繋ぐ技術と温もりと
奥の部屋で鍛冶屋の主人は作業していた。
「おう、久しぶりだな。家を売ったって聞いてるぞ」
「ご無沙汰してます。耳が早いですね」
「職人連中は、それくらいしか楽しみがないからな。美女の出入りが多いから散財したんだろって噂になってた」
「散財はあながち間違いでもないです」
「フハハ 若いうちは無茶していい」
作業の手を止め主人はセトを見る。
表にいたフェルの叔父でドンケンと呼ばれるドワーフ。
道具屋を始める前は、少々世話になったことがある。
「嫁さん手に入れるために大金使ったんだろ」
「親方には敵わないな、まぁ あたりです」
「それだけ夢中になる相手を見つけたってことだ。大事にしろよ」
「その報告だけにきたわけじゃないだろ」
「ちょっと相談というかお願いに来ました」
「見せてみろ」
内容を言う前になんとなくわかってるのだろう話が早い。
「折れた刀の修復をお願いしようかと」
「東の刀だな。戦闘用には見かけないが美術品としてはたまに見るな」
「俺は初めてで、1つは長さがあったんで小刀にしょうとうちに置いてきました」
「で 折れた方がこいつか。無理にくっつけても持ちそうにないな」
「依頼主は美術商なんだろ?」
「そうなんですよ。金払いはいいけど注文が細かいんで」
「その美術商から注文が途切れないんだ。お前がいい仕事をするからだよ」
「それはありがたいですが、今回はお手上げです」
「嘘つけ当てがあるからきたんだろ」
「実はそうなんですが、あまりに失礼な話で」
「いいから早くしろ、失礼なのは前からだろ」
「親方にこれを繋いでもらった後、定着のワンドでさらにつなぎを強化しようかと」
「職人の腕にケチをつけるわけだ、確かに失礼だな」
「そこをなんとか」
「まぁ面白い試みだ。どうせなら、加工しようとしてたもう1本も繋いじまおう」
思ったより親方は乗り気だ。職人として新しい技法に興味があるのだろう。
日を改めてて作業にかかる約束をし俺は店を出る。
店を出ると、モナとフェルがまだ話し込んでる。
しかも店の隅でコソコソ耳打ちしあってる。女の子がたまにやってるのを見るなあれ。
両方顔を真っ赤にしながら盛り上がってるな。
声をかけるのも悪いなっと思ったら気が付かれた。
「なんだ、早かったな」フェルが少し慌てている。顔が赤い。
モナに至っては頭が沸騰でもしたかってくらい。汗かいてるな。
「もう、帰る?」
名残惜しいのかな、いい友達になれたようで何よりだ。
「もう少し話しててもいいぞ」
「大丈夫、色々お話できたから」
「そうか、レンも待ってるから帰るか」
帰り際、フェルがモナに手を振る。
モナが来た時より、俺との距離がいつもより少し遠い。
フェルめなんか吹き込んだな。酒の席で全裸で暴れた話でもしたんだろ。
まぁ話のネタになって、二人の距離が縮まったのならそれでいい。
そう思っていると、モナが距離を近づけてくる。ぶつかりそうなくらい近くに寄って。
俺の手を握りしめた。
少しはにかみながら俺の顔を見ている。
――ああ、フェル。何を吹き込んだか知らないが、お前、いい仕事をしてくれたな。
繋がった手を少し強く握る、ピクリとモナの肩が揺れた。
「……っ」
小さく息を呑む音がして、俺の方をそっと見上げる。
目が合うと、慌てて視線を逸らした。耳まで赤くなっている。
「そんなに緊張することか?」
からかうように言うと、モナは唇を噛んで――それでも、手は離さなかった。
むしろ、少し力が入ってきた。
「……しても、いいじゃない」
声は小さく、でも確かに届いた。
俺は笑って、もう一度、モナの指先を軽く撫でた。今度は、逃げなかった。
モナの手は力強いが、柔らかい手だ。
繋がった手のぬくもりが、しばらく離れそうになかった。