ!? ふぉッ!? ふぉッ!?」
魔法弾に撃たれるたびに、カフコは撃たれた方向を見る。
そのおかげで、魔法弾を撃ちながら飛び回っているカナミを見失いつつあった。
さらにその間に、魔力の充填も済ませていた。
(これで撃てる! 倒せる!!)
カナミはステッキの砲身をカフコに向ける。
「ふぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
カフコは雄叫びを上げる。
本能的に身の危険を感じ取っての行動だった。
それによって砂塵が巻き上がる。
しかし、カナミの照準を狂わせるような目くらましにならなかった。
(これなら当てられる!)
カナミがそう確信した瞬間だった。
「――!?」
その時、カナミの左目に小石が当たった。
小石はカフコの咆哮によって宙を舞ったものが、たまたまカナミの左目に当たった。それだけの話だった。
しかし、その当たった場所が最悪だった。
額、鼻、口のように顔の他のどこかだったら傷にもならず、ちょっと集中が阻害される程度のものになっていた。
目に直撃したことによって、瞼を閉じて上がらなくなってしまった。
片目になったせいで、遠近感がわからなくなり、照準が狂ってしまった。
(このままじゃ当てられない!?)
照準を修正しようと焦る。
しかし、片目で遠近感が掴めないまま、狂ってしまった照準を修正がきかない。
「ふぉッ!」
そうこうしているうちに、カフコはカナミの姿を捉えた。
「あ……!」
これは撃たないとやられる、と、カナミは思った。
でも、撃っても当てられない。
この一撃が当てられない、ということは、カフコに、つまりは自分の不幸に負けるということだ。
やっぱり、自分の不幸には勝てない。
そんな考えがよぎる。
「カナミさん!」
フクの声がする。
そして、手の上にフクが乗っていることに気づく。
「フクちゃん、どうして?」
「私が力を貸します! 大丈夫です、絶対に当てられます!! ――福の神がついているのですから!!」
フクが力強く言って、カナミは後押ししてくれた。
「フクちゃん、ありがとう!!」
カナミはフクのおかげで、当てられると確信した。
「ボーナスキャノン・アディション!!」
全力の特大砲弾を撃ち放つ。
バァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!
特大砲弾は見事カフコに命中し、大爆発を起こす。
「やった……」
爆風にあおられたのをきっかけに、カナミは力尽きて倒れる。
爆風から姿を現したカフコはもう影だけになっていて、煙とともに霧散していく。
「カナミさんの勝利です」
「フクちゃんのおかげよ」
「いえ、カナミさんでなければ勝てませんでした」
「でも、私じゃなかったらあんなに強い不幸が出てこなかったんじゃない?」
「あ……! それもそうですね! アハハハ!!」
フクは気づくと同時に笑う。
「笑う門には福来る」
そんな言葉が脳裏をよぎた。
「今の状況はまさしくそうじゃのう、ホホホ」
煌黄は笑いながらやってくる。
「コウちゃん、結界の方、大丈夫だった?」
「かなり無茶したが、まあまあ大丈夫じゃよ」
「まあまあ大丈夫ってどういうこと?」
カナミが訊くと、バツが悪そうに煌黄は言う。
「ところどころ壊れてしまってのう」
煌黄が指差した方を見ると、空き地の塀がところどころ崩れている。
「あぁ……」
カナミは嘆きの声を漏らす。
「せっかく不幸を倒したのに、なんでこんな不幸に……?」
「こればっかりは戦いによるものじゃからな、むしろこの程度で済んで幸運といったところじゃろうな」
「そんな……」
あの壊れた塀の修繕費は、自分の給料が差し引かれる。そう思うと憂鬱になった。
「カナミさん!」
そこへ、フクが元気に呼びかけてくる。
「え、何?」
「助けていただいて、どうもありがとうございます!」
フクはペコリと一礼する。
「え、いやいや、私の方こそ助けてくれてありがとう! フクちゃんのおかげで勝てたわ!」
カナミはフクの真似をしてペコリと一礼する。
「カナミさん、あなたは不幸の依代として人並外れていますが、同時に幸運を手繰り寄せる才能が神懸かっています!」
「そ、それはどうも……」
褒められているはずなのに、どうしてか素直に喜べない。
「私、福の神は確信しました」
「確信したって何を?」
カナミは問うと、福の神は満面の笑顔で答える。
「あなたは神になるべき人間です!」




