第56話
「だっておかあさんには、こんなに絵を描く力なんてないもの。うらやましいわ、まなみにはそんな魔法があって」
『魔法……』
その言葉に、まなみは自分の持っている色鉛筆とスケッチブックを改めて握りしめた。
『そうか、魔法はこんなところにあったんだ。たとえドルダ達と離れたとしても、魔法でわたしたちはつながっている。それを忘れなければ……。いつか……』
会えるかもしれないと思ったまなみは、大きく頷いた。
「そうだね。おかあさん、わたしには魔法があるもんね」
「そうよ、あなたには絵という魔法があるのよ。もっとその力を伸ばさないとね」
おかあさんは、にこにこしながら、まなみを見つめてそういった。
「知ってる? おかあさん。魔法は気持ちが大事なんだよ」
「あら、まなみは魔法のことも詳しいみたいね」
「うん、実はそうなんだよ」
「まなみ、おまえ何いってるんだよ!」
おじいちゃんと居間から出てきたとしゆきが、慌てて割って入ってきた。
「あら、としゆき。迷惑かけてなかっただろうね」
おかあさんが心配そうな顔をして訊いてくると、まなみはすかさず答えた。
「おにいちゃんは、みんなに迷惑かけてばかりだったよね」
「わっ、それ以上いうんじゃないぞ、まなみ」
としゆきが、まなみを睨みつけると、まなみは、にっこり笑っていった。
「大丈夫。わたしは誰かさんと違って、いいつけを守るから!」
満面の笑みのまなみに、としゆきは、
「ちっ」
と、つぶやき、頭をかいた。
「まあ、としゆき。おまえそんなに迷惑をかけたの」
おかあさんがきつい口調で問いつめてくると、としゆきは
「違うよ、おかあさん。まなみがちょっと違った意味でいってるだけさ」
といって、むくれた。
「美智子、としゆきはそんなに迷惑はかけてないぞ。なにしろ、納戸の中も片づけてくれたからな」
おじいちゃんは、ははっと笑っておかあさんに声をかけた。
「納戸なんか片づけたの」
「おまえの昔のおもちゃとか出てきたぞ」
「まだ、あったのね。わたしのおもちゃなんか。あとで見てみたいわね」
おかあさんは、目を丸くして、懐かしそうにいった。
「納戸なんか入ったら、埃まみれだから、ぼくがおもちゃを取ってきて見せるよ」
としゆきは、納戸という言葉に内心ひやひやしたが、とっさにそんなことをいって逃れた。
「あら、ずいぶんと気の利いたことをいうのね、としゆきは」
「だってほら、おかあさんのせっかくの服が汚れちゃまずいだろうと思って」
ちょっと苦笑いを浮かべながら、としゆきがいうと
「まあ、何いってるのかしら、この子は」
おかあさんは、不思議そうに首をかしげながら、としゆきとまなみの顔を見比べた。
「まあでも、わたしとお父さんと離れているうちに、二人ともなんだか大人になったのかもしれないわね」
おかあさんは、ふふっと笑うと、まなみの頭をなでた。その時、まなみはおかあさんに、今まであったことを全部話したい衝動にかられた。ドルダや、ラビネ、グリラス、ダーク、ヴィルアル、そして魔法を使ったことを。でもそれはできないのだと思うと、何だか悲しくなった。その一方でおかあさんの知らない秘密を持てたことは、なぜかときめいた。うれしいけれど、寂しい。複雑な気持ちが、まなみの心を覆った。
『ひょっとして、これが大人になるってことなのかな』
まなみはぼんやりとそんなことを考えながら、ドルダたちのことを思った。みんな今頃どうしているだろうか。ダークを元に戻すために、また旅をしているのだろうか。いつかまた会えたらいいのに。そうしたら……。
まなみの横顔には、秘密めいた表情が浮かんでいた。
(完)




