第十一話 在来線上
電車に乗っていた。
特別なことなどなにもない、最寄りの駅と都市部を繋ぐ列車。
いつ、そうなったのか。
いつの間にか、そうなっていた。
明里は、異界を走る電車の、座席に座っていた。
少し前に新幹線で似たような状況になったが、その時とは状況が違った。
あの時は自分以外に人がいなかったが、今回はいる。
電車も、あの時は弾丸のようにただスピードを上げて走っていたが、今回はたびたび駅に停まり、乗客が乗り降りしている。
では、何が異質なのか。
まず、人だ。電車に乗っている明里以外の人は皆、輪郭だけがはっきりしていて、中身はタバコの煙が人の形に集まったかのように、ゆらゆら揺らめいている。
次に、車内の広告類だ。いつぞやの小路のように、意味不明な記号で構成されている。
最後に、車窓だ。さっきはクジラが通り過ぎた。今はダイオウイカとにらめっこしている。
これだけの材料が揃っていて、ここが異界ではないというのは無理な話だ。
問題は、この異界の脱出方法だ。
先程からたびたび止まる駅に降りてみるか?
そこで何も得られなかった場合、後続の電車が来る保証はない。一種の賭けになる。
このまま終点まで乗車するか?
繰り返しになるが、そこで何も得られなかった場合、その先に進む手段が用意されているとは限らない。これも一種の賭けになる。
つまりは、考え得る可能性は、どれも確度の低いものばかりなのだ。
明里は、頭を抱えた。
そして次に停車した駅でドアの方を見ると、ヘルプマークを付けた人が入ってくるのが見て取れた。
慌てて、席を立ち、その人を今自分が座っていた席に誘う。
席に案内されたその人は、感謝の印だろうか、明里に抱きついてきた。
煙が明里の全身に触れて、そして視界を奪っていった。
煙は霧だった。
明里が慌てて顔を上げると、そこは、何の変哲もないただの在来線上だった。
場所は、降車予定の駅から数駅進んだところだ。
明里は、反対方向の電車に乗り換え、最寄り駅で降り、家に帰った。
今日の出来事は、これでおしまい。
果たして、『次』は、どこに行くのだろうか。
それは、今はまだ、わからない。




