両手に花と火種
レンとモナに留守を任せ、ヴェルとアッシュの案内で俺はゾンビに襲われた村へ向かう。
教会の関係者も多く同行するようで、見知った姿も見える。
「フィーナも来るんだな」
「復興と救済ってことで教会も力を入れてるのよ。普段なら私たちは戦闘が終われば用済みだけどね」
「今回はどうして」
「ちょっとね」
ヴェルの口ぶりは重い。
教会の人間はフィーナくらいしか知らないが、一際目立つ鎧の男が、アッシュに声をかけている。
「あれも知り合いか?派手な鎧の男」
「あれも聖騎士よ。ガイナス。まぁ覚える必要もないわよ」
フィーナは拳で戦う聖騎士だが、こっちはイメージ通りというか大剣下げていかにも勇者様だ。
ヴェルにせよアッシュにせよ不機嫌なのは気になる。
そして村に着いた俺たちは、すぐにその惨状に言葉を失った。
家屋こそ無事だが、周囲には死臭が立ち込める。
村の外れで、教会の人間が、大きな穴を掘りゾンビを埋めている。
「ヴェル、俺に手伝えることがあるようには見えないぞ」
俺の問いに、ヴェルは腕を組んだまま目を閉じて答える。
「……もう少ししたら話すわ」
その声も表情も、やはり重い。
穴の脇では、教会の祈祷師が静かに祈りを唱え、火を放つ。
火がゾンビの山を包むと、周囲から嗚咽が漏れた。
身内を焼かれている者もいるのだろう。
感染拡大を防ぐには焼却が一番、それは理屈として理解できる。
だが、感情はそれにすんなり従えない。
その作業がひと段落したころ、重鎧の足音が砂利を踏んで近づいてきた。
ガイナス――先ほどアッシュに話しかけていた男だ。俺の正面に立ち、右手を差し出してくる。
「君が、ヴェルの夫だね? 聖騎士、ガイナスだ。よろしく頼むよ!」
「……どうも」
その堂々とした態度に圧されながらも握手を交わすと、後ろでフィーナが困ったように眉をひそめていた。
「いずれ、君の義兄になるかもしれないからな。よろしく」
……なに言ってんだこの人。
ガイナスが去った後に、フィーナがアッシュに頭を下げている。
察するにガイナス一人が盛り上がってるのかな?
「気にしないでいいですよ」
アッシュがふっと微笑み、俺の腕にそっと手を絡ませてくる。
しなやかなその動きは、自然で、けれどどこか“見せつける”ようでもあった。
――……いや、これは完全に見せつけてるな。
その様子を、鬼の形相で見つめている奴がひとり。
さっき俺に「義兄になるかもしれない」とか言ってきた、ガイナスさん。
笑顔はどこへやら、完全に“素の顔”出てますよ。
これ、嫁の姉からのスキンシップだと思いますよ? 全神経を腕に集中させて、押し付けられてる胸の感触を堪能してますけど、弟としてです。清く正しく、弟枠。
……で、もう片方の腕には、ヴェルがぴったりくっついて胸を押し当ててきてますが、こっちは夫としてです。名実ともに。
あーー。 これ、いつか闇討ちされるかもしれないな、俺。