改築か立て直しか
あれから三日ほど経っただろうか。
――家が狭い。
もともと四人の大人が住むには手狭だった。
それなのに、さらに増える“気配”がある。気配というのは、まあ他人事みたいに言ってるが――俺の嫁が増えそうって話だ。
……いや、自慢じゃない。いや、自慢だなこれは。
「キングサイズのベッド、二つ、いや三つは欲しいよね」
セラが図面と睨めっこしながら、さらっと物騒なことを言う。
こいつ、まだ“保留”のはずなのに、家の増築を前提に動いてるらしい。
俺は図面の端に描かれたベッド配置図を見ながら思う。
……ベッドをハシゴさせるつもりか?
「いっそ全部繋げるか、いやそうすると布団がデカすぎで洗えないか」
「勝手に改装話を進めるなよ」
「いやそっちは忙しいだろうからさ」
「答えになってないな」
「そう?セトくんの生活を支える内助の功というやつだよ?」
【お風呂の洗い場を大きく】
「そうだね、さすがレン。重要だ」
「獣姿で涼しく寝れる場所も欲しい」
レンもモナももう受け入れている。
ヴェルはアッシュを突いて遊んでるな。仲がいいことだ。
ルナはなんか複雑そうだな。
「ルナ、無理に一緒に住む必要はないぞ?」
「無理ではないのですが、あのフィーナ様もここに?」
「ん?それは、今はなんとも言われてないな」
「セトさんお嫁にする基準ガバガバですよ」
ルナに呆れられる。
「断れない男らしい」
その言葉に、少し間があいた。
「それがいけないんです」
ルナがふっとため息をつきながら、俺の肩に手を置く。
「でも、いいです。セトさんが断らないなら、私が断りますから」
「それって――」俺が言いかけると。
ルナは赤面する。
「いや、みんなの相違をまとめる役というか、メイドとしてですね」
「あくまで、私はセラお嬢のおつきとしてですね」
「ルナ、現時刻を持って君を解任する」
セラがとんでもないことを言い始める。
「その上で、君はここに住みたいかね」
沈黙
ルナは、一瞬目を見開き――すぐに視線を落とした。
「……ずるいです、セラお嬢」
ぽつりと、そんな言葉がこぼれる。
「ずるいのはそっちだよ。好きなのに、誰かの後ろに隠れてる」
セラの声音はいつも通り、柔らかいがどこか鋭い。
「ルナ、君がどこに仕えるかなんて、もう誰も気にしないさ。君がどこにいたいか、それだけで選びな」
沈黙のあと、ルナはほんの少し唇を噛んでから、こちらを見た。そして、ひとつ深呼吸して――
「……では、改めてお願いします。セトさん。私を、この家の一員にしてください」
「いいのか?」
「はい。……家が狭くても、賑やかな方が、好きですから」
レンとモナがくすっと笑い、ヴェルが「また一人、落ちたわね」とアッシュに囁く。
アッシュは小さくうなずいた。
ルナに関しては俺というより、この空間が好きなんだろうな。
セラは――満足げに手帳に何かを記録している。
「キングサイズ、もう四つでいいか?」
「全部つなげて大広間にしようか」
「いやだから勝手に増築進めるなって!」
「キッチンとダイニングも広げましょう」
ルナも口を挟みながらの計画会議が、始まってしまった。
立て直した方が早くないか?
そして今夜も、俺の家はまたひとつ――広く、騒がしく、あたたかくなった。