64話 妹の戦い・2
ちらっと、天道さんがこちらを見ました。
ふふんと、挑発的に笑います。
「実は、今日の弁当はあたしが作ったんだよねー」
「えっ、マジで? 明日香って、料理できたっけ?」
「本格的なものは無理だけどね。でも、弁当くらいは余裕よ、余裕。あたしも女の子だし? 弁当くらい作れて当然よねー」
うっ。
天道さんの言葉が、矢のように突き刺さるというか……
わざとじゃないですよね?
「けっこう、うまくできたと思うのよね」
「ほー……言うだけあって、うまそうだな」
「食べてみる?」
「おっ、いいのか?」
「いいわよ。はい、あーん」
なっ!?
天道さんが兄さんに、あ、あーん……を!!!?
「いや、自分で食べるから」
「照れてる? 宗一も、かわいいとこあるじゃない。ふふっ」
「か、からかうなよ」
「ホントにかわいいと思ってるんだけどね」
「え?」
「ほら、早く口を開けて。あーん」
「あむ」
あああああっ!!!?
あーん、は妹だけの特権なのに……
それなのに、そんな素直に口にしてしまうなんて……
うううぅっ……兄さんの浮気者!
いえ、まあ。
『フリ』なので、本当に浮気をしているわけじゃないことはわかっていますが……
でもでも、納得できません!
兄さんにあーんをしていいのは、私だけなんです!
それなのに、目の前で他の女の子にあーんをされたら、嫉妬してしまいます!
兄さん、妹はおこですからね!?
「どう?」
「んっ……おぉ、うまいな。この煮物、しっかり味が染み込んでる」
「電子レンジを使った時短料理だけどね。でも、なかなかいけるでしょ」
「うん、いけるいける」
「もしかしたら宗一が食べるかも、って考えてたから、宗一好みの味にしたの。濃い方が好きよね? おいしいでしょ?」
「マジでうまい。俺の好み、ど真ん中だよ」
「付き合い長いから、宗一の味の好みは知り尽くしてるからね」
再び、天道さんがちらりと私を見ました。
その顔は……勝ち誇ったように、ニヤニヤとしています!
こ、これは……
間違いありません。
私に対する挑戦ですね!?
私が、兄さんとイチャイチャしていることに腹を立てて……
反撃をしかけてきたんですね。
わかります。
目の前で兄さんとイチャイチャされたら、私も黙っていません。
これ以上ないくらいに……って、話が逸れました。
とにかく、天道さんはやる気です。
今度は、私にあてつける模様です。
でも、負けていられません!
天道さんがその気なら、私も、徹底抗戦の道を選ぶまでですからね!
兄さんは渡しませんよ!
「にい……そーくん! 私のお弁当も食べてくださいっ」
「え? でも、中身は同じだろ」
「うっ、それは……」
「食べるなら、違うおかずの方がいいわよね。ほら、また食べさせてあげよっか?」
「て、天道さん! ずるいですよっ」
「なにがずるいのかなー?」
「そ、それはっ……」
「結衣ちゃんは、いつも宗一を独り占めしてるんだから、たまには分けてくれたっていいじゃない。仲良くはんぶんこしよ」
「だ、ダメです! 兄さんは、私が独占すると決まっているんですよ!」
「どうして?」
「私が兄さんの『彼女』だからに決まっているじゃないですか」
「なら、あたしは『幼馴染』として、宗一と一緒にいる権利を主張するわ」
「むぐぐぐっ」
「ところで……呼び方、元に戻ってるけどいいの?」
「あっ!?」
ヒートアップするあまり、ついつい、愛称を忘れてしまいました。
私のそんな反応も狙い通りだったらしく、天道さんは、してやったりという感じで笑みを浮かべます。
むぅううう。
なんて人でしょう。
まさか、『幼馴染』というものが、ここまで厄介な存在だなんて……
ひょっとして、私は大ピンチなのでは?
『彼女』の立場が脅かされているのでは?
そんなこと、認められません!
絶対に負けられません!
ここは、どんなことをしても……
「ふふっ」
不意に、天道さんがくすりと笑いました。
今までの棘があるようなものではなくて、普通に、かわいらしい笑みで……
「天道さん?」
思わず、私は毒気を抜かれてしまい、きょとんとします。
「結衣ちゃんは、やっぱりかわいいわね」
「えっと……それは、どういう?」
「褒め言葉。素直に受け取っておいて」
「はぁ……」
「サービスタイムはこれまで、っていうことで。ほら、早く残りを食べちゃいましょ。のんびりしてたら、昼休みが終わっちゃうわ」
「お、おう?」
天道さんの様子が変わったことに、兄さんも戸惑っているらしく、不思議そうにしていました。
私は、ますます混乱してしまいます。
天道さんは、大なり小なり、兄さんに好意を抱いていることは、もう間違いないと思います。さっきまでのやりとりで、私は、そう確信しました。
でも……
天道さんは、どうしたいのか? どんな結末を望んでいるのか?
それがわからなくて……
しばしの間、考え込みました。
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