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100話 妹が求めるものは

<結衣視点>



「……と、いうような感じですね」


 夜。

 真白ちゃんに電話をかけて、近況を報告しました。


 真白ちゃんは、私の『妹の師匠』です。

 アドバイスを求めて、ちょくちょくと連絡をとっています。


「なるほどなるほどー、結衣お姉ちゃん、がんばっているね! すごいよ!」

「す、すごいでしょうか……?」

「うん、すごいよ。真白だったら、そこまでできないもん。というか、そんなに深く考えられない、って感じ? 真白、あれこれと考えて動くの苦手なんだよねー」


 なんとなくわかるような気がしました。

 いえ、真白ちゃんが頭を使うことが苦手と悪く思っているわけではなくて……


 変な打算は働かせないで、思うがまま、自由に動く。

 天真爛漫、というべきでしょうか。

 それこそが真白ちゃんの魅力であり、『妹らしい』ところなんでしょう。


「そんなにがんばるなんて、やっぱり、愛の力?」

「ま、真白ちゃん!?」

「くふふっ、慌てちゃって、結衣お姉ちゃんかわいいなー」

「か、かわいいなんて……」

「恋する乙女は魅力的なんだよ♪」


 時々、こういう風にからかわれてしまいます。

 真白ちゃんは、無邪気で天使のようにかわいらしいのですが……

 実は、小悪魔なのかもしれません。


「って、話が逸れちゃったね。ごめんごめん」

「いえ……それよりも、私の話を聞いてどう思いました? 私、ちゃんと『妹』をやれていましたか?」

「うん、良い感じだと思うよ」

「本当ですかっ?」

「始めたばかりだから、今すぐ大きな変化はないと思うけどさ。でもでも、そのうち、お兄ちゃんは結衣お姉ちゃんのことを、『妹らしい妹』って思うようなるよ!」


 とても頼もしい言葉です。

 真白ちゃん……いえ、師匠。

 一生ついていきます!


「んー」


 ふと、真白ちゃんが怪訝そうな声をこぼしました。


「どうかしたんですか?」

「ちょっと気になったっていうか、実のところ、最初から不思議に思ってたんだけど……結衣お姉ちゃんは、どうして『妹らしさ』にこだわるの?」

「それは、最初に話した通り、私が世間一般の妹と違っているからで……」

「うん、それはわかってるよ?」


 でもさ、と真白ちゃんは声のトーンを変えて、後を続けます。


「普通じゃないだけで、結衣お姉ちゃんは、なんだかんだでお兄ちゃんの『妹』でしょ? そこは、どうあろうと覆らないじゃない?」

「それは、まあ」

「一般的じゃないかもしれないけど、でもでも、『妹』であることは間違いないんだから、そんなに気にすることないと思うんだけどなー」

「……」

「あっ、結衣お姉ちゃんのがんばりたい、っていう気持ちを否定するわけじゃないよ? お兄ちゃんのために『妹らしく』なりたい、っていうのは応援したいし。でも、お兄ちゃんはそこまで気にしないんじゃないかなあ?」

「そう……ですね」


 真白ちゃんの言うことは正しいです。


 私が、『妹らしくない妹』だとしても……

 兄さんは特に気にしないでしょう。

 今までと同じく、大事にしてくれると思います。


 でも……なぜでしょうか?


 一度、意識したら……

 『妹らしい妹』にならなくてはいけないという想いが、頭から離れてくれません。

 兄さんのために。

 私自身のために。

 『妹』らしくあることを、追求していかないといけません。


 それは、まるで強迫観念のようで……

 私の心の深いところに絡みついて、離れなくなってしまいました。


 私は……『妹らしい妹』になりたい。

 兄さんに、認めてもらいたい。


 どうして、そんなことを思うのでしょうか……?

 自分で自分がわかりません。


「結衣お姉ちゃん?」


 怪訝そうな真白ちゃんの声に、我に返りました。

 考えごとに没頭してしまったみたいです。


「あ……いえ、すいません。ちょっと、ぼーっとしてました」

「そうなの? 真白、変なこと言っちゃった?」

「いえいえ、真白ちゃんのせいではありませんよ。本当に、ぼーっとしてただけなので、気にしないでください」

「うん。それならいいんだけど……」


 私自身、この不思議な気持ちを持て余していて、うまく言葉にすることはできません。 相談もできません。


 なので、明るい声に切り替えて、話を元に戻します。


「『妹らしく』なるための作戦ですが、次はどうしたらいいでしょうか?」

「うーんと……今日やったことは、基本、毎日繰り返すこと。何度も何度も繰り返すことで、より強く、結衣お姉ちゃんの『妹ポイント』をお兄ちゃんにアピールすることができるからね」

「なるほど」

「あとは、お兄ちゃんに喜んでもらうことかな? 妹たるもの、兄に奉仕することが大事なんだよ」

「奉仕……」

「お兄ちゃんに喜んでもらうことで、かわいい、って思ってもらえて、ますます仲が良くなる、っていうわけ」


 さすが、真白ちゃんです。

 次々と出て来るアイディアに、脱帽するばかりです。


「『妹らしい』ところをアピールしつつ、お兄ちゃんに喜んでもらう……それがベストだよ!」

「わかりました! 私、がんばりますね」


 とはいえ……

 兄さんに喜んでもらう、ですか。

 いったい、どうすればいいんでしょうか?

 調理実習で作ったカップケーキをあげようとしたものの、あれは、大失敗してしまいましたし……


 そのことを真白ちゃんに告げると、それだ! という声が返ってきました。


「手作りお菓子、すっごくいいと思うよ!」

「でも、失敗してしまって……」

「結衣お姉ちゃん、お菓子作り苦手なの?」

「はい……というか、料理そのものが……」


 というか、家事全般が……

 我ながら情けないです。

 女の子として、家事はできるようになっておきたいです。

 いつか、兄さんと、け、けけけ、結婚した時のためにも!!!


「じゃあ、教えてあげよっか? 私、お菓子も料理もできるから、料理ができる妹は、すっごいポイント高いよ♪」

「いいんですか? 迷惑じゃ……」

「そんなことないよ。真白、結衣お姉ちゃんを応援したいんだ」

「ありがとうございます」


 真白ちゃんに……凛ちゃんに明日香さんに。

 たくさんの人に優しくされて、私は幸せ者です。

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