66話 妹は自己嫌悪してしまいます
<結衣視点>
兄さんとの話を終えて、自室に戻りました。
そのまま、ベッドに仰向けになります。
「……」
なにかをするわけでもなく。
ただ、ぼーっと天井を見つめました。
「……私は、やっぱり『ずるい』ですね」
もっとイチャイチャしようと、兄さんに話を持ちかけて……
勉強をしないといけないからと、断られて……
私は、落胆していました。
兄さんとイチャイチャできないことは残念です。
勉強を優先させないといけないのは、もどかしいです。
でも、それ以上に……
天道さんに『差』をつけることができず……
そのことで、落胆してしまいました。
「はぁ……私、イヤな女の子です……」
天道さんが、兄さんに告白するつもりがあるのか、それはわかりません。
でも、兄さんに好意を持っていることは、間違いないと断言できます。
同じ人を好きになった女の子だから。
天道さんの想いは、見ていてわかりました。
最近は、特にわかりやすいですからね。
それなのに。
天道さんの想いがわかっているのに。
私は、自分の立場を利用して、兄さんとイチャイチャしようとしました。
天道さんがついてこられないように、『小細工』を仕掛けようとしました。
なんて、浅ましい。
恋のライバルと、正々堂々と戦おうとしないで。
まともに向き合うこともしないで。
兄さんの優しさにつけ込んで、利用する……
ホント、ひどい女の子です。
「ダメです……胸がもやもやします……」
自分が、こんなにも嫉妬深いなんて……
そして、こんなにも弱いなんて……
一度、手に入れたものを失うのが怖い。
たまらなく怖いです。
『フリ』とはいえ、ようやく、兄さんと恋人になれたんです。
この幸せを、絶対に手放したくありません。
この先も、ずっと……いつまでも……
「兄さんは、こんな私を知ったら、どうするでしょうか……?」
呆れるでしょうか?
軽蔑するでしょうか?
……恋人を辞めてしまうでしょうか?
イヤだ。
イヤだ。
イヤだ。
ずるい女の子でも構わない。
弱い女の子でも構わない。
兄さんとだけは、離れ離れになりたくありません……!
「そうです……兄さんのことだけを考えれば……天道さんのことは、気にする必要なんて……天道さんの恋心……なんて……考え、なければ……」
天道さんのことは気にしない。
自分のことを一番に考える。
手段なんて選んでいられません。
最大限に効果がある方法を実行して、天道さんを排除する。
兄さんに、私だけを見てもらうようにする。
それで、万事解決です。
兄さんは、ずっと私だけのものに……
「でも……」
本当に、それでいいんでしょうか?
私は、兄さんに『恋』をしています。
たぶん、天道さんも兄さんに『恋』をしています。
同じ人を好きになりました。
同じ人に『恋』をしました。
ある意味、同士です。
全部とは言いませんが、ある程度は、天道さんの『恋心』が理解できるつもりです。
恋をする心は、温かくて、幸せで……
とてもかけがえのないもの。
心を構成する大事なパーツ。
それを無視するようなことを……本当にしても?
「……そんなこと、ダメですよ……」
天道さんの恋心を踏みつけるような真似は、してはいけません。
これ以上のことはダメです。
今までのことも、反則に近いのに……
限度を越えた手段なんて、絶対にとってはいけません。
同じ想いを抱いているからこそ、天道さんの『恋心』を無視してはいけないんです。
そんなことをしたら、私自身の想いも否定するようなことだから。
「でも……でもでもでも!」
兄さんが好きです。
大好きです。
恋人になりたいです。
独り占めしたいです。
私だけのものにしたいです。
そんな気持ちが次から次に湧いてきて、止めることができなくて……
天道さんに対する気持ちと衝突して、心が乱れて……思考がバラバラになってしまいます。矛盾する想いが、胸をぐちゃぐちゃにします。
「私……どうすれば……」
答えてくれる人は……いません。
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