趣味で仕事を選ぶ男への依頼
戦闘用のスタイルを考える。
元々着ていた布と皮の鎧は今回はしまっておく。
武器は色々使えるようだが、基本ショートソード2本とバックラー。
ブラウスに、皮のコルセットタイプのアーマー。強調される胸。
ロングブーツに人工スキンを延長し、ミニスカートで腰部分を隠せば絶対領域の完成だ。
ミニでなく膝上までのスカートならもっと隠れる。
だが、それでは領域が見えない。わかるだろ――そういうことだ。
髪はロングヘアの方が好ましい。銀髪か、金髪か、黒髪か――悩ましい。
ロングブーツと人工スキンの延長は可能なのか、試す必要があるな。
当面はタイツで隠すことにしよう。
「お嬢、人工スキンは無機物にも定着するのか?」
「するだろう。元々は義手を隠すための素材だ」
なるほど。レンに人工スキンを施すうちに、自分でも元の用途を忘れていたらしい。
「ブーツに延長して足に見せるのも可能だな」
「可能だよ。本来の使い方はそれに近い」
「セト君の審美眼を期待しているよ」
紅茶を飲みながら、セラは左手をひらひらとさせた。
冗談めかしたその仕草に苦笑しつつ、ふと視線を横にやる。鏡の前では、レンが自分の姿をじっと見つめていた。
やがて、小さく笑ってみせる。……笑ったのか、照れたのか。
その表情はどこかぎこちなくて、けれど確かに、今までにないものだった。
「さて、目の保養もできたし。セト君、白虎調査は任せたよ」
「すっかり忘れてた」
「頼むよ。様子伺いだけでも結構だが、髪の1本……いや、一房あれば、君の借金はなくなる」
「そんなに高価なのか?」
「存在自体が希少な上、魔法防御に特化してるんだよ」
「すごいんだな」
「すごいよ。そのバックラーよりは劣るがね。……そのバックラーなら、この家3軒建ててもお釣りがくる」
セトはレンが手にしていたバックラーに目をやる。古びた皮が、血と汚れで黒ずんでいた。
「状態が良ければ、もっと高価だよ」
セトの視線に気づいたか、セラは笑う。
「だが、手放す気はないだろう」
「当たり前だ」
そもそも、自分のものでもない。
「冒険者の大半は、腕試しか、先に進むためだが……そのバックラー目当ても多かったと思うのに、君は即答なんだな」
何が嬉しいのか、セラは口元に手を当てながら笑う。
「趣味が仕事になったのか、仕事が趣味なのか……わからないね」
満足したのか、セラは立ち上がる。
「バックラーもそうだが、レンの存在自体が“価値”を持ち始める。気をつけてくれよ」
セラはルナと共に出ていった。
レンは何度も手を振っている。ルナとも友達になったのか――微笑ましい。
「あー……着付けの方法、聞いてない。再現できるかな」
借金返済の兆しは見えた。だが、気が重いのはなぜだろう。
そうだ。これは“最強スケルトン”と共に、“戦い”に向かう話なのだから。