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冥帝英霊神託  作者: 弌樹カリュ
序章・胎動編
1/17

00.Prologue

 太古の昔。

 神々が棲まう、神界――俯瞰視座において、新たなる秩序「呪縛冥府」を担う世界が生み出されることとなった。


 字は、呪縛冥府。

 主神にして、その冥府を統べるのは冥府神アステナ。

 秩序たる呪縛冥府とは、これまでのどの世界とも異なった使命を担っていた。


 生者による死者のための世界。


 そこに巣くうのが生者ばかりと決まったわけでもない。

 死者が闊歩するわけでもない。

 ただそこにあるのは、呪縛冥府の秩序を全うするために命を賭す、世界の覇者――冥帝たち。





 生まればかりの呪縛冥府世界アステナにおいて、原初の称号を冠する八人の冥帝が、冥府神アステナの住処にして呪縛冥府世界の中核、死霊樹リグルヴァで一度に会していた。


 規則があるわけでもないが、どの冥帝も口を開こうとはしない。

 ただ、目の前で冥帝たちの顔を交互に見ては微笑んでいる冥府神の表情に注目するばかりである。

 アステナは、無言を貫き通す空間を打破すべく、口を開く。


「――まずは、お礼から言わせてもらうわね。それぞれの思惑があって、意図があって参加してくれたのだろうけど、この呪縛冥府世界のために私の配下となってくれてありがとう」


「造作もない。ワタシたちは、冥府を統べるために存在している。冥府の秩序に傾いたこの世界は、まさしくワタシたちに向いている世界と言える」


 アステナの言葉に返したのは、光輝心頭世界の冥帝ギィ・クロース。


 赤黒い魔力と衣は、死霊樹に負けず劣らず、死の香りを放っている。


「うふふ。アステナちゃんが目指していた世界が誕生して、うれしい限りだわ」


 アステナに同調するように柔和な笑みを浮かべているのは、瞬間永劫世界の冥帝リリス・アドヴィネ。


 人間の体には、至る所に植物が生えている。

 目の穴には、小百合の花が咲いており、右手には義足のように樹木が装着されている。


「呪縛冥府っていう世界の字がまずカッコいいんだよね」


「私の世界では、冥府の秩序が発揮できませんでしたから、この世界だと気が楽です」


「聖なる死が我の生を奪うその日まで、呪縛冥府の名に相応しい活躍をご覧にいれましょう」


 赤糸傀儡世界のセアルテ、転生祝福世界のイエティ、叡智古書世界のフィゼロープが思い思いに口にする。


 他にも言葉にすることはないが、アステナの謝辞に対応すべく、三千魔境世界のヌドゥオレ、塵芥消失世界のガゼルガン、恍惚転写世界のピクセーラルがそれぞれ頷く。


「それで、今日はどんな用件で呼ばれたのでしょうか?」


 こちらも暇ではないのですが――という、言葉の裏にはイエティの思いが隠されている。


 先日、秩序が生み出され、視座から新たに作られたばかりの呪縛冥府世界アステナ。


 視座の神々や冥府神アステナによって、世界が創造されている最中で、冥帝たちは自分たちの住居となる担当冥府を整えている真っ最中なのだ。


 この世界は、成り立ちが他の世界とは大きく異なっている。


 一般的な世界は、視座の神々によって行われる創世神判で視座の神の中から挙げられた世界の案を神々が実現させる、というもの。


 しかし、呪縛冥府世界は主神であるアステナの名前を冠しておきながら、アステナの案が世界となったわけではない。


 各世界に存在する冥府。

 主世界とは違う小世界で運営される冥府を一か所に集中させ、冥府の運営を効率的な物にする。


 これがアステナが創世神判で発議した内容だった。


 結果として、アステナの案を採用し、視座の空間に連合冥府を作るのではなく、新たに世界を作り出し、冥府神アステナの秩序が十分に発揮される空間で運営する方がよいだろう、となり呪縛冥府世界は誕生したのだった。


 そんな生まれたての世界で、覇者たる冥帝全員を集めて雑談を、なんてことはあり得ないだろう。

 アステナの真意を聞くべく、イエティは口を開いたのだ。


「冥帝のみんなはきっと、出身世界の秩序の力を借りて冥府を準備しているでしょう?」アステナの言葉に当然というように冥帝たちは頷く。「このままじゃ、冥府を維持したり、拡充したりするためには、出身世界の力を借り続けなければならない。けれどそれじゃあ――」


「呪縛冥府世界が一方的に他の世界の力を奪っていってしまうことになる、ということでしょうか」


「そうなるの。呪縛冥府世界に他の世界の秩序が集中すると、秩序である呪縛冥府がうまく効果を発揮しないのでは、と思って……」


「それじゃあ、どうしたらいいのでしょうか。視座の神々の力がそそがれているとはいえ、この世界は生まれたての弱小世界。冥府運営のために、我々が好きなように力を使えば、枯渇するのは目に見えています」


「そう! そこで、みんなが運営している冥府に字をつけて、私が所有する冥府としてしまう。そうすれば、この世界の力を借りる――というよりも、私の力を借りるということになって力が枯渇する可能性がなくなるんじゃないかなって思ったのよ!」


 アステナの提案に対し、是も非も示さない冥帝の面々。

 死霊樹の木の葉が揺れる音を後ろに、アステナは立ち上がる。


「冥府神アステナはここに提案します。第一冥帝ギィ・クロース、第二冥帝リリス・アドヴィネ、第三冥帝セアルテ・ディゴル、第四冥帝イエティ・オルファフォード、第五冥帝フィゼロープ・エンドルセン、第六冥帝ヌドゥオレ・オルテ、第七冥帝ガゼルガン、第八冥帝ピクセーラル・ニーゼル、以上の冥帝が所有する冥府を冥府神アステナの所有するものする。この提案に異議のある者は申し出てください」


『異議なし』


 アステナの提案に対し、八名の冥帝が出した答えは満場一致の合意だった。


 アステナは安堵の表情を浮かべると、椅子に座り直す。


「第一冥帝ギィ・クロースが運営する冥府には、『嚇怒』の字を与えます」


「有難き幸せ。ワタシの能力を全てを以て、嚇怒冥府を発展させると約束しよう」


 満足そうに頭を垂れるギィ。

 ギィに相応しい字に、誰からの不満が出ることもない。


 アステナは、ギィの横に座るリリスに体を向ける。


「第二冥帝リリス・アドヴィネが運営する冥府には、『合理』の字を与えます」


「うふふ。アステナちゃんに貰ったいい名前、大切にさせてもらうわね」


 軽い言葉ながらも、アステナを敬う思いが込められている。


 リリスの横に座るセアルテに体を向け、アステナは口を開く。


「第三冥帝セアルテ・ディゴルが運営する冥府には、『人形』の字を与えます」


「ありがとうだよね。字に相応しいよう、ぼくの全力を注ぐんだよね」


 その後も、順番に字はつけられていく。


「第四冥帝イエティ・オルファフォードが運営する冥府には、『秩序』の字を与えます」


「ありがとうございます。この字を聞いて、私の冥府を思い出させられるような立派な冥府にしてみせます」


「第五冥帝フィゼロープ・エンドルセンが運営する冥府には、『選定』の字を与えます」


「うむ。我の冥府において選定など日常茶飯事になることは間違いなしである!」


「第六冥帝ヌドゥオレ・オルテが運営する冥府には、『絶命』の字を与えます」


「死ぬはぜったい! たくさん、ころす!」


「第七冥帝ガゼルガンが運営する冥府には、『備忘』の字を与えます」


「何て字だったか忘れちゃった……」


「第八冥帝ピクセーラル・ニーゼルが運営する冥府には、『唱和』の字を与えます」


「ボクの冥府がとどろくその日まで、ボクの声で満たしてみせよう」


 こうして、アステナの字授与は終わった。

 それ以上話が弾むこともなく、アステナ配下に入ったことによる効果の説明が終わると冥帝たちは自らの住処である冥府へと帰っていった。


 あとに残されたアステナは少し寂しそうな表情をうかべた。





 冥帝たちの冥府に字を与えたその夜。

 アステナは、生まれたばかりの呪縛冥府世界に振りかかる災難を憂いていた。


(これは……いったい、どういうことなのでしょうか)


 世界の奥深くまで死霊樹の根は張られている。

 地中や地上で起きた大抵のことは死霊樹を通して、アステナも知覚することができる。


 ましてやアステナは主神だ。


 この世界の秩序の権能を操る中心だ。


 そんなアステナが気づかないわけがないのだ。

 世界を危機にさらすような厄災をもたらすような存在を――


「死霊樹、この危機を脱するために私は深い眠りに就くことになるでしょう。その間に、如何なることがあってもこの世界を護るのです。いいですね?」


 口がきけない代わりに、死霊樹は枝を揺らし了承の返事をする。

 アステナはもう既に死霊樹を旅立っていた。


 ――――――――災禍へと近づくために。

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