第六話 インナウト
その日、明里は久しぶりに手に入れた何の予定もない休日を謳歌するため、自宅から距離の離れた、大きなショッピングモールにいた。
地元では手に入らないあれこれを、物色しながら歩いていく。
両手で抱えるほどの量になったところで、買い物を止め、地下にある駐車場へと向かう。
特段秀でるところもない量産機の愛車に荷物を積んでいたところに、それは現れた。
霧。
場所柄、火事を疑ったが、その疑いは、すぐに掻き消された。
霧はわずかな時間の後に晴れ、開けた視界には、先程までとは違う景色が広がっていた。
まず、それまで地下にいたはずなのに、今は空が見えている。
次に、何人か周りにいた人が、全員いなくなっている。
ただ、周りを見渡すと、先程いた地下駐車場と、目に映るものは大差ないことに気がついた。
変わった場所といえば、柱と天井がなくなったくらいで、止められている車も、先ほどと同じに見える。
現実と見分けがつかない異界は過去にも沢山あったが、大抵どこか他の場所に飛ぶので、場所がそのままなのは珍しい。
愛車も、傍らにある。
この異界を抜けるには、どうすればいい?
明里は、自問自答しながら、まずは情報収集のため、今いる駐車場を一回り歩いてみた。
壁がないので、体感的には広く感じる、今いる高さは、十階相当くらいだろうか。
階下に降りていくためのスロープなどはなく、非常用の階段もない。
それらはないが、一つだけ、無視しようにもできない立体物があった。
ジャンプ台。
恐らくは車用であろうそれは、確かな存在感を持って、そこにあった。
「飛べってか」
長年の勘で、それが異界の出口だと感じた。
明里は、愛車に乗り込み、ジャンプ台を正面に捉えた一番後ろまで車を動かし、一呼吸した。
「よーし、やってやる!」
言うが早いか、明里はアクセルを全開にし、ジャンプ台に火の玉のごとく突っ込んでいった。
車は、ジャンプ台から勢いよく飛び出し、宙を舞う。
そしてそのまま自由落下、するはずが、車は霧に包まれた。
そして、衝撃と共に霧が晴れ、車は自宅近くの裏道を走っていた。
慌ててブレーキを踏む。
「ガソリン代浮いたな」
この時の衝撃で車が一部損傷して、ガソリン代なんかよりもっと高額な修理費が明里の財布から出ていくのだが、それはまた別の話。
今日の出来事は、これでおしまい。
果たして、『次』は、どこに行くのだろうか。
それは、今はまだ、わからない。




