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魔法少女物語~魔法の××× マジカル○○○~  作者: 庭野 ワニ
破壊兵器JASON-SK 登場
43/54

第9新卒:『お嬢様は薔薇の香り』その1




【黄島クリスティーヌ】




 おーっほっほっほっほっ!!!




 ……今日も今日とてアルバイト~ですわ。

 マッドサイエンス研究所の商品管理のお仕事も、たまに来る伝票処理や検品と、商品在庫の照合など以外は座っているだけ。驚くほどに退屈なお仕事になってきましたわ。

 もはや、退屈すぎて逆に、怒られない程度の暇つぶしを考えるのが楽しくなってきたくらいですわよ。


 しかも、こんな仕事でこんなに貰えていいのかというくらいのお給料が手渡しされますし、もう一生このアルバイトでいいんじゃないかという想いに駆られつつありますわね。

 勿論、ワタクシ帝国を作り上げて、極悪帝国もマジカル三姉妹スリーシスターズも滅ぼす思想は諦めるわけにはいきませんが……。

 とりあえず、今日もまた張り切ってタイムカードを押していきます。




 ワタクシの働く地下倉庫は、途方もなく向こうまでガラスケースの棚が広がっていて、それまた個々の透明の扉に様々な発明品が押し込まれています。

 かつてマッドサイエンス研究所の親会社が地球征服に用いようとした超兵器や、平和利用可能な超兵器、何に使うのかさえ謎のガラクタたち。

 それをひたすら眺めて、妙な事が起きていないか定期的に確認するのがワタクシの仕事です。正直、こんなの誰でも出来ますわ。


「よっ、黄島」


「あら相羽くん。おはようございますわ」


 この地味な顔立ちの同僚は、相羽くんですわ。

 ワタクシのクラスの委員長で、席もお隣なのですが、精神的特徴としては異様に肝が大きく、些細な事ではあまり動じない性格という事です。


 現在まで、ワタクシが知る限りで彼の出したマッドサイエンス研究所への損害額は十億円。「バブル時代に不動産で失敗した小金持ちの借金」の如き大損失を生み出しながらも、うまくごまかして、しれっと仕事を続ける……そんな、ネジの外れた異常者が彼です。

 尤も、性格的には良い人ですし、なんだかんだとワタクシにも良くしてくれるので、相羽くんがいる日は嬉しい事この上ないのですが。


「なんか、もうこの仕事暇すぎてさ、今日なんてグローブとボール持ってきちゃった。

 黄島、キャッチボールしようぜ」


「早速損害出す気満々ですわね」


「無理?」


「ワタクシは別に、器物破損したくて来ているわけじゃありませんから、

 キャッチボールは少々……」


 相羽くんは以前にも、この場所でロケット花火で遊んで、ガラスケースをいくつか破壊しましたが、割れたガラスをサランラップでごまかしています。

 その挙句に、ガラスがサランラップになっていた問い詰められると、「少なくとも自分の勤務時間は異常なかった」と別のシフトのアルバイトがやったかのように証言するとんでもない一面も垣間見せていました。

 ……まあ、ただ、彼の次にシフトが入っていた人物が、この研究所の発明品を狙っていたテロ組織のスパイだったらしく、なんというか、結果的にその人物が疑われて逮捕されてめでたしという笑えない笑い話のような顛末があったのですけど。


「じゃあ、仕方ない。今日は一人で素振りでもするよ」


 今日の彼は、そう言ってバッグの中から金属バットを取り出し、いそいそとどこかへ行きました。

 ワタクシが言うのも何ですが、相羽くんは本当に働く気ゼロですわね。

 せいぜい携帯ゲームが関の山なバイト中の暇つぶしを、彼は随分と大胆な方法で切り抜けています。

 まあ、素振りとなれば、投げたり転がしたり飛ばしたりするものではないですし、きっと大丈夫でしょう。そう信じておきますわ。


「さて」


 相羽くんは金属バットを持ったまま奥へと消え、ワタクシは高校の課題の方をさせてもらう事にしました。

 課題の方も追いつかせないとなりませんからね。


「――えーと、『羅生門』の下人のその後について、あなたの考える後日談を1000字以上2000字以内の小説形式で執筆しなさい」


 微妙に難しい課題ですわね。これは、つまりいわゆる二次創作。想像力、独創性、設定理解度、設定補完能力など様々な能力が試されますわ。

 しかし、これこそ現代文の授業の真。答えのない回答を自ら答えるという内容な分だけ、他の授業よりも自由ですわ。答えなど他人に提示されなくても、ワタクシは自分から作り出しますから。


 ガシャンッ!! ドカンッ!! ウギャーッ!!

 バリバリッ!! ブゥンブゥーン!! ピリョロローン!! ウィィィィ……。


 ……いま、なんか変な音が聞こえましたが、無視ですわ。


「えっと……下人げにんは、人間のクズですわね。このような人物が世の中で生きていける筈がありません。

 きっと、報いを受けて強盗に命を奪われるに違いありませんわね」


「――やべっ! これやばいやつだっ! ぶっ壊しちゃった!」


「いえ、しかし、『下人の行方は誰も知らない』……となると、この『誰も知らない』という地の文の断定的な表現について補完する必要がありますわ。

 その後のエピソードに別の誰かを関わらせ、彼の行方を認知する人物を登場させてはならない……条件が意外と難しいですわ」


「うわーっ! なんだこれ! どっか行け、この、このっ!

 俺を食っても上手くねえぞっ!!」


「尤も、彼の名前やパーソナリティを理解していない以上、その強盗が何となしに下人を殺害して、彼を認識しきれていない――というのを表現したなんて解釈も成り立ちますわね。

 ……うーん、でも、考えてみると、なんだかありきたりな気がしてなりませんわ」


「……はぁ、はぁ、危なかった、殺されるかと思った。

 でも、とりあえず止まったみたいだし、いっかな……」


「下人はその後、強盗に鉄パイプで殴られ死亡するも、どういうわけか時間が巻き戻り、再び羅生門の前で蘇る。

 これは同じ作者の『蜘蛛の糸』同様に、お釈迦様の同情という設定を付け加えて、芥川ユニバースという独自の理屈で勝負ですわ」


「はぁ……はぁ……とにかく、これでごまかせたかな。

 ……うーん、ちょっと変かな。まあいっか。止まった止まった」


「それによって、歪んだ正義感を拗らせないように、誠実な心を得るまでひたすら死と再生を繰り返すループものへと続けましょう……いえ、しかしこれでは2000字に収まるかどうか」


「――よし、黄島、やっぱり、課題なんかやめて野球しようぜっ!!」


「うっさいですわねっ!! さっきから!!」


 案の定、トラブルを起こしたと思しき灰かぶりの相羽くんを見て、ワタクシは流石にブチギレました。

 嫌な音や声は耳にしていましたが、彼は一体、何をやらかしたというのか、もはや考えたくもありません。

 ワタクシがいま集中すべきは課題ですわ。


「……ん? ああ、この課題?

 これ元々、芥川が『帝国文学』に発表した時は、結末書いてあったのに単行本で書き換えたやつだから、俺修正前のやつそのまま書いちゃったよ。

 字数は句読点と擬音だけで八百字以上水増しした」


「えっ!? これ単行本で結末修正してましたの!?」


「うん。京都の町まで強盗しに行って終わりだよ」


「うわ、どっちにしろ後味悪いですわね……」


 芥川の当初の意図をネタバレされてちょっとガッカリしてちょっと興が削がれましたわ。なんとない結末を深読みしすぎて壮大な設定を盛り込もうとしていたのが、急激に恥ずかしくなりましたわ。

 まあ、それを踏まえて自分なりの答えを表現するのが本旨なのでしょうけど。


「……で、今回はどうしましたの? 相羽くんは」


 そんな事よりも、この相羽くんが起こしたと思しきトラブルの方はどうすべきでしょうか。

 見れば、彼はもう埃まみれの煤まみれ。本当に灰かぶりのシンデレラ状態ですわ。

 僅か数分目を離した隙に何某なにがしかの死闘を繰り広げて帰ってきたとしか思えないのですけれど。

 一体、何が起きてこんな無様な姿に……。


「いやさ、このガラスケースずっと向こうまで続いてるだろ?

 とりあえず一番奥が広いから、そこでバット振ってたんだよ。

 そしたら、手をすり抜けて、すっ飛んじゃってさ」


「油断しましたわね。まさか、ボールなしでもガラスを割ってくれるとは」


「それがそのままガラスケースを突き破って、中の光線銃を誤作動させちゃたんだよね。

 それまた思ったより威力高くて、なんか別のケースで凍結中だったっぽいロボットに当たって、一回起動しちゃったんだよ。

 光線銃で撃ちまくって、ショートさせてなんとか止めたけど」


「で、そのロボットは、ドラえもんですか?」


「いや、ドラえもんではない」


「……じゃあ、別に残骸もいりませんわ」


「いや、あげないし……」


 ドラえもん以外のロボットに興味はありませんわ。

 ワタクシはこう見えても、極悪帝国の幹部。戦闘ロボットは無駄遣いするくらいたくさん見てますから驚きません。


「まあ、とにかく、やっちゃったもんはこれ以上考えても仕方ないし、このまま黄島と野球でもしよっかなって」


「いやいや、相羽くん。少しは反省を覚えたらどうなんですの……?

 まったくもう……めっ! ですわよ?」


 まあ今回もまた、相羽くんはいつもの如く、器物破損です。

 そのうえ、相変わらずの無反省ぶり。よく学校では目立ったトラブルも起こさずにいられるものだと思ってしまいますわ。

 彼も人間的に問題がありすぎる気がしてなりませんが、それに呆れるのも今更です。悪気はないようですし、「めっ!」としか言いようがないでしょう。


 とりあえず、今回はワタクシのデコピンでお許ししましょう。

 どうせこの場所は我が帝国の一部になるわけですし。


 と、そんな形でゆるく野球を拒絶して前向きに反省を促していると、なんだか奇妙な雑音が奥から聞こえてきました。


「ア、アアアアア、アアアアアア……」


「ん? なんか聞こえますわね」


 えっと、幽霊でしょうか。アアアアアアとひたすら言っているような予感がしますわ。

 幽霊ならまだ良い気がするのですけど。


「アアアアアアアア、アアアアアアアア……」


「あっ、これさっきのロボットの声だ……なんだよ、また起きやがった……」


「どんなロボットです?」


「えっと、名前は『JASON-SKジェイソン・スーパー・キラー』だったかな。

 太平洋戦争末期に刀丸とうまる博士が作った、何百人殺しても心を痛めない伝説の破壊兵器だよ。

 それをマッドサイエンス研究所が改造して人類殺戮兵器として封印したらしいんだけど。――にしては扱いが雑だったな、ははは」


「――あなた自分が一体何やったかわかってますの!?

 そして目の前でそれが起動している事がちゃんとわかってますの!? 状況把握能力ありますっ!?」


 この男、デコピンよりも、腹パンで反省を促しておくべきでしたわね。

 ……地球ではそんな大昔にそんなロボットを作り出す技術があった事が驚きですが、どうやら相羽くんのやらかしは相当危険なレベルの行いのようですわ。

 おそらく封印されていたスーパーキラーなるやべーやつを、彼は解き放ってしまったようです。

 あー、もう、数億円で何とかなる被害だと思ってたのに。人の命を奪ったら取返しつかないじゃありませんか。


「えっと、JASON-SKは一番近くの人間を殺害する為に、ターゲットに向かって『アアアア』って言いながら襲って来るとか書いてあったな」


 あっ、なんかスーパーキラー、こっちに来ますわね。

 おそろしく無機質で、見ようによってはアイスホッケーのマスクに見えなくもないとてつもなく不気味な二足歩行ロボットです。

 おそらく重量もあって、ゆっくりと愚鈍に攻めて来るくらいしかできないウスノロのようですが、確かに殺意の眼差しでこちらへとやって来ます。

 間違いなく、ワタクシたちを殺す気ですわ。


「ア、アアアア……」


 声はだんだん近づいてきますわ。殺人ロボットは、目を赤く光らせ、明らかにこっちへと……。

 まあ、とりあえず、こいつを野に放つわけにはいきませんわ。

 いくら地球とはいえ、ワタクシの目当ては大量虐殺ではなく、侵略。

 こいつに生き場所はありませんわ。


「とりあえず、黄島。あのウスノロは俺がどうにかするから、黄島は逃げろ」


 いやいや、カッコいい事を言っても、あなたは所詮、人間じゃないですか。諸悪の根源ですし。

 ワタクシなら、魔法マジカル一つでこの程度の相手は封じる事が出来る筈ですわ。


 ――なんであれ止めたいのですけど、そうなると隣の相羽くんが邪魔ですわね。


「あの、逃げますけど、相羽くん。

 その前にちょっと、一時的に向こうを向いてもらってもよろしいですか?」


「えっ、なんで」


「……服を脱ぎますので」


「えっ!? なんで今服脱ぐの!? 殺人兵器が襲ってきてるんだぜ!?」


「あんたが起動したんでしょうがっ! とにかく向こうを向いてくださいな」


 当然、服を脱ぐというのは嘘ですわ。別に脱いでもいいんですが、脱ぐタイミングではないので、脱ぎはしません。


 とりあえず、ワタクシのこの黄島クリスティーヌとしての姿は世を忍ぶ仮の物ですから、今から本当のワタクシを是非解放して、あの殺人マシーンを葬らねばなりませんわ。

 さあ、行きますわよ。ワタクシの初変身、掛け声や変身などをとりあえず見せますわ。

 無意味に両手をクロスさせて……。




「ファントム、レディ……!」




 掛け声をあげながら両手を開くとそのまま変身完了ですわ。

 ワタクシの髪が毛根から髪先まで金に変色。豪奢な金ぴかドレスへと変わり、ファントムお嬢様、推参。


 おーっほっほっ! ファントムお嬢様の姿になるのは幾月ぶりか。

 ……なんだかこの服装を着るのも久々ですわね。まったく、すっかり人間としての生活が根付いてしまいましたが……ひとまず、向かって来る敵には応戦ですわ。

 あんなウスノロ相手に負ける気がいたしませんわよ。


「さあ、もう一度眠りにつきなさい、化け物」


「ア、アアアアア、アアア……」


 ワタクシは、片手に扇を出現します。

 鋼鉄の扇――ファントムファンですわ。

 盾としては勿論、打撃にも用いる事が出来て、更には投擲も出来るという一粒で三度おいしい優れもの。そこそこの高級品ですが、ワタクシはお嬢様ですからこれを使って優雅に敵を倒す事が出来るんですわ。




「――そんな、黄島が……あの、極悪帝国の……」




 ――って、えっ!? なんで相羽くんはこっちを見てますの!?


 見るなって言ったじゃありませんかっ!?

 なんで見てますの!? なんで見てますの!? なんで見てますの!?

 鶴の恩返しの悲劇を忘れましたの!?


「……あっ、でも、まあこれくらいの事はいいや。

 とりあえず、奴を蘇らせたのは俺の責任だ! 奴を消すのには協力するぞ、黄島っ!」


 ……もう。

 なんかあっさり受け入れてくれますわね。

 一応、異世界を跨ぐ国際的大犯罪者として指名手配されるような身なのですが……。

 あの相羽くんなら仕方がないでしょう。自分のバイト先が悪の秘密結社だと知っても全然動揺しない奴ですし、見られてしまったものは仕方がありませんわ。


「まったく……ファントムブーメランッ!!」


 一歩ずつ向かって来るSKに、ファントムファンをブーメランにした一撃。

 顔面にぶち当たりましたわ。ざまあないですわね。


「ア、アアアアア……」


 ……あら、ノーダメージなのか、普通にまたまた近づいてきますわね。まだまだ40mくらいは距離がありますけれど。

 ワタクシの手元にファントムファンが帰ってきます。

 うーん、効かないとなるとダメですわね。


「ブルーレイ・ビームガンっ!!」


 あっ、今度は相羽くんがワタクシの横からわけのわからない光線銃で応戦してますわ。

 なんですの、この戦前の科学雑誌のようなデザインの光線銃。……というか、なんで当たり前に持ち歩いてますの?


「相羽くん、それ一体どうしましたの!?」


「さっきガラスぶっ壊した時、隠滅の為に列一つ消す事にしたんだよ。

 一番向こうの列の棚の商品はちょっと貰って、棚の残骸は全部光線銃で隠滅しといた」


「……あんたマジで極悪ですわね」


 絶対人の子じゃないですわ、こいつ。

 とにかく、もう彼の出した損害は金銭感覚で数えたくないですわ。何億とかが一気に飛んでますし、よくバレずにいられるものですわね。

 普通に、かなり重い窃盗さえしているように思うのですが。そのうちブチこまれますわよ。

 まあ、そんな事言ってる場合じゃありませんわ。ロボットは向かってきます。


「お嬢様レーザー!」


 ワタクシは掌を翳して、魔法マジカルを溜めたまま放出しました。

 そこから出た金色の光は、直線に敵をぶち抜き、胸部を破損させます。いやはや、今度こそざまあないですわ。

 何しろ、胸に穴があるんですもの。胸に穴が開いて生きているわけがありませんわ。


「ア、アアアアア……」


 ……と思ったら、胸の穴がゆっくりと自動回復。まだ向かって来るようですわ。

 いや、なんですの、このおそるべき不死身のロボットは。


 どうしましょうか、この場を逃げるのはたやすいのですが、そんな事をしたらワタクシの職場の人間たちが次々に殺戮されて、ワタクシは失職するハメになりますわね。

 そんな事になったらもう、この楽なアルバイトで稼げる日々が終焉……。

 その前に、ワタクシもとっととこいつをぶちのめさないといけないのに。




「あっ、そうだ! 黄島、この殺人ロボット! ――」




 突如として、何かひらめいたように相羽くんが言いました。

 ワタクシは、一瞬、相羽くんの方を見ましたわ。何か気づいたのならその策に乗りましょう。

 相羽くんは口を開きましたわ。


「――封印の仕方がマニュアルに書いてあったんだ」


「なんでそれを早く言わないんですのっ!?」


 思わずそう言ってしまいました。

 ワタクシが正体を明かしてまで戦おうとした意味はどこに行ったんですの? まったく……。


「いや、ほんと、あまりの事に気が動転して忘れてたんだよっ!」


 どこから拾ったのか、薄っぺらいマニュアルを、相羽くんがバッグから出しています。

 気が動転するなんて事がありますのね。


「とにかく、その方法についてさっさと教えてくださいまし!」


「ああ。えっと……16ページに書いてある」


「ページ番号なんて聞いてませんわよっ!

 その方法についての一番どうでもいい情報じゃありませんか、方法を聞きたいのです、方法をっ!」


「『女性の裸を見ると緊張で機能停止します』」


「嘘つきなさいっ! 絶対適当ですわねっ!?」


 マジで服脱いでたら止まったとでも言うのでしょうか。

 そんなわけないじゃありませんか。バカですかこの相羽くんは。


「金髪だと尚良し」


「嘘ですわね!?」


「縦ロールだと尚良し。言葉がお嬢様言葉だと最高」


「さっきも、それ目的でワタクシの変身を見てたんですわね!?」


「マジだって、このマニュアル見ろよ、ほらっ!」


「――って、もう見てる暇ありませんわっ! 目の前に来てますわよっ!?」


「げっ! マジじゃん……うわ、うわ、やめろ……うわーっ!」


 あっ、相羽くんが殺人ロボットに捕まりましたわ。

 コントをしている状況じゃありませんでしたわマジで。

 相羽くんの倍くらいの太さの腕が彼の胸倉をつかんで、そのまま持ち上げていきます。


「相羽くんっ! ワタクシが、すぐにやっつけますわ!」


 と、とにかく相羽くんを急いで助けないと。

 ワタクシは、魔法マジカルで腕力を強化したのち、相羽くんを助けるべくSKの腕を緩めようとします。

 ……しかし。


「なんていうパワー!? ワタクシの力でもビクともしないなんて……これマジでヤバい科学力ですわっ!?」


 恐るべき力ですわっ!

 魔法マジカルを超えるエネルギーがこの危険ロボットに搭載されてるんですわねっ!


 早くどうにか……早くどうにか……。

 急がないと、この××××ロボットの右腕が相羽くんの身体の折れてはならないところを折ったり、潰れちゃいけない部分を潰したり、締めちゃならない箇所を締めたりと、偉い事が発生するのがほぼ確定です。

 簡単に言いますと、相羽くんが殺されますわ。


「早く服を脱ぐんだっ! このままだと殺されるっ!」


「この期に及んでまだそんな事をっ!」


「騙されたと思って服を脱げっ! 早くっ!」


 あーもう……仕方がないですわね。

 こういう時は、最後だと思って脱いでしまいましょう。イチかバチかですわ。


 両手をクロスさせて、その手を開いて、先ほど同様に「ファントム、レディ!」と叫びますと、ワタクシの服が全て魔法マジカルで消滅して、私はその裸身をSKに晒します。

 SKがこちらを赤い眼光で見つめていますが、ワタクシはただ黙って立ちます。


「……」


「ア、アアアアア……」


「……」


「アアアアアア……」


「……」


「ア……アア……機能、停止シマス……」


 ぷしゅー、と音を立てて、膝を崩し、力なくうなだれるようにして停止したSK。


 ……なんか、やったみたいですわ。

 マジで女の裸体を見せる事でこのロボットは止まりますのね。いやはや、まるで人間の脳でも入っているようじゃありませんか。


 とにかく、ワタクシはほっとします。

 SKの手から、相羽くんの身体が落ちてきました。


「ああ、いってぇ~」


 いってぇ~じゃありませんわよ。

 そりゃあこのロボットを作り出したマッドサイエンティストがおかしいに違いありませんけれども、あんたが場をわきまえず野球してなかったら、そもそもこんな事にはなってはいませんからね。


「さて、止めたは良いけどこの殺人ロボット、これからどうしましょうか」


「と、とにかく、黄島……ま、まず服着てくれっ!」


「忘れてましたわ」


 全裸でしたわね。自信満々のワタクシのボディに、流石の相羽くんも恥ずかしがってるようですわ。

 彼をここまで動揺させ続けるワタクシも、なんだかんだと大物に違いない陽ですわね。


「っていうか、黄島。なんであんだけ脱ぐのに抵抗してたのに、脱いだら平然としてるんだよ」


「ワタクシのいた世界はヌーディズムに寛容だったもので。

 求められるのは流石に嫌ですが、別に裸体を晒す事に抵抗はありませんわ」


「えっ、マジで。俺、極悪帝国入ろうかな……」


「極悪帝国じゃありませんわ、その前にいた出身世界ですわよ。

 極悪帝国はもっと文化の規制が厳しいですわ」


 そう言って、ワタクシは変身を解除し、黄島クリスティーヌの姿へと戻ります。

 かつての世界では、幼少期から人前で全裸を晒す事にさほど文化的問題を感じなかっただけに、極悪帝国以後色々とギャップはありますわね。

 まあ、尤も、ワタクシ帝国が完成しても、「服装自由(全裸含む)」としか言いようがありませんが。


「……とにかくこのロボットは一端外に持ち出して、厳重に封印し、二度と起動しないように葬るしかないですわね」


「そうだな、コンクリートに詰めて海とかに沈めよう」


 って、なんか、相羽くんはさらっと恐ろしい事言いますわね。

 そういわれてしまうと、手馴れてるように感じてしまいますが。


「……相羽くん、まさかこれまでに人殺したりしてないですわよね」


「えっ!? そんな恐ろしい事するわけないじゃんっ!?

 ただ、これだけ大きくてもやせないとなるとそれくらいしかないかなって……」


 これは本気っぽいですわね。

 悪意ゼロでなんでもやってのけるあたり、恐ろしいとかいう次元を超越している気がするのですが。それでも悪意ゼロで人間を殺して「やっべ殺しちゃった、どっかに死体隠せないかな」とか言いかねない気もするのですけど。

 まあいいでしょう。


 とりあえず、ワタクシたちはその殺人ロボットにズタ袋をかぶせてごまかし、退勤時には、「しゃーす、失礼しゃーす」と言いながら二人で殺人ロボットを連れて帰る事に成功しましたわ。

 なんというか、危険物が多いくせになんでもかんでも管理が雑な会社ですわねホントに……。




◆ ◆ ◆ ◆ ◆


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