オーバーザトップ
筋肉信者とビキニアーマーたちは、戦い後にすっかり意気投合していた。
フィーナとモウラを筆頭に、「2回戦だ!」と言わんばかりにアームレスリング大会が始まっている。
勝負の合間にはジョッキが回り、すでに半分は飲み会の様相だ。
背後から「ぬおおおお!」という声と、テーブルが軋む音が響く。
……完全に祭りだな。
「賑やかなものですね」
「おかげでこっちは話がしやすいけどな」
カッツェが苦笑し、封筒を取り出した。
帝国の紋章が押された封蝋が、ランプの光を鈍く反射している。
「これが本来の目的。魔王ノブからの正式な招待状です」
「一応読むけど、これの返事は、セラ待ちかな」
「……セラ様の判断次第ですか」
「あいつの売り込みで始まった話だしな。それがなくても外交は任せてる」
「なるほど」
カッツェは小さく頷き、視線を封筒に落とす。
「ノブ様は刀に興味をお持ちですが……それだけではないと思います」
「ほう?」
「あなたという“作り手”そのものにも関心を持たれたようです」
背後から「ぬおおおお!」「ぐぬぬぬ!」と熱い声が響き、テーブルがギシギシと悲鳴を上げる。
フィーナが、筋肉と筋肉の戦いを続けていた。
我が嫁ながら、すごい形相だな。
「……まぁ、セラが戻ったら考えるさ」
「ちなみにセラ様も嫁なのですか」
「そうだよ。そこで凄い顔してるフィーナもね」
「フィーナ殿まで!?」
「まだ増えるかもしれないけどな」
「……帝国では一夫多妻は珍しくありませんが、さすがは魔王と言った所でしょうか」
背後では、ディグが参加していた。
いつの間にかフィーナとモウラがディグに負かされたようだ。
「若造共、力だけが強さでないことを思いしれ」
「あの老人、帝国でも名を馳せた人物に似ていますが」
「ただのバトルマニアで最近隠居したおじいちゃんだよ。若い子の手を握りたいだけじゃないかな?」
「聞こえとるぞ」
ディグは次々に挑戦者をねじ伏せる。ディグの腕の3倍は太い筋肉信者ですらねじ伏せる。
「すみません、私もよろしいですか」
カッツェがディグに勝負を申し入れる。
筋肉量ではカッツェの圧勝だろう。だが、ディグはそれを全身で受け止める。
腕相撲のはずなのにディグの技術は腕だけに止まらない。
長期戦ならカッツェが勝っていたかもしれない。
「……勝負あり!」 そう叫ぶ者はいなかった。 代わりに、バキリと鈍い音を立ててテーブルが二つにわれ、二人の腕が宙に残った。
しばしの沈黙。 次の瞬間、歓声が湧き起こり。 ジョッキが打ち鳴らされた。
「……テーブルが負けたな」
俺がつぶやくと、ディグはバツが悪そうに笑っていた。
カッツェは悔しそうだ。
「確かに力だけが強さではありませんでした」
「あのおじいちゃんは特殊だと思うぞ」