第五話 最悪の再会
ここから次第に物語は進んでいくかと・・・
ガタゴトと、馬車は音を立てて道を進む。行く先はシューディレン国。しかし、セリアが帰るためではない。もうセリアは帰ることなどできないからだ。国に捨てられ、家族に見放され、セリアはナイヴィシア国にいるしかなくなってしまった。だからこの馬車が、たとえ故郷に向かっているのだとしてもそれは帰還ではないことになる。
ナイヴィシアに来てから一週間がたった。
馬車のなかにはセリアのほかに、クロウだけ。馬車を操作する武官が二人外にいるという少数での移動だった。
どこにいくんだろうか・・・・・・それに、何のために・・・・・。
クロウは先ほどから頬杖をついて車窓の外を眺めている。馬車の中は静寂に包まれていた。セリアもまた、黙りながら、逃げ出せる機会をうかがっていた。
たとえ故郷に戻れなくとも、助けてくれる国はあるだろうから・・・。
シューディレンは三つの国と接していた。ナイヴィシア、アルステンデス、ジェロウェイティンである。このうち、ナイヴィシアは論外だ。嫁ぎ先の国になんかにいていられるかというわけである。アルステンデスには、二歳年上の幼馴染がいる。彼なら快く自分をかくまってくれるだろう。ジェロウェイティンの国王はセリアの父親と親友だった。セリアも何回か会ったことがあるが、とても人のいい穏やかな人だった。だからどちらでも頼ることはできる。
逃げ出せたらの話だ。
「隙あらばここからどこへでも逃げ出しましょう・・・・・・。」
「っ・・・・!!!!?????」
クロウが急に口を開き、そんな言葉をつぶやいたのだから、セリアの心臓がとび跳ねたのも無理はない。
「ななな・・・・何言ってんだお前!?」
「は?何が?」
「逃げ出すとか・・・そんな・・・・・・。」
「ああ・・・あれ・・・・。」
「べ・・・別に俺そんなこと思ってないからな!隙あれば逃げてほかのとこ行こうとかそんなこと考えてたからこんなあわててるとか、そんなことない!!」
「ふーん・・・・。俺別にお前のことなんか一言も言ってない。」
「へ?」
「頭の中にある昨日読んでた本の内容思いだしてただけだし。」
「んなあああああ!?」
そんな・・・・そんな・・・・・・
「そんな紛らわしい事してんじゃねーよこの馬鹿王子があああああああああああ!!」
つか危ういところをカミングアウトしてしまった。orz・・・・
「で?何勘違いしたんだ?」
うわぁ・・・その顔めっちゃムカつくわぁ・・・・。
「うっせぇばか!だいたい頭ん中の小説思い出してるとか意味わかっ・・・ぶふぅ!!」
馬車が急にとまった。セリアは思わず座席から落ちた。腰と頭を強打したようで、じんじんとした嫌な痛みが襲ってくる。
「ってぇ・・・・・なんだっていうんだよ・・・・。」
「着いたな。あそこを見てみろ。ここに来た理由がわかるだろ。」
「はぁ・・?・・・・・・・っ!!?」
なんだあれ、なんだあれ、なんだあれ。何何何何何?なんであんなことに・・・。
「父さん!ソラン兄貴!!なんだよあれ・・・・なんで・・・・。」
着いたそこは広場だった。セリアがもともと住んでいた城の裏手にある草木生い茂る原っぱ。そこに二本の柱が立っていた。十字架の形をしたそれを見て、セリアは思わず目を疑った。
「なんで磔にされてんだよ!!」
「見てわからないのかよ?もちろん・・・処刑するために決まってんだよ。」
「っ・・・・・!!」
処刑?
それって・・・
「殺すっていうのか?父さんと兄貴を?なんで・・・なんでだよ!!なんで父さんたちが殺されなきゃなんね-ンだよ!!」
「それが俺の父さん、ナイヴィシア国王が決めたことだからだ。それに、あの二人もそれに同意していた。」
「な・・・・。そんなわけ・・・・なんで・・・なんで殺されることなんか同意してんだよ。俺は?なんで俺にはなんもないんだよ・・・・。」
「だからいったろ、お前は俺に嫁いだほうが幸せなんだと・・・。」
「は?」
「もしお前が俺のところに来ていなかったら、今頃ここにはもう一本の磔台があって、そこにお前はあんな感じでくくりつけられてたんだぞ。」
「な・・・・・・。」
「シューディレン国王族の滅亡。それが、ナイヴィシア国王の考えだからな。お前が俺に嫁げば、お前はシューディレンの王族ではなく、ナイヴィシアの王族になる。それを思って、お前の親はお前を嫁がせたんだ。」
「そ・・・・んな・・・・・・・・。」
じゃあ別れ際に父さんがすぐに部屋にこもってしまったのは、見捨てたのではなくもう親として何もできないと分かっていたから?兄貴が俺をかばってくれなかったのは、俺を同じ目にあわせたくなかったから?そんな・・・・。それじゃ俺は、なんて誤解をして・・・・別れてしまったんだ。ただ一つの家族なのに・・・・。
そうわかったらいてもたってもいられず、セリアは体をひるがえして馬車の客車のドアに向かって手を伸ばした。
ひやりとした冷たいものが首筋にあてがわれた。セリアがそこを見ると、銀色にきらめく刃があった。セリアの後ろからクロウが短剣を構えて、首筋に当てていたのだ。
「動くな。騒ぐな。ここにはお忍びで来てんだ。もともとお前は俺と俺の部屋で待機だったんだからな。だが、親の最後に立ち会えないのはあれだと思って気を利かせて連れてきてやったんだ。いいから黙って静かにここで見てろ。」
「っ・・・く・・・・・。」
磔にされた肉親は、白く薄い衣服を身にまとい、あちこち傷だらけで、瞳を閉じて死を待っていた。
徐々に明かされていくセリアと父とソランの別れの真相。
次回おそらく処刑ネタ。そしてセリアが壊れます。