まともじゃないのが、ちょうどいい
えぐられた腹部に、人工スキンとヴェルの血を混ぜたものを詰めて、縫合する。
再生能力がどう作用するかは、まだわからない。
レンのときも、同じことを思った。
俺は、不完全な肉体を“治す”ことに、過剰なほど執着しているのではないかと。
道具の修理や、美術品の修復では、依頼人の意図に従うだけでよかった。
だが今、俺がやっているのは、形を取り戻す行為であって、医療ではない。
命を扱っているのに、どこかで“作品”として見てしまっている。
もしかすると──俺はこの“再構築”に、興奮してさえいるのかもしれない。
レンも、リザも……俺のエゴに巻き込まれているのではないか。
ふとレンを見る。レンは迷いなく俺を見つめ返す。
【間違ってない】
心を読まれたのか、それとも偶然の一致か。
そしてレンはリザの髪を優しく撫でる。
モナの時は、ただ助けたいだけで治療した。狩りに行ったのにおかしなことだ。
ヴェルはどうだ、魅力的でもちろんある。向こうが積極的だったから拒まなかった。
それだけか?
傷が治る様に心奪われたのではないか?
ヴェルもアッシュも慕ってくれる。
セラもルナもフィーナも。
「俺はみんなが思うほどまともでも良い人間でもない」
つい言葉に出ていた。
「突然何を言ってるの?」
ヴェルが驚く。
「何か思い悩んでますか?」
「いやごめん、ついよそごと考えてた」
縫合が終わり。
聖水と混ぜたベルの血をリザに染み込ませる。
「「まともじゃないのは最初から知ってるわ」ます」
ヴェルとアッシュの声が被る。
後ろでフィーナが笑ってる。
「あれ、なんかズレてたか俺」
「別に良い人間がモテるわけではないわよ」
ヴェルが少し涙目だ。そんな面白かったか。
「聖人君主がモテるなら、宗教家全員モテてます」
フィーナは肩をすくめる。なるほど、お前も聖人君主とは言えないものな。
「まともな人間は、まず私たちを怖がりますよ。少なくとも──女の子扱いはしない」
アッシュの声は淡々としていた。いや、確かに常人離れしてるとは思うけど。
【まともな人はスケルトンに手を出さない】
他の人が言うならまだしも、自分で言うなよレン。
レンは俺の対面でリザの手を握る。
「セトさんのセトさんらしいところに、惹かれてるだけです」
アッシュがワンドと持つ俺の手に触れる。
「私たちは勝手にあんたに惚れて、勝手にみんなで押しかけてるだけだよ」
反対側から胸を押し付けながらヴェルも俺の手に触れる。
「セトさんがどう思っても、私もグイグイ行きますよ。逆縦四方固めからでどうでしょう」
フィーナ、お前はほんと変態な。知らない技だが、遠慮しておくよ。
……って、どさくさに紛れて腰に手を回すな。
お前、絶対今、肉付きチェックしてるだろ。
「フィーナは治癒魔法かけながら頼む。てか離れて対面でやってくれ」
「わかりました。細身を楽しむのは後にします」
「お前、変態隠さなくなったな」
「家族ですから」
「親しき中にも礼儀ありって知ってるか」
……こいつ、聞こえないふりしてやがる。
「そもそも、まともだったら──ゾンビ延命とか、修復なんてやらないか」
俺が苦笑い混じりに言うと、みんなが静かにうなずいた。
リザも、うなずいているように思えた。
迷うのは後だ。今は、やるべきことに集中しよう。
「アッシュもこの子の以前を知ってるんだろ。一緒にイメージしてくれ」
「わかったわ」
「レン、そのままリザを落ち着かせていてくれ」
レンはリザから目を離さず、うなづく。
そうして、俺たちの作業は終わる。
レンのときとは違い、すぐに結果はわからない。
表面的には腐った部分は見えない。
ただ、青白い肌はそのままだ。
お腹の中がどうなっているのか──縫合の部分は、しばらくこのままにしておく。
回復魔法も気休めにすぎないが、ないよりはマシだろう。
「あと今夜やれるのは、祈ることだけです。私にお任せください」
フィーナが静かに言い、リザの枕元で膝をつく。
【先に戻ってて】
レンは、リザの側を離れなかった。