幸せの兆しと変態
モナがぽつりと口を開いた。
「フェルさん、すごく優しかった。だから……話しちゃったの」
「何を?」
「最初にここに来たとき、怖かったこと。セトのことも……ちょっとだけ不安だったって」
「剥製にされるって怯えてたな」
「傷の手当てや一緒に逃げてくれることで安心はしてたけど、やっぱり怖かったよ」
「それで、今は?」
モナはうつむいたまま、俺の手をきゅっと握りしめた。
「今は、ちがう。……安心してる。ううん、安心以上。なんて言ったらいいか……よくわからないけど、ね」
俺は何も言わず、モナの頭を軽く撫でた。俺を顔を覗き込む青い目が綺麗だった。
家に帰るとレンが不機嫌だった。
【置いていて行かれた】
筆談のボードに何度も書いては消した跡がある。もっときつい言葉を書いてたのだろうか。
俺とモナの繋いだ手を見て微笑むも、自分も俺の横にきて手を繋いぐ。
すごく幸せだ。幸せだが、まだやることがある。どうしたものか。
だが油断しない。こういう時はくる。あいつが…
そう、俺たちの幸せが揃った時――
「おかえりなさいませ、みなさん♪」
玄関の扉が勝手に開き、現れたのはセラだった。
なぜ鍵が開いてる。いや、それ以前に、なぜ勝手に入る。
だがレンとモナは俺の手を離さない。
「おっといつもと反応が違うね。これは進展があったかな」
「ニヤニヤするな。あと勝手に入るな怖いわ」
「大丈夫だよ。店先は入るけど、部屋には入らないよ」
「まぁ店先は、いいけど。いや鍵かかってたら入るなよ」
「部屋は流石にね、おっぱじまってたら困るし」
「令嬢がおっぱじまるとか言うな。仮にそれ見たら絶交するぞ」
「その時は私もおっぱじまろう」
少し頭痛がしてきた。
レンが俺の腕にしがみついて、ボードに一言書いた。
【セト いま すごく 人気】
「……勘弁してくれ」
モナは意味がわかってないらしい。それでいい。
「それで食事の用意はできてるのかい」
「帰ったばかりで何も用意してない」
「わかりました。おつかいですね。ではリストください、旦那様」
セラがスカートの端を持って微笑む。
「その言い方やめろ」
「かしこまりました、“仮”旦那様」
「ますますややこしい!」
俺の声にレンがクスクス笑い、モナもつられて微笑む。
セラはその様子をちらりと見て、ふふんと鼻を鳴らす。
ルナだけが、浮かない顔をしている。
結局、今日もルナが夕飯を作ってくれる。その間セラに修理の経緯を話した。
「なるほど、鍛治技術と魔法の融合か。面白い」
「俺の考えることなんて、とっくに試されてると思うがな」
「実際は、王宮と教会で例がないわけではない」
「やはりあるよな、でもみんなはなぜやらない?」
「ワンドも魔力の補充もコストがかかりすぎるのだよ。仕上がったものに金をかけられる人間が少ない」
「なるほど、街の鍛冶屋ではコストが問題か」
「条件が厳しいからね、ちなみに聖剣とかの類だよ」
「聖剣は壊れたものを直してつくったのか?」
「違う聖剣が壊れたから、直すんだ」
「なるほどな、価値があるからコストかかっても直すわけか」
「そう、でも君にはワンドも魔力を補充してくれる人もいる。試さない手はないね」
セラは不敵に笑う。
「……面白い。やっぱり君、ただの変態では終わらないね」
「最後の一言がいらん!あと変態はお前もだ」
いかん否定になってなかった。




