第8新卒:『たったひとりの三姉妹』その3(終)
【青山未羽/マジカルギャル】
なんか体の力がない。頭が痛いわけでも、視界がぼやけるわけでもなく、ただひたすらに軽やかとは違う、だるさみたいなのがウチの体を動かなくさせていた。
なんだろこれ……。
ほんとに、健康なんだかやばいんだかよくわからない、変なサインを体が送ってくる。
どこも痛くないんだけど、ただ、体にも心にも力が入んない。
……ま、まあ、とにかく戦わなきゃならないんだけど。
「――ギャップ萌え二丁拳銃!」
ウチの両腕に出現する二つの拳銃。
あの死神ドクターC.D.を狙い撃っちゃえばいいんだよね。
狙いを定めて――たんっ、たんっ、たんっ!
魔法の弾丸はまっすぐ向かっていく。
「――っ!」
でも、敵はまったく驚きもせずに両手にメスを出現させる。
超ちっちゃいの。
忍者が使う手裏剣的なアレみたいに、ウチに向けてメスが数十本飛んでくる。
「ハートバリアッ!」
ハート型のバリアを展開して応戦。
ウチの魔法の弾丸を斬り裂きながら、魔法のメスが向かって来る。
バリアの表面で、溶けてなくなるみたいに消えていく魔法のメス。……でも、命中した時点でバリアにダメージがかかっちゃう。
魔法値を注いで補填するけど、うまくいかない。
「危ないっ!」
マジバンが心配そうに声をかける。
なんでかはわかる。――攻撃を受けるたびに、ハートバリアにヒビが入ってるからだ。
ウチの張れるバリア装備は耐久性が低いし、エネルギー消費効率が悪い。ちょっとの攻撃しか守れないんだ。
でもそれより、前に踏み出そうとするマジバンを、ウチは止める。
「来ちゃダメ……絶対一人で勝つからっ!」
そうだ、ウチは一人で勝たなきゃダメだ。
何があったって、絶対に一人で勝つ。
「あっ!」
ぱりんっ、とその瞬間にバリアがぶっ壊れた。
ガラスが割れるみたいな音と一緒に、全身に向かって破片が散らばってくる。
そのうえ、前からは当然、何本ものメスが、ウチに向かって真っすぐ飛んでくる。
その全部が体に当たって小さく爆発する。――痛くはないけど、回復の効率が悪いみたい。
ものすごく、体が疲れてきた。
「――うん? 随分と精神状態が良くないようだね。
……だとすれば、今のきみの状態で戦闘は無理だ。大人しく諦めた方がいいんじゃないか」
敵はそう言ってまた新しいメスを装備する。
精神状態……? でも、ウチは元気な筈なのに……。
と、とにかく、パワーを振り絞ろうとする。
マジカルベルを見た。
……残り魔法値、2000と少しだ。見た事もないような消費ぶり。
「元の身体の疲労状態が今の彼女に反映されてるんだっ!」
ワニワニンが叫んでる。
疲労状態……?
あっ――!
まさか、あの鉄ゲタの特訓で負荷がかかったり疲れたりしたのが今……。
そっか、魔法値を作るのは精神状態なんだ。凄い体への負担だとか、不安だとかが全部反映されてる。
それが、特訓のしすぎでめっちゃ弱まって――これじゃあ、さっさと戦わないとダメじゃん。
そうだよ、このまま変身に必要な魔法値を全部使っちゃったら、変身がこのまま解けちゃう……。ウチの正体がバレちゃう。
「だ、大丈夫だからっ! な、なわとびウィップ!」
ウチは、さっさと敵を倒そうと、奥の手のなわとびウィップを敵に向けた。
敵のところまでビームのように伸びたピンクのなわとびウィップ。
それをムチにしてぺちっ、ぺちっ、と叩くけど、全然効いてる気がしない。
なんだろ……マイマイに使った時みたいにうまくいかない。
敵に知られてない奥の手として使ったはずなのに。
ねえ、こんな魔法値で勝てる……?
そう弱音を吐きたくなった。
……いや、どうやっても勝たなきゃダメだ。
とにかく、あいつを捕まえよう。
なわとびウィップで敵を縛る。
「ほら、もう動けないでしょっ! さっさと諦めてっ――!!」
敵を縛ったら、あとはもう、ギャップ萌え二丁拳銃撃ちまくれば……。
今回は、短期決戦だからね。
「ふんっ」
――だけど、そんな時、敵がニヤッと笑った。
敵が、右手の裾に隠していた変なスイッチを、ぽちっと押す。
「――電気ショックッ!」
――っ!?
「きゃあああああああああああああああああああああああっっ!!!!!!!」
ウチの手に向けて電流が走った……!
あいつの体がなわとびウィップを通して電気を流したんだ。
体に何か仕込んで、捕まえられた時の対応をしたんだ。
思わず離したなわとびウィップが、そのまま消滅する。
「――マジカル女番長の対策だったが、きみが釣れるとは。
残念ながら、ここで終わりだよ」
そっか……マジバンの技を対策する為の装備を隠し持ってたんだ。全身から電撃を発射できる技を――。
失敗したな……。
回復の為の魔法が弱ってる。
電撃のダメージを、いまも感じる。
『魔法値が減少しています。今すぐ撤退してください』
『魔法値が減少しています。今すぐ撤退してください』
『魔法値が減少しています。今すぐ撤退してください』
聞いた事もない警告がマジカルベルから鳴ってきた。
……ダメだよ、まだ戦えるよ。
だって、一人で勝たなきゃいけないんだよ。
二人でも、三人でもダメなんだ。あの子が一人で戦ってるなら、ウチも。
『魔法値が減少しています。今すぐ撤退してください』
『魔法値が減少しています。今すぐ撤退してください』
『魔法値が減少しています。今すぐ撤退してください』
「――うるさいっ!」
ウチはマジカルベルを放り捨てる。
舗装された道路の上を転がっていくマジカルベル。
その数値は、ウチの数値を計るのをやめて、「0」になる。
本当にゼロになるまで、ウチは戦うよ。
「あのままじゃダメだ……二人とも、マジカルギャルくんを助けるよ!」
ワニワニンが叫んだ。
マジバンとマイマイが後ろから助けに来ようとする。
「――ああ、仕方ないっ!」
「それしか方法がないわっ!」
――二人が来ちゃうっ!
それよりも前に、ウチはふらふらの体をなんとか立たせて、死神ドクターC.D.のもとまで一気に接近した。
あとどれくらい魔法値が残ってるかわかんないけど……。
とにかく、今は、ウチが戦わなきゃ絶対ダメ。
「ダメっ……!! 絶対来ちゃダメェっ!!
ウチが、絶対、一人で勝つから……!!
あさみちゃん、見てて……っ!!」
その場を動かない死神ドクターC.D.にぶつかろうとする。
綺麗なやり方わかんないけど、とにかくパンチ。
何発も何発も。
何も見えないし、敵がダメージ受けてるのかもわかんないけど。
これなら武器を作らないから魔法値の減少は小さく済むはず。
「――」
……なんか、敵もウチをバカだって思ったのか、全然相手にもしない。
黙って、ウチの攻撃を食らって、ダメージを自分の魔法値で抑えてるみたい。
手ごたえがない。どこにもない。
小さく聞こえるのは、敵の声。
「……魔法の消費が激しい。変身が解けるぞ」
「それでも戦うっ!! 勝たなきゃなんないから……!!」
「きみは何故そうまで戦う?
そうまで勝たなきゃいけない理由とはなんだ?」
そんなの決まってる。
「ウチらの戦い見て、勇気もらえる子がいるって……
その子が待ってるから……見てるから……
その子が、一人で怖さと戦うから……ウチも、戦う……一人でっ!!」
「――」
「それに、言ったでしょっ……!?
ホントは、誰かが、死ぬ場所……見つけるより……
死ぬ理由見つけちゃう毎日じゃなくて……
明日を生きたいって思える事を見つけてあげるのが……
それが、一番なんだよっ……!?
どう考えたって、誰にだって、それが一番いいじゃんっ!!」
それで辛い人だっているのかもしんない。
超苦しんでる人だっているのかもしんない。
死ぬ方が楽だってくらいの人もきっといる。
――だけど、生きてる人がそんな人に出来る事が、死なせる事だけでいいの?
死なせるよりも、なんか楽しい事してあげたり、作ったりして、生きたい明日を作ってあげてそれ覆してあげるのが、本当は一番なんじゃないの?
それが出来ないからって、諦めて……逃がし方や死なせ方が一番の目的になっちゃっていいの?
死んだら、終わりなのに……。
「――っ!!」
あっ……。
ウチの目の前で、爆発が起きた。
魔法の矢――マイマイが放ったその攻撃と、爆弾独楽――マジバンが投げたそれが、いま目の前で死神ドクターC.D.にぶつかったんだ。
「マジカルギャル……っ!」
「早く撤退してっ!」
大きな音を立てて、敵の表面が崩れていく。
今、明らかに何か――対策するよりも、それを受け入れようとしてた。
だから、死神ドクターC.D.は、避けなかったんだ……。
「……これ以上、お前を一人で戦わせないっ!」
「あとは、私たちに任せて……っ!」
だけど……もう、二人の手を借りちゃった。
もうウチもボロボロで、そっと膝から崩れ落ちた。
「ダメだよ……ダメ……」
一人で勝たなきゃいけなかったのに――。
ダメだった……。
これでもう……。
「――残念だ」
そう残念。
見たら、それは死神ドクターC.D.の言葉だった。
敵の言葉が……ウチの感情をなぞるように聞こえる。
でも、それからこいつの言葉はもっと続いた。
「マジカルギャル……きみのような人間がいるなら、
この地球は、人の最後の場にするには相応しくないのかもしれない」
えっ……?
爆発の中を悠々と立っている死神ドクターC.D.はそう言った。
「理想論だとしても、きみの言う事は正しい。
死ぬ方法を見つけるより、誰もが生きたいと思う未来を探すのが人の務めだ。
……私たちの世界はそうもいかなかったがね」
「……」
「だが、きみの言葉を聞いてしまった以上、私はもう、
医者として、人として……これ以上、この戦いを続ける事はできない」
そうは言うけど……。
そうは言うけど……。
「さらばだ、マジカル三姉妹……
もう会う事もあるまい」
そんな言葉だけを残して、闇の世界へと自分から去っていく死神ドクターC.D.に、ウチは手を伸ばした。
マジカル三姉妹、初めての敗北。
「――逃げないでよ……ウチ、まだ戦えるよ……ひとりでも……」
そう言いながら、それでも、何も出来ずに見送った……。
もう、敵が攻撃してくる事はないし、何も言わない。
闇の世界と繋がる穴もないし、今はこの世界のどこにも極悪帝国の敵はいないし、平和が続いている。
……それでも。
ウチは、一人で勝つ事が……できなかった。
二人がウチを助けて、しかも、ただ負けてばっかりで、全然……なんにも……。
悔し涙がほっぺたを流れていくのを、止める事はできなかった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
【青山未羽】
――それから、五日間、ウチは学校を休んだ。
そのうちの二日間は土日だったんだけど、全然行こうって気持ちになれない。
結局、マジカルギャルは負けて――仲間に助けてもらって、あさみちゃんの心に寄り添ってあげる事は叶わなかった。
あの敵には、一人で勝たなきゃダメだったのに。
負けちゃったんだ、ごめんね。
――そんな謝り切れない想いが、ずっと胸を締め付ける。
手術の予定の日はもうとっくに過ぎて――だけど、ウチは何も出来ないまま、確認もできないままずっと部屋に引きこもってた。
ご飯を食べようにもお腹空かないし、なんか常に吐きそう。
これまで欲しいって思った事ないけど、タバコあったら吸ってたし、お酒あったら飲んでたかも……。
何もやる事がない。
朝起きたら理由もなくつらくて、何やってても心のどこかにあさみちゃんの事が浮かんで気持ち悪くなる。
だって、あの子の命とか未来とか全部背負って戦ってたのに、それで負けちゃったんだもん……。
だけど、そんな時に、充電器に挿しっぱなしのウチのスマホが鳴った。
どうせゲームとかの広告だと思ったけど、念のために開いてみる。
『あさみちゃん明日退院らしいから、一緒に病院に行こう』
……それは、番長からのLINEのメッセージだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
【青山未羽/マジカルギャル】
――魔法の箒に乗って、ウチは無事城東大学付属病院まで飛んできていた。
なんであさみちゃんが退院するの、と思って急いでいた。
見てみたら、ロビーにはもうマジバンとマイマイがいる。何かで知って、とっくに来てたんだ……。
ほんのちょっとだけ人だかりが出来てたけど、ウチは二人のいるところに駆け寄った。
「ねえ、手術、したの……!?」
最初に訊いたのは、その一言。
五日ぶりの会話だけど、なんかそんな気はしない。
向こうもあんまりそんな感じがしてなかったみたいで、普通に答えた。
「そりゃあ、まあ……」
なんだか、マジバンが思ったより軽い態度で対応してきた。
なんていうか、ウチの気持ちとの温度差がある。
――えっ、ウチが頑張ろうが何だろうが関係なく、あさみちゃんは手術しようってなったのかな? それならそれでいいけど……。
とか思っていたら、ワニワニンがひょこっと顔を出して、挨拶してきた。
「あっ、来たね」
「どうしたの? なんで……」
「……あのね。
人間って、何でもかんでも、シロかクロか、できたかできないかだけで物事を決めつける機械じゃないんだよ」
えっと、それってどういう事? ワニワニン。
こういうよくわかんない事を言われて、ウチはちょっと悩んだけど、そんな時にマイマイがウチを促してくれた。
「まあ、とにかく、みんな揃った事だし、本人に直接会いましょうか」
マイマイも、あんまり深く考えてないみたいにニコッと笑った。
なんだかウチだけ置いていかれた気分だった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
【青山未羽/マジカルギャル】
――あさみちゃんの病室。
来るのは本当に久々なんだけど、今日は窓のカーテンが閉められて、前よりどこか涼しかった。
それに、前と比べると、そこにいるあさみちゃんは、「待っていた」みたいにこっちをずっと見て迎えてくれていた。
ただずっと、こっちを向いて……。
なんていうか、元気そう。
「――あっ、マジカルギャル!」
本当になんでもないように、あさみちゃんはウチを見て、ベッドを降りた。
ずっと前に抱えていた不安が綺麗に取り除かれたように、前とはどっか違う感じで、こっちに飛びよるようにやって来たんだ。
たたたた、っと駆けてきて、ウチの前でぴたっと止まった。
「こんにちはっ!」
「あ、こんにちは、あさみちゃん。
手術成功したんだって? 良かったじゃんっ! ……」
そう言うウチの声は、元気に言おうとしてたのに、どこかあさみちゃんを信じる言葉が欠けていて、ちょっとうわずってたかもしれない。
なんで、こうして元気でここにいるのか、ウチにはあんまりよくわかんなかったからだ。
……うーん。だって、ウチは思いっきり負けてたし。
それでも、あさみちゃんは本当に元気そうだ。
しばらく、こっちをじっと見てから、彼女は頭を下げる。
「ありがとうございました、あさみの為に戦ってくれて……」
「――ううん。ごめんね。
勝って言ったのに負けちゃったし、二人の力も借りちゃったし、全然ダメダメだった……。
情けないところ、見せちゃった」
……うーん、どういう気持ちでいればいいんだろ。
ウチと会ってて嬉しいのかな? 気を使ってこうして会ってくれてるだけで、もっと別の何かが彼女を支えたのかもしれない。
それならそれでいいんだけど、本当に勇気を持ってもらえたのかって。
――そしたら、あさみちゃんが口を開いた。
「違います。マジカルギャルの戦いを見て、勇気が出たんです。
あさみはあの時のマジカルギャルを見てて……
自分が一人だと思ってたのが、恥ずかしいって思ったから、ありがとう!」
「……でも、ウチ負けたのに?」
「だって、一緒に戦ってくれる人がいるってわかったから。
辛い想いして、一人で頑張って戦ってるマジカルギャルを見て……。
手術をしてくれるお医者さんも、心配してくれるお母さんも、友達も……
みんな、一緒に戦ってくれてるような気がしたから――全部、マジカルギャルのお陰で!」
……そっか。
なんだろう、もしかして、ウチが頑張ったから、それが伝わったのかな。
それなら本当に、嬉しいし……。
「……そうだよな。
結果じゃなくて、その途中が大事になるって事も、あるんだよな。
どれだけ一人で頑張ったって、運が悪けりゃ負ける時は負けるもんだろ。
誰かの心を動かすのは、たぶん、結果だけじゃないよ。あんなの、絶対の話じゃないし」
マジバンは横でこう言う。
……あっ、確かに、絶対なんて事はない。運かもしんない。
ウチの力不足だったとは思うけど、成功も勝利も運が第一なら――あんな約束に意味なかったのかも、なんて考える。
「こういう時、まぐれであなたが勝つ結末と、
頑張って、諦めずに戦って負ける結末と、
どっちが彼女の立場で勇気をもらえるか……そういう事よ」
マイマイはこう言った。
結果以外の物を見てくれる人だってたくさんいて、あさみちゃんはその一人だったのかもしれないって……。
だから、人間は「シロかクロかで判断するものじゃない」ってワニワニンは言ってたんだ。
……でも、まぐれで勝つって、それひどい。
「うん。勝った事でも、努力した事でもない――
ただ、きみの優しさが、あの子に勇気を与えたんだよ」
そして、ワニワニンは、こう言った。
二人は、あさみちゃんが手術を受けてくれた理由を、こんな風に考えて――それって。
うん。
なんだか……そういわれると……。
ウチの頑張りとか全部、無駄じゃなかったとか思うと……。
ちょっとだけ、涙出てきた。
「良かった……。
とにかく、なんでも……あさみちゃん助かって……」
ちょっとだけ……じゃなかったかも。
あさみちゃんがなんか、当事者とは思えないくらい元気にこっちを見てて、ウチは逆に慰められそうになった。
「きっと、きみのお陰だよ……」
極悪帝国には一人で勝てなかったし、特訓の仕方も間違ってたかもしんないし、結局最初から最後まで全部ダメだったのかもしんないけど……。
それでも、ウチ自身が何かをした事は無駄じゃなかった。
それがあさみちゃんが手術を受ける時の心の支えになって――。
「あっ、マジカル三姉妹だ!」
「マジで来てるじゃんっ!」
あっ……なんか、退院するあさみちゃんと同じくらいの子供たちがいっぱい病室に入ってきた。
何だろ、こいつら。
もしかして、あさみちゃんの友達……?
「ねえ、テレビで言ってたあさみちゃんって、このあさみちゃんの事?」
「すげえ、本当にマジカルギャルがお前の為に戦ったんだ!
いつも男子に怒ってばっかのこいつに!」
「うるせーっ! 退院したから、またあんた殴るっ!」
なんだかんだ、クラスメイトとも仲良しみたい。
ウチらのところに寄ってくる友達より、あさみちゃんに寄ってくる友達の方が多いって……すごい。
後ろを向いたら、あさみちゃんのお母さんがいる。
ウチと目が合った瞬間、ふとゆっくりお礼をしたから、ウチはその喧噪の中でそっとお辞儀を返した。
――ウチらの今回の戦いは、正しかったのかはわかんないけど、なんだろう。
あいつの言う事が救いになった人もいて、ウチの言う事ややった事で助かったあさみちゃんがいる……それでいいのかもって思った。
あいつにも、きっと、何か約束があったのかもしれないけど……。
とにかく、ウチらが一人で戦った話はこれでおしまい。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
【――とある病院】
――外の景色だけは綺麗な病院だった。
伝染する病気でもないのに隔離された不治の患者たちがたくさん押し込められて、それが夜な夜なあらゆる病室で、別種の痛みに呻いている。
これは、極悪帝国がまだ殺し合いの戦争をしていた時代に出来上がった負傷者や病人の山だった。魔法技術にまだ脆弱な部分が多く、今よりその戦闘リスクが多かった頃に深手を負って、技術が追いついた今も苦しみから逃れられない、早すぎた戦傷者たちだった。
彼らの政府は補償の為に動いているが、まだしっかりとその手は行き届かず、こうした粗末な環境に鮨詰めにされるのが極悪帝国の現実である。
そして、その廊下を、裾の長い白衣とペストマスクをした中肉中背の男が歩いていた。
この病院の一人の軍医――死神ドクターC.D.である。少々変わり者だったが、医者としての使命については誰にも負けぬ男だった。
彼はある男が伏しているベッドまで近づいていった。
「よう」
D.C.が目的の男のベッドの横でマスクを外すと、その下からは痩せこけた美青年の姿が覗いた。
医療に従事するなかで起こるストレスは、彼を肥やすのではなく、こうした痩せた容貌にさせたのだった。
彼自身も、頻繁に病には罹る。それがこんな風な影響を及ぼしたのだろう。
「よぉ」
……ベッドに伏す男は、寝転がったままでも意識は起きていた。
彼はC.D.の旧友だった。かつては中隊長として戦った身ながら、今は戦いもできずにこのベッドで、いつかを待って一日を過ごす。
治る見込みのない病の中、戦しかない彼はひたすらに衰弱した。筋肉のみなぎる体躯だった彼は、日を置くごとにただのぜい肉の塊になって、それでも何もする事がなく、ただ苦しみに耐えて生き続けていた。
彼は、横になったまま、C.D.に問うた。
「……C.D.……美しい最後が飾れる場所は見つかったか?」
「いや。――悪いな、約束したんだが、負けちまったよ。
悪い世界じゃないと思ったんだが、しばらくお前に良い死はあげられん」
「そうか……残念だな」
「まあ、つまりはまだ死ぬなって事さ。
俺も、次はまたどこかの世界に行って、同じように戦いを挑むよ。
地球より多くの人が死を救いを求めてる世界だってある。それもその世界じゃ間違っちゃいないさ。
楽しみにしていてくれ。良い報告を楽しみに、せめてその時まで生きてくれ……」
「ああ……。その日が楽しみだよ……。
でもな、最近お前が負ける報告を聞くのも、最近少し楽しくなったんだ……」
「……ふっ。そう言われると、負け甲斐があるよ。
どんな奴に負けたか、俺の情けない話を聞かせてやるさ」
「まあ、そん時は、アドバイスするさ。元々お前は医者、俺は元戦士。
どこが悪かったのか教えてやれる。
なんか、頭の中でお前の戦う姿を想像してケチつけるのが、一番楽しいんだ」
「俺もべつに、弱くはないはずなんだがな……」
C.D.は、ここで伏す旧友の為に、しばらくはどうにか色んなところに稟議を通して、戦い続けようと考えていた。
彼にとって、生きている間の優良なエンターテイメントが出来たようだし、安楽死の世界こそ生まれなかったものの、どうやら思わぬ収穫はあったらしい。
勝つのもあり、負けるのもある。それでいいさ。
あとは、運命に任せよう。生きててほしいが、本人の望みとあればそうもいかない。いつか、運が良ければ彼の苦しみを生きて治せる魔法が生まれるかもしれないし、運が悪かったら彼はその時死んでいる。
勝てば彼に良い死に場所を与えられるが、負ければ彼の苦しみは持続して……ただ、それでも、土産話が出来るだろう。
薄く笑いながら、C.D.は、一人で立ち向かってきた少女の話をした。
【第8話:おしまい】
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