65話 妹は迷い始めました
<結衣視点>
放課後になるまで、天道さんのことを考えました。
考えて、考えて、考えて……
答えを出しました。
やはり、当初の予定通りに行動しましょう。
天道さんが付け入る隙がないくらい、私と兄さんの関係を親密なものにしましょう。
天道さんの目的は不明ですが、兄さんに好意を持っていることは、間違いないはずですから。
だから、今のうちに……天道さんが兄さんに告白をしないうちに、距離を広げておく必要があります。
ズキリ、と心が痛みました。
私は『ずるい』ですね……
天道さんは、なんだかんだで兄さんにまっすぐにぶつかっているのに……
それなのに私は、小細工を弄して……
本当に、これでいいんでしょうか……?
……いえ。
こうすることが、きっと、正しいはずです。
……正しいはずですよね?
――――――――――
<宗一視点>
コンコン。
夕食を終えて、自室でのんびりしていると、ノックの音が響いた。
「兄さん、ちょっといいですか?」
「どうぞ」
「おじゃまします」
私服姿の結衣が部屋に入ってきた。
「あれ? 風呂、まだだったのか?」
「兄さんに話したいことがあったので」
「ん? 話があると、なんで風呂が後になるんだ?」
「それは……パジャマ姿で兄さんの部屋におじゃまするなんて……は、恥ずかしいじゃないですか」
「でも、この前は、普通にパジャマでうろついてたような……」
「あの時はリビングだったじゃないですか。兄さんの部屋に入るのとはレベルが違います。兄さんは、もっと乙女心を勉強してください!」
「お、おう。悪い」
なにがどう違うのか、さっぱりわからない。
乙女心、難しいです……
乙女心に関するテストがあったら、俺、赤点取るんだろうな。
「話というのは、天道さんのことなんですが……今日一日、天道さんの前で、い、イチャイチャしてみて……兄さんは、どう思いました?」
「そうだな……」
今日一日を振り返りながら、口を開く。
「親密さは、それなりにアピールできてたと思うぞ。悪くないはずだ」
以前、凛ちゃんも含めてデートした時は、ちょっとぎこちないところもあったが……
あの時に比べたら、だいぶいい感じになっていると思う。
イチャイチャをアピールするという課題は、達成できたと考えてもいいだろう。
「ただ……」
「ただ……なんですか?」
「効果があったのかどうか、よくわからないっていうか……そもそも、明日香がなにを考えてるか、わからないところがあるんだよな」
「それは……そうですね。兄さんが言いたいことはわかります」
「明日香に疑われてるようなことは、俺も感じてた。思い返せば、それらしい言動はあったし。ただ……疑いだけなのか、って言われると、なんか違うんだよな。俺たちの関係を疑っているだけじゃなくて、なんかこう、もう一つ、別の想いを抱えているような……」
「兄さんも、その結論に……?」
「結衣は、心当たりが?」
「……あるにはありますが、まだ言葉にできるような明確なものではないので、ちょっと……それに、本当のことを口にして、兄さんが気付いてしまったら……いえ、なんでもありません」
「まあ、仮説に仮説を重ねても仕方ないし、下手な憶測はやめておこう」
なかなか難しい問題だ。
ついつい、ため息をこぼしそうになってしまう。
「……思い違いかもしれないけど」
「はい?」
「明日香って、結衣と張り合ってなかったか?」
「うっ……さすがの兄さんでも、そのことに気づきましたか」
「ってことは、やっぱり張り合ってたんだ。あれ、なんだろうな? なんで、結衣に対抗心を燃やすんだろうな?」
「気づいても、その意味まではわかりませんか……ほっ。そこは、いつもの兄さんで安心しました」
なぜだろうか。
そこはかとなく、バカにされてる気がするぞ。
「まとめると……明日香がなにを考えてるかよくわからない、ってところか」
「掴みどころのない人ですからね」
どうして、あんな捻くれた性格になったのやら。
「あの……兄さんは、天道さんのことは、どう……」
「うん?」
「……いえ、なんでもありません」
なんだろう?
問いかけようとするものの、すぐに別の話題にシフトしてしまう。
「これからのことですが……」
「あ、うん」
「まだ天道さんに疑われている、と考えた方がいいと思います」
「そうだな……疑いが晴れた、っていう根拠は特にないし……もうちょっと、様子を見てから判断した方がいいかもしれないな」
「なので、今日と同じように、い、イチャイチャしませんか? あるいは、もっと大胆に……」
「んー……それは、また今度にした方がいいんじゃないか?」
「え? どうしてですか?」
「テストが近いだろ?」
中間テストまで、残り一週間を切っている。
明日香に疑惑を持たれていることは、なんとかしないといけないけど……
それよりも先に、テストの問題を解決しないといけない。
「もう時間がないからな。勉強に集中した方がいいと思うんだ」
「それは……」
「明日香も勉強しないといけないから、俺たちに疑惑を持っていたとしても、今このタイミングでどうこうすることはないだろ。なにか行動を起こすなら、テストが終わった後にするはずだ。だから、テストが終わるまでは心配しなくて平気さ」
「そう……ですね」
「不満か?」
「いえ……兄さんの言うことは最もですから、異論はありません。ただ……私が、不安なだけで……」
なにに対して、不安なんだろう?
尋ねようとして……
でも、結衣があまりに深刻そうな顔をしているから、聞きそびれてしまう。
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