変な友人から素敵な家族
夜風が心地よいテラスで、セトは静かにグラスを傾けた。
隣には、白いワイングラスを持つセラの姿がある。
「……ずいぶん、暗躍したんじゃないか」
俺はセラに皮肉まじりに言う。
「暗躍、する前に向こうから打診があったのよ」
「切り札にするためにか?」
「ふふ。切り札って言っても、あの人は遊びにしか使わないわよ。大富豪かポーカーか知らないけど、真面目に政治する気なんてこれっぽっちもないし」
「……それはそれで困るんだが」
「そう? むしろ気楽でいいじゃない。権力にガチガチの後ろ盾より、冗談半分で守ってくれる“変な友人”のほうが、私は好きよ」
セトは苦笑した。 セラは椅子の背にもたれながら、視線を夜空に投げる。
「ま、諦めなさい。あなたには、変な友人も、変な家族も、変な嫁も、いっぱいできちゃったのよ」
「変なって言うな」
「じゃあ、素敵で変な人たち。これで満足?」
「……それは、まぁ」
そう言ってグラスを傾けるセトに、セラは肩をすくめた。
「ね? ちゃんと“あなたの家”ができてきてる」
「あなたが家長になったわけじゃない。私たちが“あなたの家族”を名乗っただけ」
セラはにこりと笑って見せた。
「アレクのことは、後ろ盾で友人。ついでに新居の建築費も持ってくれるわよ」
なんかいつものセラが戻ってきたな。
いつものお団子ヘアを解いたセラは月明かりで美しいのに内面はいつも通りで、妙に安心する。
「何よ笑って、変なこと言ったかしら」
「いや、いつも通りで安心したよ」
「あと返事がまだですけど?」
「返事?」
「アッシュと一緒に保留にされてたのに、アッシュには返事したでしょ」
「あー」
「フィーナもなし崩しに」
「それは……」
――いつの間にか、ルナもテラスに来ていた。 涼しい顔で立っている。
視線を感じて振り向くと、モナがテラスの入り口に控えていた。 口元を押さえて、明らかに笑いを堪えている。
まるで、俺が言い逃れできないように段取りされた構図だ。
「モナも、セトさんがどう返すか見たいって」
ルナも小さく微笑んで言う。
「……」
それでも、セトの表情にはどこか諦めと、少しだけ照れたような笑みが浮かんでいた。
「そうだな、二人ともこれからもよろしくな」
「そうじゃないだろー」
セラがちょっと怒ってる。
「わかったよ」
「俺と結婚してください」
「「はい」」