第二話 召喚された五人
召喚されたのは合計で五人だった。
夕食の席で、蓮は改めて全員の顔を確認した。
相沢優太、十七歳。
蓮と同い年で、明るい茶髪をした活発そうな少年だ。
食事が運ばれてくるなり「うまい!」と声を上げ、向かいの席の神官に「この肉なんですか?」と質問攻めにした。明るく、フットワークが軽い。少し考える前に動くタイプだが、場の空気を明るくする力がある。
田中奈々、十六歳。
静かで、物腰が柔らかい黒髪の少女だ。
召喚直後は泣いていたが、使用人の年配の女性が膝に手を置いて「大丈夫ですよ」と言うと、しっかり頷いてそれ以上泣かなかった。芯の強さと、人の心に寄り添う柔らかさを同時に持っている印象を受けた。
川上大輝、十八歳。
三人の中で一番体格が良く、物静かだが存在感のある少年だ。
食事の間も周囲を観察しながら、口数少なく食べていた。召喚のことを動揺している様子がなく、既に状況を受け入れている風に見えた。
そしてアリア・ソルヴェイン。
この世界の住人でありながら、召喚の光の中にいた少女。
十六歳。長い銀髪を一本に束ね、紫の瞳を持つ凛とした顔立ちの少女だ。帝国騎士団の見習い騎士の制服を着ており、腰には細剣を帯びている。食事中も姿勢が良く、周囲を見る目が鋭い。
蓮はアリアのことを食事の間中、さりげなく観察した。
(この子は目の奥に何か重いものを抱えている。笑わない。でも冷たいわけじゃない——何か、大きな責任を背負っているような目だ)
席が近かったこともあり、食事の終わり際に蓮はアリアに声をかけた。
「あなたはこの世界の人なんですね。召喚の光の中に一緒にいたのは、何か理由があるんですか?」
アリアは蓮を見た。一瞬だけ警戒の色が浮かんだが、すぐに消えた。
「……詳しくは鑑定の儀の後に話されると思う。私自身も、今日初めてこの神殿に呼ばれたから、全てを知っているわけじゃない」
「そうですか」
「あなたは……あまり動揺していないように見える」
蓮は少し考えてから答えた。
「動揺してますよ。ただ、動揺して騒いでも状況は変わらないから」
アリアは少しだけ、目を細めた。「……そういう考え方をする人は珍しい」
「そうですか?」
「少なくとも私の周りには、いなかった」
アリアはそれだけ言って、視線を食事に戻した。会話はそこで終わったが、蓮には一つ確信が生まれた。
(アリアは正直な人だ。気を遣って嘘をつくタイプじゃない。それは信頼できる)
◆ ◆ ◆
夜、同室になった優太が話しかけてきた。
「蓮って、召喚されてからずっと落ち着いてるよな。怖くないの?」
「怖いよ」
「そうは見えない」
「怖いのと、落ち着かないのは別のことだから」
優太は少し考えてから、「なるほど?」と言った。
「俺さ、ちょっとわくわくしてんだよね。異世界転生じゃん? 小説で読んだことあるやつ。チートスキルとか来たら最強じゃん」
「チートスキルが来たとして、それで魔王を倒せると思う?」
「倒せるっしょ、チートだし」
「チートでも、使い方を知らなければ意味がない」
優太は口をとがらせた。
「……蓮ってなんかほんとに落ち着いてるよな。俺の方が年上に見える」
「俺の方が年下じゃないですよ。同い年でしょ」
「いや、なんかそんな感じがするって話」
蓮は苦笑した。
優太は悪い人間じゃない。むしろ素直で明るい。こういうタイプが一人いると、チームの空気が安定する。
「優太は、鑑定が楽しみなのか?」
「めちゃくちゃ楽しみ。蓮は?」
蓮は少し間を置いた。「楽しみとは言いにくい。ただ、知りたいとは思う。自分に何があるか」
「それって同じことじゃない?」
「……そうかもしれないな」
蓮は天井を見上げた。石造りの天井に、蝋燭の光が揺れていた。
(知りたい。自分に何かがあるのかを。もし何もないなら——そのときはそのときで、考える)
眠りに落ちると、また夢を見た。
例の夢だ。
三本の剣が交差する紋章。廃墟に差し込む光。遠くから聞こえる声。
しかし今夜は少し違った。
夢の中の自分が、誰かの手を握っていた。
細い手だった。誰の手かはわからない。
ただ、その手を離してはいけないという確信だけが、夢の中でも鮮明に残っていた。
目が覚めると、夜明け前だった。
蓮は手のひらを見つめた。誰かの手を握った感触が、まだかすかに残っている気がした。
(……この夢には、意味がある)
まだわからない。しかし、そう確信していた。




