“戦いのあと”
腰を上げた少年の上着の内側から、着信音が鳴り響いた。
少年は驚きの表情を浮かべながら、壊れてしまったはずの赤い携帯電話を取り出し、応答アイコンに触れた。
「キョーカか」
『その通りでございます。生きてるよね、ちゃんと。三時間ぶり、じゃないのか、えーっと、三百時間くらいぶり? おはよう? こんにちは?』
少女の声に、彼は苦笑する。
「例によって意味不明だけど、そうだな、今のこっちの挨拶は、今年もよろしくお願いします、かな」
『お。おー、なるほど。明けまして、おめでとう』
五稜郭の見張り台の階段を降りながら、少年は疑問を口にする。
「今までどうしてたんだ」
『いやもう、“ニーズヘッグ”の中身の処理と連続複写にサーバが耐えられなかったみたいでね、というか黒須君なにやってんのさもー。結果的に無事で良かったけどさー。もー』
「おい、大丈夫か」
『あー、うん。ちょっといつもより稼働時間が長くてさ、充電不足かな。うん』
「疲れてるなら、明日にしたらどうだ」
少年の言葉に、少女は不機嫌そうな声を上げる。
『黒須君はゆっくり休めてるみたいじゃないの』
「そうでもなかったぞ。“術式”は動かなくなるし、街の人たちへの説明も大変だった」
『なるほどなるほど。お疲れ様です』
「まあ、説明はほとんど師匠がしてくれたんだけどな」
『関さんがお疲れ様だよ!』
でもほんと無事で良かったよー、と繰り返す少女の声を聞きながら、少年は砦から外に出た。
正午を知らせる鐘の音が聞こえてくる。太陽の光に目を細めつつ、彼は呟く。
「……眩しいな」
『あー、そっか。そっちは昼だもんね』