試し切りと実演販売
「美術品だから、試し切りはいらないんだけどね」
セラがなんか言ってるが、武器である以上試さねばなるまい。
モナの前の木ぐいには古びた鎧が準備された。
モナは片手持ちで上段から鎧の肩口に切り掛かる。
苦もなく刃が鎧を引き裂く。
「おーさすが見事なもんだ」
セラが感嘆の声をあげ、モナの持つ刀をよく見る。
「厚みが倍以上かな、だが短くなった分、重さは以前より軽く感じる」
「重心の関係かもな」
話しているうちに、次はレンが鎧の前に立つ。
「そっちは細いけど、大丈夫なのかい」
「俺は専門外だからわからない。けど、親方とレンは自信満々だったよ」
レンは鎧の前で素振りをしている。
と思ったら、こっちに寄ってきた。
何事だろうとレンを見ると、レンの後ろで鎧が横と縦に裂けて杭から落ちた。
「はぁ?いつ切ったんだ。さっきのは素振りじゃなかったのか」
鎧を見ると前だけが綺麗な断面を残し十字に切れている。
「刀の出来もいいが嬢ちゃんの腕が凄すぎて判断が難しいな」
ドンケンは言葉では困りながらも、笑いを抑えられない顔をしている。
「モナはできるか?」
「多分無理、刃がかけちゃうと思う」
「技術あっての芸当か。他が再現できないなら、売るのは難しいかな」
「いやいいよ。実にいい。再現できなくてもいいんだよ」
セラは少し興奮気味に続ける。
「顧客の前でこれを見せることにより価値は上がる。
そして美術品で試し切りするコレクターはいない」
「腕に自信がある奴が失敗しても腕のせいにする」
ドンケンがセラの言葉に被せてニヤリと笑う。
ドンケンも自分で試してた武器を同じ手口で売るようだ。
ドンケンもかなりの腕だが、何気にフェルも武器の扱いには長けている。
とはいえ二人とも、試し切りまでで実戦には関わりたがらない。
セラはレンとモナの手をとる。
「その試作は君たちが使っていい。代わりに何度か実演をお願いできないか?」
なんとも断りづらい。条件を出されてしまった。
モナは少し恥ずかしがってるが、レンは乗り気だ。何よりあの刀を手放す気が見えない。
セラのことだ早々に稼ぐだろうし、そう何度もやらないだろう。希少価値が下がるからな。
俺としては問題ない。
「……どうする、モナ。やってみるか?」
ちょっと首を傾げてから、小さくうなづいた。