いずれ最強の家族?
女性陣がわいわいと賑やかにしている中、俺は一人、外の縁側でぼんやりと空を見上げていた。どこか遠くへ逃げ出したくなるような、そんな夜だった。
やがて、足音。振り返ると、アッシュが戻ってきた。
「終わったのか?」
「ええ。……少し、話しておきたくて」
彼女は俺の隣に座ると、静かに口を開いた。
「ゾンビ娘の件、大教会には秘匿しなければなりません。報告すれば、即座に処分対象になるでしょう」
「やっぱり、か」
アッシュは小さくうなずき、淡々と続けた。
「不死の研究、それ自体が禁忌です。過去、それに手を出して――滅んだ組織がある」
「……ハスにドクロか」
俺の言葉に、彼女の目が少し驚いたように揺れた。
「ご存じでしたか」
「ああ、フィーナに聞いた。ハスにドクロを掲げて、不死と再生を求めた蓮華会。教会に潰された」
「その残党が……ゾンビに関わっている可能性があります。あの娘も、ただの犠牲者ではないかもしれません」
アッシュの声は、淡々としていながらも、どこか哀しみに濡れていた。
「でも、俺は“誰が作ったか”より、“今そこにいる子をどうするか”の方が大事だと思ってる」
その言葉に、アッシュは少しだけ微笑んだ。
「セトさんは……本当に、厄介な男ですね」
アッシュは少しだけ目を伏せてから、まっすぐにこちらを見た。
「セトさん。私たちは……今、非常に危うい立場にいます」
「危うい?」
「ええ。ゾンビ娘の処置、魂の定着、それを容認したということは――」
アッシュは静かに、はっきりと告げた。
「我々が一線を越えたと判断されるラインに、今、立っているということです」
俺は、何も言えなかった。風の音だけが、妙に大きく耳に響いた。
「この行為を正当化できる術はありません。例え善意でも、大教会にとっては背信行為に等しい。蓮華会の再来と見なされてもおかしくない」
「それでも……やるしかなかったんだ」
俺の言葉に、アッシュは目を細め、口元だけで笑った。
「だからこそ、あなたのそばにいるのです」
「そもそも狩る役割は、アッシュとヴェルの役割じゃないのか?」
俺の疑問に、アッシュは少しだけ眉を寄せた。
「……ええ、確かに“狩る”ことは私たちの任務です。ですが」
アッシュは静かに言葉を継ぐ。
「我々の他にも、同じ役割を担う者たちはいますよ。 その多くは、もっと無慈悲で、もっと徹底しています」
「じゃあ……俺たちが見逃しても、別の誰かが来るってことか」
「ええ。情報が洩れれば、彼らは容赦なく動くでしょう。 彼らにとっては、事情も感情も関係ありません。ただ“存在してはならないもの”を消す。それだけです」
「それはヴェルもわかっているはずです。そしてフィーナとマグナスもです」
俺は息を呑んだ。家の中で笑っているが、彼女達もまたその覚悟を持っているのだ。
「聖撃ごとか」
「長自ら動いてますから、言い逃れはできないでしょう」
「マグナスはなんて」
「もともとあいつは大教会が嫌いなんですよ。だから聖撃を作ったとも言えます」
「フィーナは、聖騎士は大教会の任命だろ」
「あれも我々人外に頼りきりでは体裁が悪いから、教会が箔のために作った称号です」
「尽くす義理は少ないと」
「ええ。覚悟の上ですよ。 ……フィーナも、ああ見えて己の立場をよく理解しています。その上で選んだのです」
「でも、あいつ……俺たちと一緒にいるぞ」
「矛盾はしていません。 あの子は、“正しさ”より“選ぶべき場所”を見たんです。 それが、セトさん。あなたのいる側だったというだけです」
「……俺が引き寄せたみたいに言うなよ」
「違いますか?」アッシュの目が、わずかに揺れる。
「フィーナにとって、あなたは光なんですよ。彼女が踏み込めなかった場所に、あなたはもう立っている」
「俺はただ――巻き込まれただけだよ」
「それでも、“逃げなかった”」
「そう、セト君は逃げないし、断らない!いや断れない!」
いつの間にかセラがいる。キャミソールで出てくるなはしたない。
「聞いてたか、巻き込まれる前に屋敷にいた方がいいかもしれないぞ」
「巻き込んでくれて構わない。と言うか抱き込んでくれ」
「うるさいよ。家の方はいいのか?」
「大丈夫、放蕩娘くらい切り捨てることはできる家だよ」
切り捨てれば見逃してくれるほど影響力のある家なのだろうが、それをさらりと言う。
「ルナは?」
「あれは自由だよ。好きで私についてきてる。そして好きで君の家にもいるのだよ」
俺は深いため息をつく。
「みんなアホなんだな」
俺がぼやくと、セラは肩をすくめて笑った。
「そうだよ、アホじゃなきゃ君になんか惚れない」
「それは褒めてるのか?」
「うーん、褒めてないかも。……でもね、君は自分が思うより注目されているんだ。
君を見てると“自分も飛び込みたくなる”んだよ。不思議とさ」
「わからんな。剣も魔法も使えない。蓄えだってない」
「それ以外の魅力がありますよ」
アッシュがいう。
「顔か!」
「違うなぁ」
セラがすぐ否定する。いや、わかってるけど、少しくらいさ。
「まぁ好きで飛び込むんだ。あとは歓迎してくれると嬉しい」
「お前は、勝手に侵入するけどな」
「そうだよ。私はいつもそうだ」
「お二人の関係は羨ましいですよ」
アッシュが微笑む。
「何言ってる。妹に譲ったつもりだろうけど、君も一緒だよ」
アッシュは少し驚くが
「そうですね。私も好きで飛び込んでます」
他の嫁より少しアダルトな二人が悪い顔してるな。
「ハーレムじゃなくて、仲間ってことでいいんだよね?」
「この後に及んで何言ってるんだ!」
セラが怒ってる。
「金髪のメガネ枠無くなったんだぞ!」
「それは知らないよ」
「いいですよ。一旦保留で」
「こらアッシュ今叩き込めばセト君は断らないぞ」
「だからですよ」
アッシュが柔らかく笑いながらも、ほんのわずかに真剣な色を含ませた。
「焦らずにいきましょう。選ぶのは、セトさんですから」
セラが頬を膨らませる。
「わかったよ、結果的に全部受け入れる羽目になるんだから」
おっと俺に決定権はなかった。
まぁ、そうだな。全部受け入れるよ。
最強のヒモらしくするよ。
セラがにやりと笑い、アッシュも静かにうなずいた。
そして、ほんの少しだけ風が吹いて――どこかで、夜の鐘が鳴った。
「さ。戻ろう。家族が待ってる」
その言葉に誰も否定はせず、自然に歩き出した。
それは、形がおかしな“家族”だったけれど。
俺にとっては、もう充分すぎるくらい――大事な家族。




