魔王と切り札と後ろ盾
想像と違った。
煌びやかな王族を想像していた。
いや別世界であるんだが、なんというかアレク=ジウロノアは遊び人だった。
会食の後、別室へ入った瞬間。アレクは砕けた態度で語り始める。
「君が最強のヒモだね。会いたかったよ。あの刀を仕上げて、魔神を多く従える次世代魔王セト」
なんかすごい言われようだ。
「嫁はみんな強いですが、魔王ではないですよ」
すごい偉い人なんだろうが、どうも調子が狂う。
「ブラッドレインは魔人認定だし、君の後ろの獣人もそれに引けを取らない」
「ハーレムのことを聞きたいのはこちらもなんだが、良いかなセト」
「情報交換できるほどのものはありませんよ」
「君のハーレムは、国も教会も無視できない状態なんだぜ」
アレクは笑いながら言うが、その目はまったく笑っていない。
「得体の知れないものを、上はいつだって怖がる。魔神、魔人、そして“自我を持つスケルトン”。どれも、彼らにとっては“想定外”なんだ」
彼は背もたれにぐっともたれ、グラスをくるくると回す。
「君の“嫁”たちは、どれも教会から見れば異端で、国からすれば爆弾さ。しかもそれが一箇所に集まってる。無視しろって方が無理がある」
セトは黙って聞いていたが、ふと視線を逸らす。
「まぁ……そういうの、あんまり気にしてなかったですね。彼女たちは、ただの家族です」
「うんうん、素晴らしい。理想の旦那様だ」
アレクは口笛でも吹きそうな口調でそう言い、続けた。
「理想の家族を作りたいでは、納得しない連中もいるんだよ。それよりは魔王が誕生しようとしているそのほうがよほど現実に近い」
「魔王って俺は弱いですよ」
そう言ったセトに、アレクは片眉を上げて笑った。
「配下より弱い魔王は、以前にも存在したさ」
それがどうした、と言わんばかりの口調だ。
「力の強さと支配者としての価値は、イコールじゃない。君には“求心力”がある。それが一番厄介なんだよ」
「求心力、ね……そんな大層なものじゃ」
「すべての嫁が君のために動く。ブラッドレインが他人に従うなんて、教会の連中からしたら正気の沙汰じゃない。獣人も、あれだけの力を持っていて君を中心に動いている。損得じゃないのがまた厄介だ」
「……」
「そして何より、“最強スケルトン”に心を与えた」
その言葉に、セトは少しだけ口元を引き結ぶ。
「君が何を望んでいようが、何を語っていようが――権力者たちは“結果”だけを見る。蓮華会の“不老不死”技術と同様。教会と王家は、それを独占もしくは配下にしたい」
アレクは立ち上がり、部屋の窓の外を見やる。
「君たちはその渦中にいる。中心に、な」
静かに、だがどこか楽しそうに彼は言う。
「“最強のヒモ”を続けたいなら――政治も知った方がいい」
「それはセラがやるさ」
セトが肩をすくめると、アレクは吹き出した。
「そうだったね。君は財界にも政界にも明るい嫁がいたんだったな」
そして、指を二本、ぴっとこちらに向けてにやりと笑う。
「うらやましいねぇ。自由に恋愛し結婚する。俺の嫁たちは重鎮の娘ばかりでね。俺の自由は少ないのさ」
「こっちも聞いていいか?」
「どうぞ」
「蓮華会は……まだ存在するのか?」
その言葉に、アレクの表情が一瞬だけ陰った。
「以前、ブラッドレインに潰された。そう記録にはある。だが、実際は――その技術を欲しがる権力者が匿った。いや、己のものにしたかったんだろうな。金も、命も、名誉も、その手で永遠に支配したいってやつらさ」
アレクは再び窓の外に視線を向ける。
「潰されたのは“組織”であって、“研究”じゃない。人も成果も、どこかに引き抜かれた。そして、今も動いてる。俺の耳にも、それらしい動きが届いているよ」
「リザの件も、その一環か?」
「可能性はある。あの子が――もし“蓮華会の遺産”だとすれば、ね。」
セトの喉がひくりと鳴った。
「君はどうする? 最強のヒモくん」
アレクは冗談めかして笑うが、その目は冗談ではなかった。
「どちらにせよ。魔王扱いはされると思うよ。俺としてはハーレム仲間として仲良くしたいのだがね」
「権力者が配下にしようとしてるのとどこか違うのか」
「手厳しいね。正直変わらない。本家ノアと教会に対する牽制のカードにはなるからね。ただ君たちが頼る先にもなり得る」
「それを含めてセラが計画してたのかもな」
「そうだね、彼女は有能だよ。あと密かに彼女を狙うものも多かったよ」
「見た目は美人だからな」
「見た目だけじゃない。君が一番わかってるだろ? あの手の女性は、敵に回すと一番怖い」
「そう思うから、味方でいてくれて助かってるよ」
「だったらなおのこと、大事にするんだね。――君の“家族”は、もうただの家族じゃいられなくなるかもしれないんだから」
重くなりすぎる前に、アレクは話題を切り替える。
「さて、それはそれとして。君たちの“新居”、俺に任せる気はないか?」




