第1話 悪役令嬢に転生したので、破滅する前に推しへの課金を始めます!
悪役令嬢作品を読んでハマってしまい、このジャンルが面白くて書いてみたくなりました。
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それでは第1話をご覧下さい☆
「リリアーナ・ヴァン・アドラー。君との婚約を破棄させてもらう」
華やかな夜会、大勢の貴族たちの前で、第一王子が勝ち誇った顔で私を指差す。その隣には、悲劇のヒロインぶってうるうると涙目を浮かべる男爵令嬢。
……という夢を、私は10歳の誕生日に見た。
うんうん、知ってる知ってる。これ、乙女ゲーム『光のレゾナンス』の終盤の確定イベントよね。
前世の記憶が濁流のように押し寄せ、自分がやり込んでいたゲームの悪役令嬢に転生してしまったことに気づいた瞬間だった。
「いやいや、待って待って。冗談じゃないわよ」
ベッドの上で飛び起きた私は、小さな自分の手を見つめて頭を抱えた。
リリアーナ・アドラー。将来はわがままで傲慢な悪役令嬢に育ち、聖女であるヒロインをいじめた罪で、十六歳の時に婚約破棄。その後、実家は没落し、本人も国外追放されて行き倒れるという、救いようのない生きるゴミ箱みたいなキャラクターだ。
「破滅ルート確定じゃない。でも――」
私はふと、口元をニヤリと歪めた。
普通なら、ここで「破滅を回避するために王子の好感度を上げなきゃ!」とか「聖女と仲良くならなきゃ!」と焦るのだろう。
だが、前世で公私ともに限界オタクだった私は、全く違う斜め上の結論に至っていた。
「王子? 聖女? どーーーでもいいわよ! そんなことより、この世界にはシード様がいるじゃないの!!」
シード様。
それはゲーム『光のレゾナンス』において、攻略対象でもなければ、まともな立ち絵すら与えられていない、ただの背景モブ文官である。
王宮の書類作業のシーンで、画面の端っこに小さく映り込んでいるだけの存在。
しかし! 彼はゲームのボイス設定を「最大」にして、特定のイベント背景を拡大した時だけ、一言だけ喋るという隠し要素があった。その声が、私の前世の最推し声優(超絶イケボの低音ボイス)だったのだ。
さらに、前髪の隙間からたまに見える素顔が、どう見ても「眼鏡を外したら超絶美形」のソレだった。ネットのオタクコミュニティでは『運営の隠し最高傑作』と囁かれていた隠れ神キャラ。
「どうせ十六歳で没落するなら、それまでの六年間、アドラー侯爵家の有り余る財力を使って、シード様を全力で推して貢いで推し活しまくってやるわ!!」
王子なんていう、将来私を捨てる男に使う時間は一秒もない。
私の第二の人生は、推しへの課金(経済支援)のために捧げることに決まった。
それから数日後。
私は父親の「社会科見学」という名目の職場訪問に同行し、ついに王宮へと足を踏み入れた。
アドラー侯爵家の権力を使えば、幼い令嬢が王宮の執務エリアを見学することなど造作もない。
案内役の侍従を適当に撒き、私はゲームの記憶を頼りに、王宮の最果てにある『第三文官執務室』へと向かった。
そこは、他部署から押し付けられた雑務や、処理の終わらない書類が山積みにされる、王宮の墓場と呼ばれるブラック部署である。
ギィ……と立て付けの悪い扉をそっと開けると、そこはまさに紙の樹海だった。
部屋の奥、山積みの書類の隙間に、彼はいた。
「はぁ……。この予算書、計算の前提から間違っているじゃないですか。やり直しですね……」
低い、鼓膜がとろけるようなバリトンボイス。
少し癖のある黒髪が長めの前髪となって目元を覆い、安物の丸眼鏡をかけている。仕立ての悪い煤けた文官服を着ているが、その背筋はすっと伸びていて美しい。
間違いない。本物のシード様だ……! 生きて動いて喋ってる……!
私は感動のあまり胸を押さえ、一歩踏み出した。
「あの、失礼いたします!」
「……え?」
シード様がビクリと肩を揺らし、こちらを振り向く。前髪の隙間から覗く瞳が、警戒に細められた。当然だ。こんな薄汚い部屋に、仕立ての良いドレスを着た侯爵令嬢が一人で現れたのだから。
「ど、どちら様でしょうか。ここは子供が遊びに来るような場所では……」
「私、リリアーナ・ヴァン・アドラーと申します! シード様、あなたにお会いしに来ました!」
「……私を? どこかで、お会いしましたっけ……?」
困惑するシード様。その困り顔すら最高に尊い。限界を迎えた私のオタク脳は、挨拶もそこそこに、持参していた「初回の課金アイテム」である物を机にドンと置いた。
「これをつかってください!」
「……これは?」
「我が家のお抱え魔導師に特注で作らせた『魔力回復クッキー(超高級品)』と、最高級マナポーションです! それと、シード様が座っているその安物の椅子は腰に悪いですわ! 明日、我が家で使っている特注の極上チェア(魔導クッション付き)をここに搬入させます!」
「は? いや、お待ちください、私はただのしがない下級文官で――」
「シード様!わたくし見ておりましたの! あなたのその山のような書類を、一切の無駄なく仕分ける手捌き!そして流れるような美しい文字! 完璧すぎますわ! あなたは天才です! 偉大です! 世界一美しい文官です!!」
「なっ……!?」
シード様が、わかりやすく絶句した。
前髪に隠れて見えづらいが、耳の付け根が真っ赤になっている。
彼は知らないのだ。自分がどれほど有能かということに。
ゲームの設定では、彼は「読んだ本をすべて完璧に理解し、再現・改良できる」というバグレベルの頭脳を持っているが、出世欲が皆無なため、手柄をすべて上司に譲ってここで泥のように働いている。
周囲からは「要領の悪い無能」と笑われ、誰からも褒められたことのない人生。
そこに、大貴族の令嬢がやってきて、自分の仕事をピンポイントで全肯定してきたのだ。衝撃を受けないはずがない。
「ですから、そんな体に悪い生活は駄目です! 私が全力であなたをサポートしますわ!」
「あ、あの……アドラー令嬢? からかっているのなら、他を当たっていただきたいのですが」
「からかう? まさか! 私は本気です! では、明日またクッキーを焼き直して持ってきますわね! ご機嫌よう!」
言いたいことだけ爆速でまくし立て、私は満足感に包まれて執務室を後にした。
あのお顔、あの声、あの照れ方。生きててよかった。完全にガチャでSSR引いた気分だわ。
一方、残された執務室で――。
シードは、机の上に置かれた、宝石箱のようなケースに入った魔力回復クッキーを見つめていた。一切の不純物がない、高純度の魔力を感じる。これ一つで、魔導師団の団長が1ヶ月血眼になって働くレベルの至高の逸品だ。
「リリアーナ・アドラー……。侯爵家の、わがままなお嬢様、ですか。なぜこんなところに」
シードはそっと、自分の安物眼鏡のブリッジを押し上げた。
彼の冷徹な頭脳は、彼女の瞳に「侮蔑」も「からかい」も一切なかったことを正確に分析していた。そこにあったのは、純粋で、狂気すら感じるほどの熱い『好意』と『賛辞』だ。
誰も見てくれなかった、自分の仕事。
それを、あの幼い少女は全肯定した。
「……天才、ですか。生まれて初めて言われましたね」
これが、後に世界を裏から支配する『最凶の黒幕』と、彼を無自覚に育て上げてしまう『オタク令嬢』のすべての始まりだった。
読んでくれてありがとうございます!
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次回、初めての推し活(物理)と、小さなやる気スイッチ ですわ!




