六階層のゴーレム
夜のダンジョンは、昼以上に静かだった。
鉱石が取れると騒がれたのは昔の話で、六階層まではすっかり掘り尽くされている。
魔物もほとんど出ない――たまにゾンビが這い出してくるくらいだが、モナがあっさり片づけていく。
バスターソードにも慣れたのか、型だけじゃなく応用も利いてきた。
モナは剣の長さと重さを理解し、的確に一撃を叩き込む。
ルナは連撃。レンは……やることがないのか、俺の後ろにくっついて歩いている。
俺はというと、時々飛んでくるコウモリをトンファーで払うくらいだ。
たまに回転させてみたりもするけど、当たらないし、威力もない。
六階層に降りたとたん、空気が変わった。
湿った石のにおいに、鉄と……何か焦げたような臭いが混じっている。
「……様子が変です」
ルナが低く言った。レンは黙って、周囲を見渡している。
本来なら、階層を守るゴーレムが立ちはだかるはずだった。
だが、その姿はどこにもない。
代わりに、階段の前に転がっているのは――
「……あれ、ゴーレム……か?」
巨躯の石人形が、無残に転がっている。
腕は千切れ、胴は砕けている。
自己修復を繰り返していたゴーレムも、これではしばらく復活できないだろう。
誰が、こんな真似を?
そのとき、レンがピクリと動いた。
遠く――階段の先に、かすかに影が揺れる。
音はない。ただ、何かがそこにいる“気配”だけが、確かにあった。
「……今日はここまでにしておこう」
セトの言葉に、誰も反論しなかった。
モナは剣を抜きかけていたが、静かに戻し、階段を一瞥する。
ルナは既に、撤退のルートを頭に描いている顔をしていた。
レンだけが、しばらくその気配を見つめたまま、やがて静かに背を向けた。
ダンジョンの奥で、何かが起きている。
その“何か”は、まだ名前も姿もわからない――
だが確かに、この階層で、何かが変わり始めていた。
見張りは二人ずつ行うことにした。
まずはルナとモナに休んでもらい、俺とレンが火を起こしながら見張りをする。
数日前まで、レンは骨だった。
それが今は、火に照らされた美少女の横顔が隣にある。
愛おしいと思うのに、ダンジョンの中じゃ雰囲気も何もあったもんじゃない。
……まあ、出会いがここだったのだから、これくらいが“ちょうどいい”のかもしれない。
本当なら、レンとイチャイチャ修復でもしながらのんびり過ごす予定だった。
なのに、いつの間にか嫁が増え、その嫁を狙うやつまで現れている。
――忙しいことだ。
レンと二人で、モナの寝顔を眺める。
レンの目が、少し優しく見えた。
俺なんかが相手でよかったのか、二人とも。
時々そう思うけど、今はこの関係が心地よくて……
答えを聞かないことにした。
レンは、そっと俺に顔を寄せた。
何も言わない。ただ、静かに近くにいる。
火の明かりが揺れ、俺たち二人の影を長く伸ばす。
その影は、無言のままダンジョンの壁に滲み――寄り添っていた。