99話 妹はわがままを口にします
<結衣視点>
今日も、いつものように兄さんと一緒に帰ります。
特に何もない、普通の時間。
でも、私にとっては、兄さんと一緒に過ごすことができる、かけがえのない時間です。
別に、家でも一緒にいることはできるんですが……
こうして、肩を並べるくらい近くにいることは、なかなかできませんからね。
兄さんの傍にいることができて、とてもうれしいです♪
でもでも、今はそういった想いは後回し。
『妹らしく』あることを目指して、がんばらないといけません。
真白ちゃんから教わったことを思い返します。
朝、起こしてあげる。
手作りのお菓子を食べてもらう。
そして、次は……『わがままを言う』です!
わがままなんて口にしたら、嫌われてしまいそうな気がしますが……
真白ちゃん曰く、『妹のわがままは特別』だそうです。
わがままを口にして困らせることで、面倒を見てあげないと、と思うようになるらしいです。
あとあと、たまにわがままを口にするくらいなら、かわいく見えるらしいです。
なるほど!
さすが、妹らしい従姉妹の真白ちゃんですね。
『妹らしさ』について、とても詳しいです。頼りになります。
ではでは、早速、わがままを口にしてみたいと思うのですが……
いったい、どのような『わがまま』をしてみましょうか?
――――――――――
<宗一視点>
「兄さん」
家まであと半分、というところで結衣に声をかけられた。
「ちょっと本屋に寄りたいんですけど、いいですか?」
「ああ、かまわないぞ」
「ありがとうございます」
進路を変更して、本屋へ向かう。
「うーん……これは違いますよね? わがままというか、ただのお願いですし……いえ、寄り道の誘い? わがままというのも、なかなか難しいですね……」
「どうかした?」
「いえ、なんでもありませんよ」
「そうか? ところで、欲しい漫画でもあるのか?」
「はい。それと、参考書が欲しくて」
結衣は真面目だなあ。
俺だったら、参考書を買う金があるなら漫画を買うぞ。
ほどなくして本屋に着いた。
さっそく店内に……というところで、結衣が足を止める。
「結衣?」
結衣の視線を追うと、少し離れたところにワゴン車を改造して作られた、移動式のアイス屋が見えた。
人気のある店らしく、そこそこの列ができていた。
「えっと……に、兄さん。私、アイスを食べたいです」
「え? 今から?」
「はい。とてもおいしそうじゃないですか」
「そうだけど……帰ったら、すぐに飯だぞ? っていうか、本は?」
「アイス一つくらい、平気ですよ。本も、アイスを食べた後で買えばいいじゃないですか」
「でもな……」
「ちょっとくらい、いいじゃないですか。私、アイスが食べたいんです」
結衣にしては、珍しいわがままだ。
こんなことを言うなんて、いつ以来だろうか?
まあ、これくらいのわがままならかわいいもんだし……
結衣に甘えられてるような気がして、悪い気分じゃない。
「わかったよ。食べていくか」
「はいっ」
うれしそうに結衣が笑う。
この笑顔を見ることができたから、よしとするか。
――――――――――
「おいしかったですね、兄さん」
アイスを食べた結衣は上機嫌だ。
今にも鼻歌を歌いそうな感じ。
「あんなお店があるなんて、知りませんでした」
「新しい感じだったから、最近、オープンしたのかもな」
「また食べましょうね」
「だな。ちょっとクセになる味だ、あれは」
「私、今度はトリプルに挑戦してみたいです」
「やめといた方がいいんじゃないか? 女の子にはきついだろ」
「いいじゃないですか。色々な味を楽しみたいんです!」
なんだろ?
いつもの結衣なら、『そうですね』って言って引き下がるんだけど……
今日は、やけにアグレッシブだな?
「あっ……結衣、ちょっとストップ」
「はい? なんですか?」
「唇の端、クリームがついたままだ」
「んっ」
ハンカチを取り出して、結衣の唇を拭いてやる。
「よし、とれたぞ」
「……」
「ん? どうした?」
「い、いえっ……突然のことだから、ドキドキして……な、なんでもありません! こういうのも悪くないですね……兄さんに面倒を見てもらう妹……アリです。新鮮な気分で……はぅ、今までにない喜びが……えへ♪ また一歩、らしさに近づいたんじゃないでしょうか?」
らしさ、ってなんのことだ?
考えてみるものの、まるで見当がつかない。
「ふふっ」
まあ……
結衣が笑っているなら、それでよしとするか。
ちょっとだけ、いつもと違うような気はするが……
たまには、そんな日もあるだろう。
「兄さん、帰りましょう?」
「そうだな」
本を書い、結衣と一緒に家に帰った。




