第八話 舞踏会場
明里は平凡な人間である。
平凡な人間であるとは、知らないことが多いということで、今目の前に広がっている社交ダンスの動きなんて、一つも理解していないのだ。
今回の異界は帰り道で辿り着いた。
広めの体育館くらいの場所で、顔のない人々が踊っている。
顔のない、というのは、妖怪のっぺらぼうよろしく顔にパーツがないという意味ではない。
顔にもやがかかって、よく見えないのだ。
呆然と立ち尽くしていたら、女の人が一人、近くに寄ってきた。
踊りに誘われ、それに乗ったが、顔が見えない。
君は誰?
踊り方なんて知らないはずだが、秘められた才能が開花したのか、それとも単に相手のリードが上手いのか、他の人々の中に入って踊れている。
数十分の時が過ぎ、明里もさすがに疲れ、いつこのダンスは終わるのかと思っていた矢先に、それは起きた。
体育館の壇上に当たることろから順に、奥に向かって、パタパタと、紙相撲の力士が倒れるかのごとくに、建物が薄い紙のように倒れ始めたのだ。
パタパタと倒れるのは建物だけではなかった。
それまでダンスを踊っていた人々も、パタパタと倒れていく。
やがて、世界は明里とそのパートナーを残し、全て床に倒れてしまった。
「嫌だ。こんな終わりは」
言葉とともに、手の先の相手の温もりを感じるかのように手を握るが、その手には何の感触もない。
後には、他の人と同じように、薄い紙のようになった女性が一人、床に倒れていた。
「っ、つぁ」
悲しい。
明里は、深い悲しみに包まれていた。
そんな悲しみを嘲笑うかのように、明里を包む霧。
気がつけば、明里は自宅近くの路地にいた。
涙を拭い、家路を歩き出す。
今日の出来事は、これでおしまい。
果たして、『次』は、どこに行くのだろうか。
それは、今はまだ、わからない。




