第一章 満月の夜、僕は使徒になる。【9】
「まず、わたしのことを話す。わたしの名前はアリーシア。血吸いの一族、吸血鬼と呼ばれる種族に属する妖魔」
「ようま?」
吸血鬼だろうな、ってことは想像がついていたけど、『ようま』という言葉に聞き覚えはない。
どういう字を当てるんだろう。
「人間で言う、悪魔や妖怪、物の怪の総称だと思ってくれれば良い」
なるほど、と頷く。
なら当てる字はおそらく妖怪の『妖』に、悪魔の『魔』で『妖魔』でいいはずだ。
「私はある目的で日本にやってきた。でも、移動のときに力を消費し過ぎて、倒れてしまったみたい」
「力?」
「わたしたち妖魔の力は、魔力と呼ばれる。その力を得る方法は妖魔によって異なるけど、わたしの場合は血を吸うことで、魔力を得るの。でも、事前に用意していた輸血パックをぜんぶ使ってしまったの」
吸血鬼って、輸血パックから血を得るんだ、なんて最近の吸血鬼事情に驚きつつ。
「それで僕の血を吸ったんだね」
「そう。でも、それがわたしの不幸であり、あなたの不幸」
どういうこと?と首を傾げる僕。
「あなたは、おそらく、《妖魔殺し》を持った人間」
「《妖魔殺し》?」
「そう。わたしたち妖魔にとっての天敵。妖魔を殺すことができる、人間が持った異能の力。あなたはそれを所持している」
言われて、考えてみる。
僕にそんな力はない。
生まれてこの方十六年、そんな異能の力なんて大仰なものを使ったことはないし、その存在すら知らない。
僕はどこにでもいるような普通の高校生に違いないのだから。
「気づかないのも無理はない」
「どういうこと?」
「妖魔殺しの共通点は二つ。妖魔に対して優位権を得ること。……と言っても、力に大小はあるから、すべての妖魔に勝てるというわけではないけど。もうひとつは、その力が生まれ持ってのものではなく、後天性だということ。そして、その中でもあなたの妖魔殺しはたぶん、特殊なもの」




