新居探索とこれから
城の探索と言っても、この砦の城は外から見たほど大きくはない。
いや、十分に大きいのだけれど、国の本城と比べるとやはり小ぶりだ。
構造はいたってシンプル。一階に大広間、二階にいくつかの部屋、三階には物見櫓──そんな造りになっている。
「案外小さいか。でも、手の加えようで面白くなるかな」
ルナが換気をしてくれたおかげで、室内の空気は悪くない。ただ、窓らしい窓がほとんどないため、どこか薄暗い。
兵の宿舎は平屋で横に長い。さらに奥には、高台に開けた広場が広がっている。
帝国との戦時には、この場所に兵を潜ませていたのだろう。
国を攻めようとすれば、背後から砦に突かれる──そんな地形だ。
「ここ数年は練兵場として使っていたようですが、軍備縮小の影響で、それも無くなってきたそうです」
フィーナがそんなふうに教えてくれた。
「無用というわけではないのですが、国としても、もはや必要としていない場所なのでしょうね」
「砦の周りの様子は──ああ、モナが帰ってきたら聞くか」
【鍛錬場も見たい】レンが目を輝かせながらそう言う。
城のすぐ隣にある鍛錬場は、二階からもよく見える位置にある。かつてはここで兵士たちが練習していたのだろうか。それとも、宴席の余興でもやっていたのか。屋根のある半屋外の造りで、どこかルナの道場に似ていた。
「お祖父様は、ここを参考にしたんだと思いますよ」
気がつけば、ルナがすぐ横に立っていた。
「ディグも、ここに来たことがあるのか?」
「若い頃は、いろいろな所を巡っていたみたいです。ここにも滞在したことがあると聞きました」
「自由に動いてるのは昔からか。……で、ディグは今回の件、反対しなかったのか?」
「いえ、全く。むしろ、この話を聞いたときから、こちらに来る気満々でしたよ」
「ははっ。まぁ、広いからな。ディグが来てくれるなら、それはそれで助かる」
「ありがとうございます。そう伝えておきますね」
軽く頭を下げるルナ。
そのとき、ゆっくりと、だが確実にこちらへ向かってくる誰かの気配。
「……モナか?」
絵だと蜘蛛の巣にまみれたモナが帰ってきた。
「ひとまわりしてきたけど、手入れしないと道が少ないね。藪とか、潰れた柵とかで通れないところ多い」
「蜘蛛の巣だらけだな……まぁ、俺たちが通る道さえ確保できれば、当面は困らないけどな」
モナは肩の蜘蛛の巣を払いながら、ぽつりと提案した。
「そのさ、うちの兄弟、連れてきてよければ。ある程度、整うと思うよ」
「整うって……?」
「まぁ、遊び場にしてるうちに、勝手に枝とか折れていくから。道もできるし」
まさかの原始的整備法だったが、それはそれで理にかなっている。
「手入れの手間が省けるなら助かるよ。住む場所とか、ご飯は大丈夫か?」
「山で勝手にやるよ。セトが許してくれるなら、今度呼んでくる」
変なのが来るんだろうなという覚悟はしておく。
「いいよ。賑やかな方が、面白いしな」
「ありがと」
モナは、どこか嬉しそうに笑った。蜘蛛の巣だらけの顔で。
ヴェルが見当たらないと思ったら物見櫓にいた。
「なんだこんなところにいたのか」
「セトはこれからどしたい?」
「いきなりなんだ?どうしたいも今まで通りだぞ」
「ここへきたら今まで通りには行かないよ」
「魔王扱いのことか?アレクはそう言うが、俺は変わらないけどな」
「肩書きは着ているもの、外見と同じで、人を変えるよ」
「以前マグナスが似たようなことを言ってたな」
「魔王認定されたものはそれなりの道を歩いてる。歩いてた」
「それは、魔王認定されたからじゃなくて、元がそう言う人だったんだろ」
「じゃあ、セトはまず何を望むの?」
「戦いとか王様ごっこより──ものを作る場所と、みんなが笑ってられる空間かな。俺が目指したいのはそっちだ」
「ふふっそれは面白いけど、生活基盤からね。セラとよく相談しましょう」
俺の返事で気が抜けたのか、ヴェルはいつものヴェルに戻ったように見える。
俺は別に魔王になったつもりもない。周りからどう呼ばれようと関係ない。
ただ、まぁ確かに遊びより確かに生活基盤からだな。




