第六章 伊浪家の朝【5】
僕を電流が襲う。
この電流制裁は間違いなくアリーシアのもので……。
ばたん、っとテーブルの上に倒れる。
幸いなことに、テーブルの上に乗っていたのは空の湯呑だけだったので、それほどの被害はない。
僕が麻痺しながらテーブルに叩きつけられた程度。
「な、なんで……?」
「……」
アリーシアに抱きつこうとしたものならまだしも、僕が抱きつこうとしたのは李桜であって。
彼女に邪な気持ちを抱かない限り、電流は流れないはずなんだけど。
当のアリーシアは、自分、関係ありませんから、みたいに我関せずを装って、テレビを見ている。いつの間に……。
もしかして、僕が李桜に抱きつこうとしたことに、嫉妬したのかな……。
だとすると……。
「大丈夫だよアリーシア! アリーシアも可愛いからね!」
麻痺が回復した身体を駆使して、テーブルからジャンプしてアリーシアに抱きつこうとする。
しまった!
アリーシアに飛びつく→邪な気持ちがバレる→電流制裁→麻痺→響子が警察にテレフォン→社会的に抹殺される→バッドエンド。
気づいてしまったが、すでに時遅し。この体勢ではどうしようもない。
宙を舞う僕の身体はアリーシアに向かって一直線。回避方法などあるはずもない。
かくなるうえは、自ら電流を流して切腹するか……?
いや、間に合うはずもない。
と、ここまでの思考は一秒にも満たない。
そしてアリーシアの身体が眼前に近づいて、僕は目を閉じる。
さようなら、身体の自由と人権。
こんにちは、電流とポリスメン。
……あれ?
柔らかい感触が、そこにはある。それに良い香りもする。指に絡みつく細いものも感じる。
恐る恐る目を開くと、僕の目の前にはアリーシアがいた。というか、僕はアリーシアに抱きついていた。
襲ってくるであろう電流は、なかった。
……なんで?
アリーシアは僕に抱きつかれても、それがどうでもいいかのように、テレビを見ている。
……なんで?
いつもならここにたどりつくまでに電流が襲って来て、僕は床に叩きつけられる、というのがパターンと化しているのだが。
いや、そんなことはどうでもいいじゃないか。抱きつけるのなら、抱きついておこう。
このアリーシアの感触を堪能させていただこうじゃないか。
「強制わいせつ罪」
「……なんのことだい?」
アリーシアに抱きつきながら、響子を振り返ると、響子は電話を右の耳に当てていた。
「おーけーおーけー。わかった。僕が悪かった」
両手を挙げて、降伏の姿勢を示して、アリーシアから離れる。
「朝から元気なロリコン兄さん。次に不穏な動きを見せれば、この家の風紀を守る私のテレフォンが、市民の平和を守る警察を召喚するので、あしからず。わかったなら、両手を下ろしてください」
「了解です」
答えて、両手を下げる。響子のあの目……本気だった。
これ以上は本当にまずいだろう。双子だからこそわかる直感がそう告げている。
どうやら、この家に響子がいる限り、僕はアリーシアには抱きつけそうにもない。
……いや、響子がいなくても、電流に阻まれるのでどうしようもないけど。
だからこそ、電流が作用しなかったこのときを存分に味わいたかったのだが。
睨みを効かせる響子の視線に怯えながら、僕はさっきまで座っていた席に戻る。




