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魔法少女物語~魔法の××× マジカル○○○~  作者: 庭野 ワニ
非情の殺し屋クロック・ボーガン 登場
17/54

第3新卒:『もう、何も…』その3




【マジカル女番長(夢咲いちご)、地獄ヶ原到着 ―― 日曜、午前十一時】




 地獄ヶ原――そこは、普段戦いで移動ワープする採石場だった。

 ……こんなに物騒な名前だったのかと思う。だが、多くの敵にトドメを刺したこの場所が敵の命運を決める地獄ヶ原と呼ばれるのも、何となくわかる気がした。確かに、敵にとっては地獄かもしれない。

 採石場の周囲には、たくさんのマスコミや一般人がカメラを持って構えている。やはり極悪帝国が怖いのか、彼らは凄く距離を置いて、崖のようなところからじっと見ているだけだった。

 多くの人が見ている。これからのアタシの行動を。


 排気音を消した魔法の箒(バイク)で、アタシはその光景を空からその様子を見ていた。


「――魔法少女マジカリスト、どうした……あと一時間だぞ」


「おーっほっほっほっ!

 来なければ、どちらにせよ相手の戦力は一人分削られる!

 侵略できなくとも相手にとっては大打撃!

 あなたへの報酬も弾みますわ! 全部税金ですけど!

 おーーーーーっほっほっほっほっ!!」


 アタシがすぐ近くまで来ている事に気づいていないらしく、そんな会話を交わしている。

 極悪帝国のうち、あの殺し屋――クロック・ボーガンと、もう一人、金髪縦ロールの派手な女が、机や椅子を持ち込んでそこに座っていた。運動会の本部テントみたいな物を設営して、しっかりと雨避けもして待っている。

 よほど退屈なのか、二人はそう言いつつ、ずっと遊びに興じていたようで、机の上にはトランプやゲームやクロスワードパズルなど、様々な遊び道具が乗っかっていた。


 ……そう。こんな時に、呑気に。アタシたちが、地球の運命と友達の命を天秤にかけて悩んでいる時に、こいつらは。

 こんな奴らに地球を渡さなければならないのか。


 アタシは、内心そんな風に怒りつつも、それを抑えて、二人の前にゆっくりと魔法の箒(バイク)を下降させた。

 その場にいる全員が、アタシの様子に気づいたようだった。


「あら……来ましたわね」


「ああ、来てやったぞ!」


「えっと、マジカル銀河万丈(ぎんがばんじょう)でしたっけ?

 あなたお一人ですの?」


「アタイは……」


 マジカル銀河万丈じゃない、マジカル女番長だ。

 だが、そんな訂正よりも先に、アタシは名乗った。




「アタイは、ただの……仲間を絶対に見捨てない暴走族だよ……!!!」




 それが今のアタシ。

 マジカルギャルは来ないかもしれないが、一人でもここで降伏を宣言し、地球を売って、友達を助ける。

 それがアタシの今日の変身の目的だ。

 二度目までと違い、悪い奴らと戦う為じゃない。


「ほう、今回は一人か……」


「ああ。……アタシは、魔法の裏切り者! マジカル女番長!

 ……この世を荒らす不埒な輩に、降伏宣言申し込む!!」


 周囲の人々たちはざわめき、カメラのフラッシュが一斉にアタシに焚かれた。


 今日はそうだ。

 ここにいる人たちの味方じゃないし、女の戦いではなく、戦いを終える為に来た。――勿論、それは戦うより過酷な未来かもしれない。それでもいい。

 友達を見捨てないのが、アタシの矜持。それが、女番長の道だ。




「……覚悟は、できてる!」




 アタシに迷いはない。

 二人の顔を直視する。敵意なんて消した。怒りも抑えた。

 あとは、向こうの提示する契約書にサインし、降伏するだけだ。

 念を押すように、縦ロールが聞いてくる。


「――ワタクシたち極悪帝国に地球を明け渡すというんですわね?」


「……」


「どうなんです?

 地球を明け渡すなら、今すぐにここにいる全員の前で、

 あの無数のカメラの前で、『地球あげます』と叫びなさい!

 あなた一人でも宣言すれば、

 この解毒剤は今すぐにあなたたちに渡す事は確約しましょう!

 そして、あの魔法少女マジカリストの命は助かりますわ……」


 わかってる。

 どんな屈辱的な事だって、それしか委員長を助けられる手段がないのなら、アタシは修羅の道も往くつもりだ。

 アタシは、色んな思いをぐっとこらえて、委員長に声をかけてもらった時の事や、一緒に帰ってくれた時の事や、共に戦った時の事を思い出す。

 ……やっぱり、何があっても死なせたくない。


「――……ああ、わかったよ。言う通りにする。

 だから、アタイたちに解毒剤を渡してくれ」


「ええ。こちらも約束は守ります。

 では早く、すべてのカメラの前で宣言なさい」


「地球、をあげ、……」


 何故か、二の句が出ない。

 これじゃダメだとわかっているのに。

 そうすると、縦ロールが、焚きつけるように急かそうとしてくる。


「どうしたの、早く……」


「わかってるよ!! 地球を、あげま――!!」


 ぐっと息を飲み込み、ええいままよと、全部思い切り言いかけた瞬間だ。




「――待ったっ!!」




 ……どこからともなくアタシを止める声が響いてきた。

 アタシは――、縦ロールは――、クロック・ボーガンは――、一般人(モブ)は――、全員、それが誰なのかを探した。

 声の主は、勿論、弁護士でも、検事でも、証人でもでもない。


 その瞬間に現れた乱入者――マジカルギャルだった。


「待った待った待った!!

 あげまないあげないあげない!!!

 ダメダメダメ、ぜったい地球あげないよっ!!

 ハイ、ハイ、ハイ!! 解散、解散!!!」


 かなり慌てた様子で、彼女はアタシの降伏を妨害している。

 どこかほっとした気持ちがないとは言い切れないが、アタシはそれ以上に、彼女がそうして現れた事にとても驚いていた。


「マジカルギャル!?」


「ダメだよ、マジバン!! 地球はあげちゃダメっ!!

 この地球には、みんなの未来と、マイマイの想いがかかってるんだから!!」


「何だと!」


「だから絶対ダメッ!!

 そんな事したら……そんな事したら、

 この地球の子供たちと、それにマイマイのプライドはどうなんのっ!?」


 ……マジカルギャルがそう言う。

 だが、アタシには腑に落ちない。なんで彼女がそんな事を言うんだ。

 委員長にあんな事を言った彼女が――たぶん本心じゃないとはわかっているけど――、ああ言い放った彼女が、最後にこうして止めに来る事を、アタシは快くは思わなかった。

 マジカルギャルはひたすら必死に、アタシを説得しようと言う。


「ウチら、友達なんだよ?

 だったら、マイマイの心まで守らなきゃダメだよ!

 それが……それが本当の仲間でしょ! ね、番長!」


「いや、賛同できない!

 まずは仲間の命を守らなきゃダメだ!

 仲間一人助けられない女が、地球のみんなを守れるわけがないっ!」


「そうは言うけど……!」


「それに……地球の権利はいつか、どうにか戻るかもしれない!

 だけど、委員長の命は一度でも失ったら、絶対に取り戻らないんだ!」


 全部、命あっての物種だ。

 侵略されたって地球は取り戻せるかもしれない。だが、委員長の命は絶対に取り戻らない。


「だけど、だけど、だけどさ……!!

 私たちがずっとマブダチでいるには……それが一番ベストで最高なの!!

 なんでわかんないの!?」


「お前こそなんでわからないんだよ!

 もしアタイを止める覚悟なら、たとえあんたでもぶつかってみせるぞ!」


「じゃあウチもマジでマジバン、ボコボコにするよ!? いい!?」


「やってみろ! アタシの方がたくさん武器もある!」


「元々はウチの方が絶対強いし!」


 ……こんなところで戦いたくはないが、今できるのは、このマジカルギャルの妨害を止める事だけ。

 正午まで時間もない。このままひたすら論を交えたところで、アタシのタイムリミットは尽きてしまう。

 それより前に、アタシは彼女を倒して、再び降伏を宣言しなければならない。

 今すぐに「地球をあげます!」と叫ぼうとしたなら、すぐに彼女が攻撃してでも妨害する。だから、それより前に彼女を――友達を叩き伏せる。




 アタシは、情熱の木刀(パッション・ブレード)を右手に出現させる。

 マジカルギャルは折りてきて、リコーダーバトンを右手に出現させた。

 アタシたちは、対峙する。




「おーーーーっほっほっほっほっ!!

 これはケッサクですわ。

 魔法少女マジカリスト同士の魔法少女性(?)の違いからの仲間割れ!!

 昔堅気の番長と、今風のチャラチャラギャルが隣で一緒に戦うなど、

 ハナっから無理だったのですわ!!

 おーーーーーっほっほっほっほっ!!!!!」


 縦ロールの不快な笑い声が耳に入ったが、アタシは無視する。

 目の前にいる敵に――マジカルギャルに集中する。

 木刀を構え、バトンを構え、それぞれが目の前にいる相手に己の意思を告げていた。


「――悪いけど、絶対マジバン止めるからっ!

 最後だっていうなら……

 最後だから、マイマイの気持ちはウチらが守んなきゃダメだからっ!」


「じゃあ、悪いけど、アタイは絶対助けるっ!

 友達ひとり守れなかったら……ここで仲間を売ったら、

 スケバンの名が廃るっ!

 時間もない……解毒剤を手に入れて、委員長を助けなきゃならないんだっ!」


 この道が、アタシの生きる女番長の道。

 木刀を持って叫びながら駆け出したのは、アタシだった。

 何より切羽つまっているのはアタシの方だ。向こうは時間を稼げれば勝ちだが、アタシはもし時間が来たら全てが終わってしまう。


「せやっ!」


 それより前に戦う為、アタシはこの木刀をマジカルギャルに向け叩きつけようとした。

 だが、そんな一撃は両手で真横に構えたリコーダーバトンが防御する。――木刀は、リコーダーに向けて強く叩きつけられた。


「こっちも……ここで折れたら、ギャルの評判落ちるから!」


 マジカルギャルは強い力で木刀を叩き飛ばす。

 リコーダーバトンからは何故か玩具のピアノのような軽快な音が鳴って、アタシを数歩退かせた。


「元からそんなもん評判地の底だろ!」


「は!? 何それっ! ウチらギャルが何したっていうの!?」


 今度はマジカルギャルの反撃だ。

 彼女はギャップ萌え二丁拳銃をアタシに向ける。――たんっ、たんっ、たんっ、とそれがアタシに向けて発射された。


 アタシはすぐに番長通学鞄(バンチョーシールド)を出現させて、それを防御する。通学鞄の上で、弾丸が弾ける音がする。

 その音に紛れて、アタシたちはなおも口喧嘩が止まらない。


「しただろ!

 アンタの友達に教室でバカにされたの、わりと悔しかったんだぞ!」


「それ……気にしてたの?

 アタシだってやりたかったわけじゃないし!」


「なら断れよ! 人に恥かかせて……!」


「だってあん時はムリヤリ……!

 ウチは、ああいうの大嫌いだし!

 それに、それに……ウチらだって友達じゃん!

 なんでそういう言い方すんの!? バーカ、バーカ!!」


 子供のようにそう叫ぶマジカルギャルに向けて、今度はアタシの手に剣玉鉄球が構えられた。凶悪な武器だけど、仕方ない。

 これは、振り回せば、糸で繋がっている鉄球が自在に敵にぶち当たる。

 マジカルギャルを狙い、アタシは、鉄球つきの剣玉をムチのように放った。


「――アンタには他に友達がいるかもしれない……

 でも、アタシにとっては……委員長は大事な友達だっ!

 絶対失わないっ!!」


「本気で言ってんのっ!? ギャルナメんなしっ!

 たくさん友達がいれば、あんたたちが霞むって思ってんのっ!?

 ……そんなわけないじゃんっ!!

 そんなんだから、友達少ないんだよ!」


 マジカルギャルは、鋼鉄の革靴(ローファー)で向かって来る鉄球を蹴り飛ばした。

 強い。

 アタシは、それ以上に、彼女の言葉に怒りを込めていた。――勿論、何度も何度も友達って言われる事が、アタシには……すごく、嬉しかったんだけど。

 アタシは跳ね返ってきた鉄球をもう一度、マジカルギャルに向けて放つ。


「友達少ないとか……うるさいなっ!」


「うるさくないしっ! そっちの方が声でかい!!」


「声のボリュームの話じゃない!」


「どういう意味でもうるさいのそっちだし!

 いっつもいっつも、普段は声ちっちゃいくせして、たまに超声でかい!」


「気にしてる事言うなっ!」


「でも、そうやって……誰も持ってない好きな事あんの超羨ましい!

 スケバンとか、昔のドラマとかアイドルとか……

 よくわかんないけど自分だけの好きな事あって!

 そういう時だけでっかい声で話せて! 自分だけの友達いて!」


「お前だってメジャーな趣味あって、友達たくさんいるだろ!

 そっちの方がアタイには羨ましい!」


「でも番長みたいなの、カッコいいし……!

 今はそっちが流行の最先端だから……この前も友達めっちゃ集まってたし!」


 友達……って、アタシに集まったのは、ただのクラスメイトだ。

 でも、彼女にとっては、もしかして、クラスメイトも「友達」だったのだろうか。


 そんな事にはっとする。少し躊躇が生まれる。


 嬉しい。なんか、嬉しい。


 ミウとは戦いたくない。


 でも――思い出す。




「本当に友達だって……アタイたちの事を友達だって言えるのかよ!?」




 忘れそうになったけど、それでもアタシには、まだ一つ、凄く許せない事があったんだ。それが頭をよぎった。


「――お前、委員長に言っただろ……『感情がないみたい』って!

 そんなワケないよ、あいつは……

 委員長は、『アタシ』に最初に声をかけてくれた!

 一緒に帰ってくれた!」


「……!」


「委員長だって、死ぬのが怖くないわけなんてない!

 生きたいはずなんだよ……そんな事もわからないのかよっ!?

 ……あいつを助けられるのは、アタシたち、この世で二人だけなんだ!

 汚れたっていい、どんな目に遭ったっていい……

 アタシは、たった二人の仲間を助けたい!

 それがほんとの仲間だって思う!」


「それは……」


「アンタは違うのかよ!!」


 その事が、アタシには許せない。

 怒りに任せて咄嗟に、アタシは爆弾独楽(バクダンゴマ)を投げる。

 アタシの両手がそれぞれ放った爆弾独楽は、高速回転しながらマジカルギャルの方へと狙いを定めて接近する――。


「そんな事わかってる……わかってるよ!

 ウチも後悔してんの……あんな事言ったの、『委員長』には謝りたいよ!

 でも……それでも……委員長は、こんな事望んでないから!

 これからもずっとマブダチでいたいし、

 それなら、だからこんな事はやめてほしいって、

 きっと委員長も思ってる筈だし――!

 それを守れるのだってウチらだけなんだよ!」


「……じゃあ……じゃあ、ここで委員長を失ったら、お前は後悔しないのかっ!?」


「それは……っ!」


 ――いま、マジカルギャルにはほとんど武器がない。

 このままいけば彼女のもとで爆発させられる。バリアーを張ったとしても、彼女のバリアーは弱い。爆弾攻撃でたぶん壊れるだろう。

 そこを突いて、最後に御縄妖妖(オナワヨーヨー)か、攻撃銀鎖(アタック・チェーン)で仕留めればチェックメイトのはずだ――算段は出来上がっている。


 何故か、マジカルギャルはそれを避けようとしない。

 いや、戦闘を忘れさせるほどの強い想いが彼女の中で、避けるとかバリアーを張るとかそういう行為を忘れさせているのだ。


 アタシもなんだか、いま、すごく……マジカルギャルの、青山未羽の言葉が胸を締め付けてくる。


 このままベーゴマが向こうに届いて爆発すればいいのか?

 それからアタシは彼女を倒して、降伏を宣言すればいいのか?



 それが、その時、なんだかわからなくなった……。




 ――――すとんっ




 しかし、そんな躊躇も、爆弾攻撃も、「あるべきところに収まるような」心地よさを伴った美しい音が切り裂いた。

 爆弾独楽は、マジカルギャルのもとへと届く前に、何かに「射貫かれて」爆発する。

 アタシとマジカルギャルが戦っている、丁度間で――矢が落ち、爆弾を射貫き、そのまま爆発させたのだ。


「えっ……!」


 この技――このタイミングの良さ。

 アタシは、それが誰の攻撃なのか、すぐに理解した。

 アタシたちの味方が、当の本人がここにやって来たのだ。

 最初の戦いの時のように、一人だけ遅れて。


「――やめなさい、二人とも! 見苦しいわ!」


 上空で魔法の箒(バイク)に跨り弓を構える、マジカル委員長の叱咤の言葉だった。

 それは、アタシたち二人に等しく突き付けられる。

 アタシたちは、戦いをやめて、彼女の方を見ていた。

 彼女は、ゆっくりと下降して、アタシたちの前でワニワニンと共に降りてきた。


「委員長……!」


「まったく、ずっと戦いながら口やかましく喧嘩して……

 ロボットが出てくるアニメでも見てるのかと思ったわ……」


 この状況下、なんだか余裕を作ったような口調で、マジカル委員長はアタシたちに言った。

 だが、アタシたちの戦いをずっと見ていたという事もその台詞が告げていた。


「マイマイ……」


「――二人とも。いまの私の為の争い、

 悲しいけど……でも、なぜか凄く嬉しかったわ。

 だけど、これが最後の時だというのなら、

 私は命が尽きる最後の瞬間まで戦うだけ。

 それに、あなたたちはこれからも隣に立つ仲間同士よ。

 私たち三人が戦う相手は、そこにいる……極悪帝国だわ!」


 ……これが、委員長の望む答えだっていうのか。

 アタシは間違ってた――そうなのかな。わからない。

 強がっているだけかもしれないし、アタシも、たぶんミウも、もしかしたら委員長自身さえも――まだ答えなんて出ていないのかもしれない。

 正しいとか、間違っているとかじゃなく、ただ、委員長はアタシたちの争いを止めたいだけなのかもしれない。

 ……だって、こう言う委員長の手は、凄く震えていた。あと僅かの命に。



「勿論……私は生きたい。

 マジカル女番長さんの気持ちも、

 マジカルギャルさんの気持ちも、とても嬉しい。

 ……二人とも、合ってる、二人とも……大好きよ」



 委員長がこんな事を言うなんて。



「でも、だから――だからなのよ。

 最後まで、自分の理想(あこがれ)を捨てず、

 己の意思(ワガママ)を貫き、

 この星の秩序を守る。

 ……それが出来るから、それがそれぞれあるから、

 私たちは、『三人』いるの!!

 絶対に折れたりしないし、曲げたりしないし……

 たとえぶつかっても、どんなにつらい事に遭っても……

 私たちは、支え合う! 心の底ではそんな互いを尊重し合える。

 バラバラなんかじゃない……私たちはこの三人だから、一緒に戦える『んです』!」



 そうか……。

 委員長は、強い決意を秘めて、そう言った。

 この決意を、アタシは見捨てる事が出来ない。




「――だから、私の隣で……

 親友(マブダチ)として……

 委員長と、女番長と、ギャルと……

 最後まで三人で一緒に生きて……戦ってくれますか……?」




 委員長は、そうして、アタシたちの前で、薄く笑いながら、涙を見せた。

 彼女は、最後まで、己らしく生きようとしている。秩序を守るために。それを折ったら、生きる意味なんてないとさえ思っている。


 ……そうか、アタシたちは間違ってたって少し感じていたのかもしれないけど、でも、誰が正しいとか間違っているとかじゃない。

 正義の裏は別の正義だって言うけど……違う。極悪帝国はズルいし、たとえ何か目的があっても間違ってるし、アタシたちはどうやってもそこに立ち向かわなきゃならない。

 その事実だけは間違いないんだ。


 アタシたちは、そう、間違ってない。たぶん、全員が正しいんだ。

 多くの為に一人を見捨てられない事も。多くの為に一人を見捨てるしかない事も。

 誰かの命よりも想いを遂げさせる事も。逆に思いを遂げさせるよりも命を救う事も。

 この星にある秩序を守る事も。

 全部。アタシたちは、正しい。正義じゃないとしても、間違ってはいない。

 アタシが出した答えを間違ってるなんて言わないし――ミウも、委員長も、それぞれ合ってる!


「……」


 ……だけど、だけど、これからすべき行動は、決して地球を裏切る事じゃないんだ。

 こうして委員長が面と向かって、「隣で最後まで戦おう」って言ったのなら、アタシはもう、極悪帝国への降伏の為には戦わない。

 最後の瞬間まで戦う覚悟があるなら、アタシがするべき事は一つだ。


「――わかった!

 それが……それが、望みなら!

 アタシは、アタシは――最後の時を、一緒に戦う……!

 親友(マブダチ)として! それが、アタシにとって……委員長を見捨てないって事だから!」


 そうだ……アタシはこれから、委員長の想いを遂げる為に戦う。

 アタシの頬に一筋流れた温かい汗を拭う。


 マジカルギャルも同じように思っていたのかもしれない。

 彼女は少し鼻声で言った。


「そうだよねっ……でも、昨日はマジでごめん。

 ……委員長はすごく、優しくて、頼れて、あったかい心がある……

 ウチらの最高の親友(マブダチ)だよっ!」


 そして、マジカル委員長は、赤い瞳で告げた。


「私たちは、たとえこの身が消えようと……

 これからも私たちはずっと、『三人』です!」


 そう、アタシたちは三人。

 誰かが倒れても、誰かがいなくなっても、心は一つ。

 あの時から……三人が聖なる光に選ばれてから、ずっと、アタシたちは三人だ。

 三つの瞳は、同時に敵を睨んだ。


「なるほど……この解毒剤はいらないという事ですわね」


 縦ロールは、そう言って、保管していたアンプルを粉々に握りつぶした。

 どこか薄い笑みを浮かべて――委員長の生命線を。

 ああ、これで、もう委員長は助からない。アタシが欲しがったものはもうなくなった。


「いくよ」


「ああ」


 ……だけど、アタシたちはもう決めた。後悔は、しない。最後の時を一緒に戦う。

 ワニワニンは、この殺し屋には束になっても敵わないと言ったけど、アタシたち三人なら、それが出来るかもしれない。


「貴様ら、先ほどと気迫が違う……一体何者だ!!」


 クロック・ボーガンが立ち上がって、アタシたちに聞いた。

 確か、この手の質問には、一回目の戦闘でアタシ、二回目の戦闘でマジカル委員長が答えたような気がする。

 それなら、三回目はマジカルギャルの番だ。




「ウチらは、ただの……女の友情に涙する暴走族だから……!!!」




 キマリだ。

 アタシは勢いに乗り、いつもの背景演出を出さずに、そのまま採石場で名乗りを始めた。




「――(じゃ)なる魔物の薔薇の舞、今宵咲かせて魅せましょう……」


「明日の(みこと)があるのなら、それを捨てても()きましょう……」


「走りに命懸けてます、来れるもんならついといで!」


「……初代魔法連合しょだいまほうれんごう魔侍華流女番長マジカルおんなばんちょう――紅魔利子(くれないまりこ)!! 見参!!!!」




 今回は、単独で名乗った直後でも、アタシの後ろで赤いナパームが爆発する。

 ……次はマジカルギャルの番だ。

 彼女もまた、プリクラの背景演出を使わないで、採石場をバックに名乗り始める。




「ゥチは、正義のヒーロー!! マジカルギャル!!

 またの名を……クレープちゃん♪ ダヨー★

 二人とも……これからも、ずっと……よろしくねっ!!(^^)」




 背景演出がないので、顔文字を使っているのは見えなかったが、それでもなんとなくわかった。彼女の後ろで青いナパームが爆発する。


 そして、お待ちかね。

 毎回名乗り方を変えるマジカル委員長だ。冒頭(アタシはテレビで見た)で言ったように、今回の彼女はここぞと言う時に名乗る。

 今回の一句――。




「ここで一句……!


 ――――どく恐れ


 ――――戦う私は


 ――――ひとりじゃない!!


 以上、麗しの大和撫子……マジカル委員長!」




 ひとりじゃない、は全部の季節の季語。

 今回は、「どく」が矢の「毒」を恐れる事と、孤独の「独」を恐れる事にかかっている委員長らしいとても見事な俳句だ。

 ……そうか、アタシと同じで、独りでいるのが怖かったのか。

 この俳句は、アタシの百点と、マジカルギャルの百点と、マジカル委員長の自己評価の百点が合わさって、合計無限点はくだらない。


「すごい、三人の魔法値がめちゃくちゃ急上昇しているよ……!!

 これは魔法マジカル史上過去最高レベルの値だ!!

 法律の制限とかもうそんなの全部どうでもいいよ!!」


 ずっと喋っていなかったワニワニンが何かそんな事を言っていたが、それよりも先にアタシたちには言わなきゃならない台詞がある。

 そう、これまでずっと揃わなかった台詞。

 三人なのに、二人だけで告げていた台詞……これから、ずっとこの言葉を言えるのは、二人になってしまうかもしれないが――。

 それでも、せめて最後に、ちゃんと全員で!




「アタイたちは――」


「ウチらは――」


「私たちは――」




「「「魔法の大大大親友(マブダチ)!!! マジカル三姉妹スリーシスターズ!!!」」」




 ナパームが、アタシたち三人の後ろで、いつもより大きく炸裂した。

 アタシたちの背後で、何度も何度も大きく爆発する。アタシたちの爆発しそうな想いが投影されたように。

 だが、口上はここで終わりじゃない。




「この世を荒らす……!」


「不埒な輩に……!」


「女の決闘、申し込むっ!!!」




「「「覚悟しなっ!!!」」」




 史上初めて、アタシたち三人の声が揃い、無事、「三人名乗り」の成功だ!

 再びナパームが大爆発。


 これまでいつも、必ず誰かが欠けていた名乗りが、クライマックスでようやく完成したのである。

 アタシたち三人の心は、強い満足感に満たされている。


 敵も、その光景にかなり驚いている。――これは三人でやってもいいものだったのか、と。

 一般人(モブ)も、歓声をあげて興奮していた。

 勿論、アタシたちも最高潮だ。


「やっと、ウチら三人で名乗れたねっ!」


「……今回が最初で最後だけれどね」


「いや……最後じゃないんだろ。これからもずっと一緒だ……!」


 ああ、ずっと一緒だ。

 アタシと、マジカルギャルの隣に、心に、これからもきっといてくれる。

 委員長がいた事を背負って、これからも三人で一緒に侵略者と戦おう。

 ……とか思っていたら、ワニワニンはもっと興奮していた。


「すごいよすごいよ!

 心が一つになったおかげで、三人の魔法値がえげつないほど上がってるんだ!

 これはたぶん……奇跡が起こる流れだよ! マジで!

 そうとしか思えない! そうであってほしい!」


 魔法値がものすごく上がっている……?

 それで奇跡が起こる……? そうなのか? って事は、あと二十分の命の委員長も、これで助かるのか……?

 アタシが思っていると、マジカル委員長が何か冷静にしゃべりだした。




「じゃあ、奇跡、起こしちゃいましょう。

 ――天使の祝福、エンジェル委員長!!!!!」




 そう言うと、マジカル委員長の背中の巨大な天使の羽が生え、彼女はエンジェル委員長に覚醒した!




「この姿に変身した事で私の体の毒は全部消えたわ」




 すごい。委員長は助かったのだ。

 聖なる光のエネルギーが最大レベルにまで爆発して奇跡が起きた。

 前に言われた通り、聖なる光はアタシたちの精神エネルギーに作用する。精神状態が最大良好状態にまで達した今、何が起こってもおかしくない。

 復活して以来毎回歴代最強を拝命するゴジラたちも、今なら倒せるくらいの力があるに違いない。


「マイマイに羽が生えたっ! 超かわいい……!」


「今回はマジカル委員長だけか。

 今度は、全員で変身できたらいいな」


「まあ、話が続けば、いずれインフレしてそうなるとは思いますが……」


「じゃあ、少なくとも、

 三人全員がエンジェル化するまで、このシリーズを続けるか!」


「オッケー! じゃあ、まだまだ一緒だね!」


「私も、二人が追いついてくるの、待ってるわ!

 ちょっとだけ、この力を見せるわね!」


 そう掛け合っていたら、エンジェル委員長が両手からものすごく強い魔法マジカルをアタシたちに向けてこう言い放つ。


「エンジェル・ヒーリング!!」


 何となくこの一言で、技の効果までわかった。


「……これで大丈夫。

 あなたたちの先ほどの戦いのダメージもエネルギー消費もすべて、

 今のエンジェル・ヒーリングで回復し、

 更に言うとそれぞれの魔法値も全回復で、急上昇よ」


「サンキュー、委員長!」


「シリアス展開は終わりだね!

 こっからのウチら、もう、何も怖くないしっ!」


 これで、さっきまでのジメジメしたシリアス展開は終わり。

 ここからは、前回と同じノリで、楽勝で敵を倒すだけだ。

 そして、倒される敵、クロック・ボーガンと縦ロールは目玉が飛び出るほど驚いている。


「なんだと!? そんなのアリかっ!?」


「ありえませんわっ!! ズルですわっ!!

 やり直しなさいっ!! もっと時代に即した鬱展開をやりなさいっ!!

 魔法少女という言葉のファンシーなイメージを裏切る、

 おぞましいドロドロ展開で、死になさいっ!!」


 縦ロールがハンカチを噛みしめながら、悔しがっていた。

 エンジェル・ヒーリングは少しばかりチートだと思うが、たぶんそれが許されるくらいには、アタシたちも頑張ったし、悩んだし、戦ったのだ。


 委員長は、死や孤独の恐怖と必死に戦った。

 アタシやミウは、友情や使命や汚名や想い……色んなものに悩んで、ぶつかり合った。

 それだけ色々あったのだ。


 だから、ここからは、圧勝しても許されるはず。


 ――要するに、ネタバレすると、勝つ!


 マジカルギャルをはじめ、アタシたちは逆に文句を垂れる。


「これも全然アリだし! ありえなくないし!

 ズルくないし! 死なないし!

 戦いっていうのは、カッコよくて、可愛くて、

 泣かせる友情を持ってる方が勝つものなのっ!!」


「ここから鬱展開とか、死に展開とか、

 そっちの方がはるかにありえないしなっ!

 別に鬱展開が悪いとかじゃなくて、

 アタイたちは、こういうヒーローなんだよっ!」


「そういう事よ。それに私たちは……

 朝には出来ないダークな展開や仲間割れで高め合い、

 深夜ならそのまま死なせる展開も奇跡の力で乗り越えられるっ!

 だから、カタログスペック上そこまで強くないとしても、

 今この瞬間……どんな物語の、どこの誰よりも強いのよっ!!」


 それが、真理だ。

 クロック・ボーガンも、この言葉に圧されて、ものすごく悔しがっている。


「ぐぬぬ……貴様ら、朝と深夜の良いとこどりか!」


「その通り! もっと言うと、今と、昔と、洋と、和と、

 男向けと、女向け、子供向けと、大人向けと、

 そして女番長(アウトロー)委員長(マジメ)ギャル(テキトー)……

 全部の良いとこ取りが私たち! マジカル三姉妹スリーシスターズ!」


「ふんっ、ぬかせぇっ!

 そんな敵を殺してこそ、殺し屋としての俺のキャリアに箔がつくという物だ!」


 クロック・ボーガンは尚も諦めず、ボーガンを構える。一応、ポジティブ思考が殺し屋の生きる道なのかもしれない。

 だが、そんな姿は無視だ。


「さて、今回はいきなり採石場にいるわね。

 ギャラリーもこれだけ距離が離れているし、建物の犠牲も出ない。

 ……今までの理屈でいうと、今すぐバズーカが使えるという事よっ!!」


「オッケー!」


 ワニワニンの心地よい返事と共に、ワニワニンはワニワニバズーカと化し、アタシたちは叫ぶ。このプロセスは第一話を参照だ。




「「「完成~っ!!! ワニワニバズーカ!!!!!!」」」




 ワニワニバズーカを、アタシは横で支えた。

 アタシとマジカルギャルがそれぞれバズーカを支え、そこに魔法マジカルを注ぐ。

 エネルギーが充填され、今ならいつ発射しても敵を倒せる状態だ。

 アタシは、エンジェル委員長に言う。


「エンジェル委員長、今回はあんたが主人公だ!」


「それ♪ 一発♪ どかんと♪ 決めちゃって♪」


「了解。でも訂正……

 この物語は、どんな時でも、三人全員主人公!

 それが私たち……集団ヒーローなのよ!!」


「ぼくらの方向性も決まったね!」


 ああ。でも、とっくに決まってるよ、ワニワニン。

 ずっと、アタシと一緒に悩む誰かを、ミウと一緒に悩む誰かを、委員長と一緒に悩む誰かがいた。だから三人はいつも勝てた。

 ――まあ、話のメインみたいなのはいたけど。


 とりあえず、その感じでいくと、やっぱり今回は委員長がセンターで引き金を引く番だ。エンジェル委員長は引き金を握っている。

 クロック・ボーガンは馬鹿正直に、こちらに向けてボウガンの照準を合わせて突っ立っていた。

 勝てると思ってるんだろうか。


「……このボウガンで今すぐあの世に送ってくれるぞ、魔法少女マジカリストども!」


「――では、その攻撃は吹き飛ばします」


 敵も、すぐにそのままボウガンからあの毒の矢を放った。

 それよりちょっと遅れたが、声を合わせて……。




「「「ワニワニバズーカ、ターゲット・ロック!! ファイヤー!!」」」




 ワニワニバズーカの口から、魔法電磁砲が発射される。

 今回は、ワニワニバズーカの砲撃の勢いに、エンジェル委員長の羽が大きく揺らめいた。

 魔法電磁砲はそのまま、毒の矢に直撃して矢を消滅させ、次にクロック・ボーガンの体を包み、爆発する。


「あ!? なんだと……この非情の殺し屋クロック・ボーガンが……

 こんな……こんなふざけた奴らにいいいいいいいいいいっ!!!!!?」


 クロック・ボーガンはそんな絶叫とともに魔法値をどん底まで削られる。

 制限値どころか、エンジェル委員長の一撃はごっそりと魔法値を削ったのだ。

 それが、多くの人を殺してきた殺し屋クロック・ボーガンにだけ効く超都合の良い展開ってやつだ。

 そんな中で、アタシたちは、叫ぶ。




「「「やったぜ!!!」」」




 やった、そう、やったんだ。


 ……そう、アタシたちは、これからも、本当に、ちゃんと、生身で、一緒に戦って、一緒に生きられる。思い出も作れる。これからも、たくさん……。

 そうだ、そうなんだよ……。お別れじゃないんだ。


 やった、やったんだよ。

 そんな喜びに、マジカルギャルともども涙が出て、近くにいる仲間と抱き合いそうになったが――それより前に。


「――あ、抱き合うのはちょっと待ってください」


 エンジェルの力を使い果たしたマジカル委員長には何か用件があったらしい。

 その涙の抱擁の展開より先にやるべき事があったらしく、アタシたちの方を一度見てから、てくてくとクロック・ボーガンの方へと歩いていった。


 そうだ、一応、最初の戦いではバズーカの後にアタシと敵のタイマン、二度目の戦いではマジカルギャルと敵の掛け合いと成仏(?)があったように、マジカル委員長にもその後の敵との一対一の掛け合いが必要なのだ。

 たぶん必要じゃないんだが、毎回のパターンとして。


「あなたたちには出来ない事があるから、ちょっと行って来るわね」


「えっ……」


「まあ、どうせみんなの地獄耳で聞こえるんだけど、

 とりあえずこういう役目は、委員長の私から」


 ……何だろう。

 すごく、嫌な――ただし、内心ちょっとスカッとするかもしれない――事を言いに行く気がする。

 マジカル委員長は、すぐに、体から煙をぷすぷす出しているクロック・ボーガンのもとへと歩き出した。


「――非情の殺し屋クロック・ボーガンさん。

 これまでに多くの命を奪い、苦しめ、

 あまつさえ、

 学年一の才女でかつ大勢の男女に告白された経験のある私を

 殺害しようとした、恐るべき悪鬼羅刹……」


「復讐の為に、俺を殺すつもりか……?

 ふんっ……俺はこんなところでは終わらんぞ……

 俺を殺せばお前の心に闇が生まれ――」


「――今すぐ、あなたの罪。叩き斬ってみせましょう」


「あーっ! やめろ!

 ダメだ、来月には全世界殺し屋コンテストが控えてるんだ……

 だからこんなところで終わりたくないんですっ!

 来月まで……いや、やっぱり、もっと……とにかく、俺を殺さないでくれっ!

 わりと命が惜しいんだっ!」


「そう言う人間を、あなたはどれだけ殺してきた事か……

 たとえお仕事であっても、許されざる行い」


 思いのほか、小物じみた事を言いだした非情の殺し屋クロック・ボーガン。

 最初の敵のヒャッハーが意外と誇り高い戦士だったのに比べると、あんまりな姿だ。

 人間心理というのは最初のイメージから上がると凄く良い奴に感じるが、下がると凄く情けない奴に見えてしまう。

 彼は、まさに後者だった。


「――成敗っ!」


 委員長は、そう言って魔法の日本刀で彼に斬りかかる。

 アタシたちは、思わず目を覆ったが……そこにあったのは、服を斬られてパンツ一丁になったクロック・ボーガンの姿だった。ブリーフ派だったらしい。

 もっと目を覆いたくはなるが。


「――安心してください。私たちは、命は奪いません」


「ふっ……ふははっ!

 そうだ、お前らは誰も殺せない甘々の小娘だったな……

 その優しさに感謝するぜっ! ははははははははっ! ホントありがとなっ!!!」


 クロック・ボーガンはあまり反省していないようだ。

 これから帰っても、殺人や犯罪を繰り返すんだろうか――そう思うとやるせないが、そんな時、委員長は言った。


「ええ。どういたしまして。

 ――うーん……ただ、これは推測なんだけど……

 これまで多くの人間を殺めた罪、それはきっと……

 元の世界では多くの恨みも買ってきた事でしょうね」


「えっ」


「魔法値もいま、凄く下がって、

 帰ればあなたは魔法値のないただの人。

 魔法マジカルを持つ人間には捕まるんじゃないかしら」


「あっ……そうだ。

 俺がこれまで偉そうにできたのは、誰より魔法値が強かったからだ……。

 今までマフィアとか裏組織とか政府の奴らとか散々殺してきたし、

 魔法マジカルの力であいつらに捕まったら、

 最悪拷問されて殺されちまうかも。

 ――あっ、でもそれなら刑務所に入っちまえば……!」


「――さて、自首して司法で裁かれるにせよ、

 一体どんな刑が待つのでしょうね。

 これから元の世界へ帰るでしょうから、

 まあ、せめて、死刑のない国なら、

 そこでゆっくりと償いなさい。出られないでしょうけど」


「あっ……俺、よく考えたら俺の世界には、死刑制度がある。

 このまま元の世界に帰って捕まったら、数々の悪行で確実に法律で死刑だ……」


「うーん、それはごめんなさい、

 そうなると私にはどうする事もできないし、

 法に背いてまであなたを助ける義理が浮かばないわ。

 かと言って、法から逃げたらもっと恐ろしい目に遭うでしょうし。

 もはや、すべては、あなたの国の法と秩序にゆだね、

 その国の優秀な弁護士に頼るしかありません……アーメン」


 ……流石に哀れかもしれない。

 死ぬ以外に、治る方法がない殺人犯。――死刑でしか他人に迷惑をかけない道が開かれない悪者。


 ……とにかく、もうお迎えの時間だ。

 ダークマジカルコアを破壊された敵は、とにかく全員元の世界に強制送還される。




「やだーーーーーっ!!!!

 やだーーーーーーーーーっ!!!!!!!

 委員長助けて、帰りたくない、死刑になりたくない、

 ごめんなさい、ぼくが悪かったです!!!!!!

 誰か助けてっ!!!!!!! えーーーーーーんっ!!!!!!

 おかあちゃん……おかあちゃんっ!!!!!!!

 ……あっ、ダメだ。俺、試験管ベイビーじゃん。親の顔知らねえ――」




 そう言って、彼は元の世界へと飲まれていった。

 報いと言っては何だが、元の世界の刑務所に行ってもあのテンションなのだろうか。

 とにかく、非情の殺し屋クロック・ボーガンは、最後の仕事を失敗し、おそらく今後罪を重ねる事も――当人が望んだとしても――なかった。

 すっかり存在を忘れていたが、そんな様子を見て、縦ロールが笑っていた。


「おーーーーっほっほっほっ……

 どうやら、あの殺し屋、想像以上に小物だったようですわね!!

 笑い事じゃないんですけど、最後の断末魔はちょっとウケましたわ」


「あっ、いたの!? 縦ロール! 今度はアンタが相手!?」


 マジカルギャルが、縦ロールの前で構えた。


「――いいえ、今日のところは大人しく帰ります。

 それと、ワタクシの名前はファントムお嬢様ですわ。

 人の名前を間違えるなど失礼ですから、以後気を付けるように」


「……」


 最初にコイツに間違えられたような気がするが。


「――しかし、今日は随分と良いモノを見せてもらいました

 ……それだけでも収穫というもの」


「今の断末魔、そこまで面白かったか……?」


「そうじゃありませんわ。

 ――マジカル破嵐万丈(はらんばんじょう)

 あなたは既に、地球を売ろうとした。

 あなたの裏切りを見た世界は、あなたにどんな目を向けるでしょう?」


「何っ!?」


 アタシはマジカル女番長だが、そんな事を突っ込んでいる場合ではない。

 そうだ、アタシは委員長の為に地球を売ろうとした。後悔はしていないし、間違ってもないと思う――だが、アタシは、これから、地球の人間に非難を受けながら戦うかもしれない。

 そう思ったが、隣で二人が言ってくれた。


「でも結果両方助かったんだからいーじゃん!

 マジバンはマジバンで別に間違ってないし!

 ウチら未成年だから状況踏まえて情状酌量の余地あるし!

 ……それに、もしマジバンがめっちゃボロクソ叩かれたとしたって、ウチらも隣にいるし!」


「そう――だから、私たちは三人だと言った筈よ!

 誰かが傷ついても、他の誰かが寄り添える……それが私たち集団ヒーローの力」


 ……そうだな。

 アタシも、そう思う。


「ふんっ……せいぜい、人間を最後まで信じてみる事ですわ。

 あなたたちは、まだ……人間の本当の醜さというものを知らない

 ……ねえ、そうでしょう? ワニワニン……」


「えっ」


「――ふふふ。では、そろそろおいとましましょう。

 あ、あとちなみに、ワタクシの事を次に縦ロールと呼んだらぶっ殺しますわ、

 覚えておきなさい……ふっふっふっ、ごめんあそばせ」


 なんだか意味ありげな事を言って、縦ロールはどこかへと去っていく。

 彼女は一体、何をしたかったのだろう。

 人間の本当の醜さを知らせる……? 過去に、何かあったんだろうか? それに、どういうわけか新卒二年目で経験の浅いワニワニンの事も知っているらしい。

 ただの敵幹部じゃない。一体、何者なんだ……。


「……あいつ、一体」


「ねえ――あの縦ロールはああいったけどさ!

 見てよ! マジバン! マイマイ!」


 アタシがぼーっと考えていたら、横からマジカルギャルが呼んできた。

 一体、何を見ろっていうのかと思ったら――崖の上だ。


 再生怪人が名乗りそうな崖の上には、敵じゃなくて、アタシたちを見てくれていたたくさんの一般人(モブ)がいる。

 そして、みんな、拍手して、笑って、「ありがとう」と声をかけてくれて……アタシたちを、英雄ヒーローにしてくれている。

 つまり――。


「少なくとも、ここで見ているみんなは、ウチらに、拍手してくれてるよ!」


「それに、私たちも、ようやく三人で名乗って一つになれました」


「ああ……。

 じゃあ、今回は、アタシの×国行為やファントムお嬢様の伏線については置いといて、

 ひとまず一件落着、でいいよな? そういうノリだし!」


「「「オッケー!」」」


 アタシたち三人は、いつもの調子を取り戻し、それから、ぐっと抱き合った。

 とりあえず、途中に色々あったが、それも含めてハッピーエンドだ。




◆ ◆ ◆ ◆ ◆


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