相棒
それから、数日はなにもなかった。
あの拉致の後、みゆきに聞いた話だが、あの後、俺の他の人達は、青森の秘密基地に連れていかれ、武器を渡され訓練をうけたようだ。俺はみゆきへの配慮もあり、みゆきのもとに帰された。
特別その後のことはきいてないが、みゆきがいうには指示待ちとの事だ。
学校に通い始めた俺は、一日の大半を校内で過ごした。特別、友達もなく、授業がない時間は校内にある図書館で本を読んでいた。
その日は大雨だった。授業も午前中で終わり、図書館の中に残りの時間を過ごしていた。図書館の中は蒸し暑く、圧縮された空気が俺の体にのし掛かり体を動かすことが面倒になっていた。椅子に座りじっと本を読むことに集中しまわりがみえなかくなっていた。
その時、重たい空気を割くように誰かが俺の肩に手をおいた。
集中していた俺は、はっと驚き首をあげ振り返った。
そこにはみゆきがいた。
「はじめまして。牧草ともみといいます。」
それは、みゆきではなかった。
あまりにもみゆきにそっくりで俺は言葉がなかった。
それが、みゆきと名乗っても分からないくらい似ていた。
「村川君ですよね。私はあなたの仲間よ。牧草の娘です。よろしくね。」
俺は牧草総理がいっていたことを思い出した。
「あっ。うん。俺のほうこそ、はじめまして。」
牧草総理の言っていた相棒のいきなりの出現に、俺はしどろもどろした。
彼女はジーパンにかわいらしいピンクの長袖のティーシャツを着、片手にはバッグを持ち、腕に上着をひっかけていた。
「牧草さんもここの学生?」
俺は言った。
「うん。三年生。」
ともみは俺の隣りの空いてる椅子にちょこんと座り俺の顔をまじまじとみた。「村川君って、お父さんに似てるね。」
「親父のこと知ってるの?」
「知ってるよ。会ったことは数回しかないけど、よく電話で話してた。」
ともみは言った。
そういえば親父の携帯の中に、ともみと言う名前があった。
「ところで村川君、私のこと名字で呼ぶのやめて。どこで誰がきいてるか分からないから。私の素性調べられたらバックに誰がいるか、すぐわかちゃうわ。ともみでいいよ。」
「わかりました。」
俺は答えた。
雨が一段と勢いをまし、地面に降り注ぎ、地球に生気を与える。室内は屋根にぶち当たる雨の音が際立ち、ともみに見詰められている緊張が雨の音で柔いた。
「何かサクラの情報ある?」
ともみは言った。
「うん。青森にサクラの秘密基地があるらしいです。」
俺は言った。
ともみは立ち上がり、俺
の胸ポケットに銀行のキャシュカードと暗証番号、ともみの携帯番号のメモ書きを入れた。
「必要なとき、使って。また明日お昼時にここくるわ。明日はデートしましょ。」
ともみはいい放ち、雨の中消えていった。