潜入
俺とともみは、青森に向かった。俺はともみの運転した車に同乗した。
「工藤みゆきには何って?」
ともみはハンドルを握りながらきいた。
「特別なにも言ってきませんでした。そのほうのが自然だと思いまして。」
俺は答えた。
車は東北道をひた走り、どんどん車を追い抜く。車はタイムマシンのように時間が未来に流れていく。さっきまで朝日がのぼったばかりなのが、今はもう日が沈み、辺り一面真っ暗になっていた。
車は人気がいなそうな場所にとまった。俺は大きな山の中腹辺りのような耳鳴りがとまらなかった。
「ここからは歩きでいきましょう。」
みゆきは、このへんの地理の前準備をしていたように言った。
二キロほど歩くとそこには大きな鉄格子でできた工場のような入口があった。
「どなた様?」
門番の男がいった。
俺達は人がいたのも気がつかず、いきなりの呼びかけに、驚いた。門番の声と同時に懐中電灯の光が浴びせられた。
「工藤みゆきさんでしたか。気がつかず申し訳ございません。さあ どうぞ。」
門番の男はともみをみるやいなや、みゆきだと思ったらしい。
門番は手動で重い観音扉の門を片方ずつ開いた。扉は鉄が錆びたような不快な音をたてながら全開に開いていった。
「さあ。どうぞ。」
俺達は建物内に入った。ともみはいきなり俺のポケットに手を入れ、何かを入れた。俺はポケット内でそれを握りしめた。それは鉄でできたような冷たさと硬さを感じた。
小型の拳銃だった。
重量感のある拳銃は今にも火を吹きそうな錯覚になった。
建物じたいは一見すると、工場のような箱のような建物で、老朽化が進み廃墟のようにもみえた。
「ところで、最近だれかきてる?」
ともみは門番の男に釜をかけた。
「はい。今中山様がおみえになってます。」
男は答えた。
ともみは軽く笑いうなずいた。
「そう中山さん来てるの。今日はもうこんな時間だから、明日出直すわ。」
そういうと、ともみと俺はまたいだ敷居を、またぎかえし、敷地の外にでた。
「せっかく開けてくれたのにごめんなさい。また明日くるわ。」
「わかりました。では明日お持ちしてます。」
男は笑顔でこたえた。
俺達は車に向かってあるきだした。
「一つだけわかったわ。これで確信がもてたわ。中山という男なんだけど、サクラの幹部に警察内部の人間がいるのはわかってたんだけど。これではっきりしたわ。中山実、警視庁副総監。警視庁でNo.2の人よ。多分、数日後の警察がここに突入することでの情報をおしえにきたのよ。こんな時間にきてるのもおかしいし。私達も中山と本当にあちゃったらまずいでしょ。だから明日出直すっていったのよ。」
ともみは言った。
俺はともみの行き当たりばったりの演技と言動に感服した。
時間は深夜二時をすぎていた。
俺達は車にもどり、深い眠りについた。