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魔法少女物語~魔法の××× マジカル○○○~  作者: 庭野 ワニ
国文学者・東田 光秀先生 登場
37/54

第7新卒:『魔法少女はどこに消えたのか』その3(終)




【緑川綾香】




 私は大きくて活気のある陽海ようかい駅前にまで来ていました。

 あの古書店も、この駅前から数百メートルのところにあります。


 少々疲れたので、水のない噴水のあたりを腰掛けに使って、人の波をぼーっと眺めています。

 鞄の中のワニワニンさんが、ふと私に声をかけます。


「……ねえ、綾香くん。

 ぼくの世界にも、『魔法まほう』という虚構の産物があった。その言葉があったから、ぼくらは新しい技術に『魔法マジカル』と名付けたんだ。

 そして、同じように、あらゆる世界の人間が、『魔法』の概念を持っていたり、彼の語るような虚構のイメージを持っていたりした。……なんでなんだろうね」


「何故なんでしょうね」


 それは、誰しもに共通する願望を満たしてくれる技が空想しかなかったからかもしれませんし――もしかすると、東田先生の言う通り、誰かがそれを目の前に見たからかもしれません。

 結局のところ、私にはそんな事はわかりませんし、考えても仕方がありません。

 本当に魔法があって、それを誰かが覗いてたという話があったとしても、私はそれが科学であったのか魔法と呼ぶべきものだったのかまでは知り得る術がありません。

 私は、とりあえずしばらく駅の近くを歩く事にしました。




「――あれ、委員長も陽海ようかい来てたんだ」




 と、駅前のデパートを歩いていると、何となしにミウさんと番長さんに出会いました。

 何という偶然でしょうか。待ち合わせもせずに、こうして三人とワニワニンが揃うなんて。

 しかし、それにしても、二人だけで遊んでいるとは。


「どうしたんです、二人揃って。私を仲間外れにデートですか?」


 私が茶化して訊いてみると、二人はすぐさま否定しました。


「違うよ、そこで会ったんだ」


「ほんとにたまたま」


「アタシはこの前、クリスにシャツ貰ったから、なんか買って来ようと思って」


「ウチは、ラーメン食べに来たんだけど、なんか番長がいた」


 あ、クレープじゃないんですね……。

 とか思っていたら、ちょうどまた、今度はクレープの話を始めました。


「でもなんかお腹空いたし、クレープ食べようかな~」


「さっき食べたばっかりじゃないのか?」


「いや、なんか来るの遅かったみたいで、並びすぎてて嫌になっちゃって。お昼抜きのまま三時」


「……じゃあ、クレープ食べに行く?」


「そうですね。良いかもしれません」


「よし」


 今回出番は少なかったのですが、彼女たちもそれぞれ日常を謳歌していた模様です。

 まあ、極悪帝国のない休日は、のびのびと過ごすのも良いものです。

 それにしても――まさか、休日のこんな日に、示し合わせたように三人で会うなんて、これも何かの縁だったのしょうか。

 凄い偶然というのもあるものです。




「――月並みですが……これが、私にとって一番の魔法かもしれません」




 運命などは信じませんが、私の隣にはその信じていないはずのものが二人いる。

 聖なる光がなければおそらく仲良くはなれなかった彼女たちが隣にいて、お互いの存在が、お互いの悩みを解決していった。

 私がずっと抱えてきた悩みも、あの日運命が変わった事で、自然と消えていったんです。


 もしも、魔法があるなら、それこそが魔法という事でいいじゃないでしょうか。

 そして、こうして二人がここにいる事も、科学などではないでしょうし、当然ながらストーカーしていたわけでもありません。


「えっ」


「――なんでもありません」


 私は、彼女たちの後を追って行きました。

 その日、極悪帝国も休日だったのでしょう。丸一日、地球侵略の動きはありませんでしたし、久々に完全に忘れて過ごす事ができました。




◆ ◆ ◆ ◆ ◆




【東田光秀の書店】




 ――そろそろ客が来る時間だと思い、東田光秀はカウンターに待機していた。


 ラジオの音だけが聞こえる店内で、東田は、誰か客が来た気配を感じている。

 タッチ式の自動ドアはやかましい音をあげる。


 万引きを警戒して、東田はしばらく音の気配を追っていた。

 足取りはこれまでの常連客の誰とも違い、どうやらその歩幅などから老女のようだと感じた。


「……この本、いただけますか? 値段、わかります?」


 そして、しばらくしてその客がレジに本を持ってきた。声の感じだと、予想通り、どうやら年老いた声の女性のようだっだ。

 自分とあまり変わらない年齢くらいだろうか、などと西田は思う。

 閉じ切った東田の目には、彼女がどんな女性なのかは見えなかったが、声の位置から背丈の小さな老婦人だとわかった。


 東田は彼女が差し出した本を、そっと受け取って、その厚みを確認した。

 先ほど、触った覚えのある厚みだった。


「……ええ。この本には、先ほど、ちょうど百円をつけました」


「わかるんですか?」


「私は、厚みだけで本が判別できますし、値段もすべて記憶していますから。

 それに……何しろ、これは私自身が書いた本です。売れはしませんでしたがね」


「そうでしたか――」


 老婆は、魔女のような瞳でそっと笑って、財布を開けた。


「あら、小銭が百円しかない。丁度いいわ」


「それは良かった、私にとってはお札よりも便利ですからね」


「私も小銭で払えなかったら遠慮していましたもの」


「それはもっと良かったです。ようやく、私の本が売れるんですね。

 読んでもらえるだけで嬉しいですよ。

 少々強い言葉で書きすぎたのが反省ですが、そこには私の見ていた夢が載っていますから……」


 東田は、柄にもなく笑った。

 ただの接客対応というだけではなかった。

 なんだか、この老婦人の近くにいる時、少々瞼を開いてみたくなるのだ。

 しかし、それは叶わない。まあ、それでもいいかと思った。


「では、百円、丁度です」


 東田は、とにかく百円玉を受け取って、彼はその本を手慣れた手つきで包装する。

 そして、それを老婦人に渡す時、彼は思わず、自分の中にこみあげた言葉を返してしまった。




「――初対面のお客さんにこんな事を言うのも何ですが、あなたがそこにいると、懐かしい気持ちがします。

 なんだか、とても、不思議な気分になる……魔法にかけられているような」




 ――そう、戦いに使われない魔法は、今もどこかにあるのかもしれない。




「……私も、この本のタイトルを見ていると、少し、……子供の頃の事を思い出すんです。

 私が、ずっと昔、魔法にかけられていた頃の事を……」




 ただ、手に入れた子供たちは、それが悪い事に使われないように、力をそっと隠し続けて――それからしばらくの間だけ、夢の世界へと返してしまっただけで。






【第7話:おわり】




◆ ◆ ◆ ◆ ◆



【参考文献】


『マジカル・センチュリー OUT86年7月増刊号』(1986年・みのり書房)

『魔女っ子倶楽部』(1987年・バンダイ)

『魔女っ子デイズ』(2009年・ビー・エヌ・エヌ新社)

『クリィミーマミはなぜステッキで変身するのか?』(2013年・日経BP社)


ほか色々


『魔法のプリンセス ミンキーモモ』(1982年・葦プロ)以降発表の引用作品ほぼ全話

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