花園の少女と、教会の剣
生前の彼女は、村人たちから愛されていた。
誰にでも分け隔てなく接し、その笑顔が村の空気をやわらげ、少女の恋人になるのは誰なのか――
それが村の若者たちの関心を引くほどには、皆の目を惹く存在だった。
最初は、顔色が悪いだけだと思っていた。
疲れているのかもしれない、と誰もが口にしていた。
だが数日後、ひとりの少年が庭園に入った。
そして――少女はその少年を噛んだ。
その日を境に、屋敷の扉は閉ざされ、 領主も家族も姿を見せなくなった。
けれど庭園に佇む彼女の姿は、花々の間に確かに見えたという。
「感染源の館ごと、焼き払うべきです」
ガイナスは村外れに集まった教会幹部たちに向けて、はっきりとした声で言い放った。
その語調にはためらいがなく、まるで当然の判断であるとでも言うようだった。
「本来であれば、感染源を残しておくなど論外。後処理が終わる今日まで待った理由すら、私には理解できません」
演説のようなその語りは、場の空気をじわじわと熱していく。
すべてを断ち切るような論理、迷いのない剣、振り下ろされる正義――
それが、ガイナスという男のあり方なのだろう。
彼は、目の前の問題を片付けるために動いていた。
そこに、フィーナが静かに言葉を挟んだ。
「……長く勤めた、立派な領主家だったのでしょう。 感染源だと噂されていますが、確証があるわけではありません。 村人たちとしても、気持ちは複雑なんです」
おそらくフィーナは、村人とよく話をしたのだろう。
軽々しく“焼け”とは言えない空気を、肌で感じていた。
「先立ってゾンビ掃討を行ったお二人――ヴェルさんとアッシュさんも、あそこを残したのには考えがあってのことです」
その言葉に、ガイナスの視線がわずかに揺れた。
「……以前のあなた方であれば、村ごと焼き払う強さを持っていたはずだ。 それが今、どうして……」
ガイナスはアッシュには優しい眼差しを、そして俺には刺すような視線を送る。
その視線を遮るようにヴェルが間に入る。
「騒ぎの鎮圧に力を使っただけよ。後からきて偉そうにやるべきとか言わないでくれる」
怒気を隠そうともしない。他の幹部が怯えてるのがわかる。ガイナスは顔色を変えない。
思ったより強い人物なんだろうな。そしてその思想も強い。
「そこの男があなたを弱くしたのでは?姉であるアッシュさんまでそそのかしていそうですが」
ガイナスの言葉に、場が一瞬凍りついた。
ヴェルが肩を震わせそうになるのを、アッシュが軽く手で制す。
そして、まっすぐにガイナスを見据えた。
「私は――ヴェルと同じく、生きていくだけよ」
その声音は静かだった。
「そして、そのヴェルが選んだ夫を軽く見るというのなら……」
そこでアッシュは一歩前に出る。
「教会への協力も、今日限りです」
沈黙。
誰も口を挟まなかった。
ヴェルが少しだけ微笑んだのが、俺の横でわかった。
そして何より、ガイナスが――初めて言葉を失っていた。
「ともかく、村人の願いでもあります。他の弔いが終わるまでは手を出さない」
「そして今日それも終わりました。明日、弔いましょう」
俺には、“焼く”のと“弔う”の違いが、
この時はまだ――わからなかった。




