出口のない旅3
バスは高速道路をひた走り、10時間がすぎようとしていた。東京、福岡間は通常約14時間かかる予定だったが、バス内の中国人の強行な命令で通常よりも早く九州ちかくまで来ていた。19時に東京をでたバスはサービスエリアにも止まらずノンストップで走り続けていた。
つきつかれている銃口は、一直線上に俺と
佐々木に向けられ、いつ火花がふくかわからない状態だった。中国人達は仲間同士ではなしていたが、中国語で会話していた為、俺と佐々木には内容まではわからない。
数分後、中国人達の会話がとまり、砂漠のオアシスのような重い静寂がバス内に流れた。と同時に銃を持つ中国人の引き金を引く指に力が入ったように見えた。
『撃たれる。』
俺は強く目をとじ、膝の上に置いてある拳を握りしめた。
次の瞬間。
すさまじい音が俺の耳を襲った。
バスのガラス5・6枚が一気に粉々に粉砕し、銃を持った二人の男は体から大量の血をながし膝まづいた。それと同時にドライバーが急ブレーキをかけ、膝まづいていた中国人達が一番後ろの後部座席まで転がった。
バスは右の壁に激突し、壁に擦り付けるような形で停車した。タイヤの焼ける匂いが蔓延し、クラクションが鳴り響いていた。
俺と佐々木は何が何だかわからず、呆然自失になりながらもまわりをキョロキョロと見回した。俺が下を向いた時、視界には発煙筒がみえた。数秒後その発煙筒から一気に煙が舞い上がった。 それは割れたガラスから次々に投げ込まれ、一瞬にして視界は煙でいっぱいになった。
俺達は煙に視界を遮られ、耳からはクラクションの音がこだまし、何をしていいのか見失っていた。
「大丈夫ですか?怪我はないですか?」
いきなり後ろから俺達の耳元で声が聞こえてきた。
「村川。佐々木。逃げましょう。さあ、はやく。」
煙の中をバスの扉を蹴り破り俺と佐々木の手を強く引っ張りながら外に放り出された。
俺は以前、みゆきと称したともみに、火の中助けられたのを思い出した。
『今この場から助けてくれたのはともみだ。また俺の命を助けてくれた。』
俺の心に抱く本音が、この危機的状況の中で架空なことを真実ととってしまったのである。
俺の手を強く握っていたのは、ともみではなく以前監禁されたときに唯一、話したアメリカ人。
モーセレ柿沼だった。
モーセレ柿沼は俺と佐々木の顔をのぞきこんだ。
「大丈夫ですか。よかった。あなた方のバスがはやくわかって。昨日、佐々木から連絡もらって迎えにきたのよ。」
「ここは九州ですか?」
「いや。もうすこし。ここからは私達があなた方を福岡の本部につれていくわ。安心して。ついたら少し休むといいわ。それから話しましょう。過激派組織サクラについて。」