第0話 悪役令嬢に転生したので、破滅する前に推しへの課金を始めます!
悪役令嬢作品を読んでハマってしまい、このジャンルが面白くて書いてみたくなりました。
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それでは第1話をご覧下さい☆
「リリアーナ・ヴァン・アドラー。君との婚約を破棄させてもらう」
華やかな夜会の真ん中で、第一王子が私を指差している。その隣には涙を浮かべた男爵令嬢が寄り添い、周囲を取り囲む貴族たちは、これから始まる断罪劇を見逃すまいと私たちへ注目していた。
私はこの光景を、嫌というほど知っている。
王子から告げられる婚約破棄。次々と明かされる悪事。そして最後には国外追放を言い渡され、侯爵家まで没落する悪役令嬢。
だってこれは、前世で何度も遊んだ乙女ゲーム『光のレゾナンス』の終盤イベントなのだから。
♢
「…………最悪ですわ」
目を覚ました私は、天蓋付きのベッドの上で頭を抱えた。
今日は十歳の誕生日。そんな日に前世の記憶を取り戻したうえ、自分の未来まで夢で見せられたら、さすがに寝直したくもなる。
けれど、残念ながら全部覚えている。
私はリリアーナ・ヴァン・アドラー。アドラー侯爵家の一人娘にして、『光のレゾナンス』でヒロインを苦しめる悪役令嬢。そして十六歳になった私は、第一王子から婚約を破棄され、最後には国外へ追放される。
(いやいやいや、待って。十六歳って、あと六年しかありませんわよ!?)
頭の中でゲームのシナリオを思い返す。
まだ十歳なら間に合う。王子との関係を改善して、将来現れるヒロインとは絶対に敵対せず、ゲームでリリアーナがやらかした悪事を一つずつ避けていけばいい。よし。今日から破滅回避のために全力で――。
「…………あれ?」
そこで、私の頭に一人の男性の姿が浮かんだ。
黒髪、丸眼鏡、長い前髪。そして、一度聞いたら忘れられない低い声。
「シード様……?」
口にした瞬間、王子もヒロインも婚約破棄も国外追放も、全部まとめて頭の端へ吹き飛んだ。
(待って。この世界が『光のレゾナンス』なら、シード様もいるってことよね? 王子も聖女様も実在するんだから、当然シード様だって……いる!!)
「本物のシード様に会えるじゃありませんの!!」
思わずベッドの上で立ち上がりそうになり、慌てて掛け布団を押さえた。
シード・キャメロン。
攻略対象ではない。物語の重要人物でもない。まともな立ち絵すら用意されておらず、王宮の執務室で書類を処理している場面の端に映り込んでいるだけのモブ文官。
普通なら、名前すら覚えられないような存在だった。
しかし! 彼はゲームのボイス設定を「最大」にして、特定のイベント背景を拡大した時だけ、一言だけ喋るという隠し要素があった。その声が、私の前世の最推し声優だったのだ。
最初に気づいたときは、さすがに自分の耳を疑った。
(え? 今の声……推しじゃない?)
イベントを最初からやり直し、音量を最大にして、攻略対象そっちのけで背景へ集中した。そして、ようやく見つけた。
『……こちらの書類、修正しておきました』
たったそれだけ。本当に、それだけだった。
でも間違いなかった。
(推しだーーーー!!)
そこからは早かった。
画面の端に映る黒髪の文官を見つけては拡大し、イベントが追加されるたびに背景まで確認した。長い前髪と丸眼鏡で顔はほとんど隠れていたけれど、よく見ればその奥の顔立ちまで私の好みだった。
名前を調べて、シード・キャメロンだと分かったときには、攻略対象たちへの興味など綺麗に消えていた。
なのに、モブはモブ。
台詞は増えない。専用イベントもない。当然、攻略ルートなんて存在しない。
もっと喋ってほしい。もっと仕事をしているところを見たい。眼鏡の奥の顔をちゃんと見せてほしい。せめてもう一言くらい台詞をくださいと願い続けたけれど、最後まで何もなかった。
それが今はどうだ。
(同じ世界にいる。本物が生きてる。喋る。動く。しかも王宮で働いている場所まで知ってる……えっ、これ会いに行けるんじゃない!?)
心臓が一気に騒がしくなった。しかも今の私は、アドラー侯爵家の令嬢である。前世ではどれだけお金を積んでも追加されなかった推しの出番。それが今なら、自分から会いに行ける。
「王子の好感度を上げて、聖女様と仲良くなって、破滅を回避して……って、そんなことよりシード様ですわ!」
もちろん破滅するつもりはない。国外追放も侯爵家の没落も困るし、家族まで巻き込む未来なんて絶対に変える。
でも、それと推し活は別問題だ。
破滅を避けるためだけに六年間を使って、せっかく同じ世界にいる推しを放置するなんて、前世の私が知ったら泣く。
(破滅も回避する。シード様も推す。どちらか一つを選ぶ必要なんてないじゃない!)
それに、今の私には前世になかったものがある。
侯爵家の財力。
人脈。
そして、本人に直接届けられる距離。
「待っていてくださいませ、シード様。前世では画面越しに応援することしかできませんでしたけれど、今度のわたくしは違いますわ!」
何が好きなのか知りたい。どんな仕事をしているのか見たい。困っていることがあるなら助けたいし、必要なものがあるなら届けたい。
推しが幸せそうに書類を捌いている姿を、特等席で眺めたい。
考えれば考えるほど、やりたいことが増えていく。
「破滅ルート? そんなもの回避してみせますわ! それより今は、全力で推し活ですわ!!」
こうして十歳の誕生日、私の第二の人生は、破滅回避よりも先に推しを探すところから始まったのだ。
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