宝石のような瞳を 君に
洞窟の奥、湿った岩壁の前で、俺は道具を並べた。空気は冷たく、先ほどまでの戦闘などなかったように
静かだ――
スケルトンが静かに座っている。まだ、全部は行えない。
ならば、せめて顔くらいは整えてやりたい。
人工スキン、それと――俺の髪。長く伸ばしていた髪を切った。
ボーイッシュな髪型程度の長さしかないが、束ねて貼れば形になる。
なんせ彼女の頭には、もともと何もない。何かを貼るには十分だった。
「ちょっと、チクッとするぞ」
スケルトンは無反応。痛覚があるのか疑問だ。
その手を止めることはない。そっと髪を載せ、形を整える。
前髪が落ちて、目にかかる。
そして――その“目”だ。
今、スケルトンは見えている。肉がなくても、目がなくても、なぜか見えている。
この“瞳”はただの飾りだ。けれど、俺は迷わず、それを用意した。
金色の宝玉。店で見つけた時、即決した。高かった。
しかも、同サイズを二つ。だが、それでも。
「……迷うのが値段なら買え、って誰かが言ってたしな」
そう、俺だ。
ワンドを手に取る。内部の魔術式が起動し、形状定着の呪文を込める。
骨と宝玉、そして粘土とスキンが、じわじわと“顔”になっていく。
額から鼻、頬、顎。
頬に触れると、スケルトンが少しだけ首を傾げた気がした。
皮膚は薄く、まだ全体を覆えていない。
強い光が当たれば、場所によっては骨が透けてしまうかもしれない。
思ってたより薄い。他に使いすぎたか。
宝玉ではなく、ガラスにすべきだったか……そう思いかけたが、
「いや、迷うのが値段なら買え……だろ、俺」
そして――スケルトンは、金の瞳で俺を見た。表情はない。
けれど、どこか、嬉しそうに見えた。
少なくとも、百年。誰もこうして近づくことなどなかった。
ましてや、“顔”と、“目”を持った状態など、もっと長いことなかったのだろう。
スケルトン――いや、もう“彼女”と呼んでいいだろう。
彼女は、ぎこちなく自分の頬へと手を伸ばした。
手が、人工スキンの頬に触れる。
その指先は、まるで確かめるように、ゆっくりと輪郭をなぞっていく。
感触が伝わっているのか、それすらもわからない。
口元は形だけ。声帯もない。舌もない。
だから、言葉は出ないはずだ。
それでも――
彼女は、こちらをまっすぐに見つめて、微笑んだ。
ほんの一瞬。ぎこちない、だが、確かに“笑顔”だった。
セトは、息を呑んだ。そして、気づく。
(……俺、今、二度目の一目惚れした)
いや、“二目惚れ”か。どっちでもいい。そんな理屈、今はどうでもいい。
マントに包まれた体はゴツゴツして、冷たい。
それでも、セトは思わず――抱きしめていた。
その背中は細くて、折れてしまいそうだった。
彼女もまたセトの背中を抱きしめる。