閑話 とある国のとある姫①
これは唯斗がまだ地球を旅していた時のこと。
一人で全てを背負おうとした頑張り者の少女と、自由に世界を旅する唯斗が出会ったお話。
「アース」
「す、す、スイカ!」
「カッパ」
「ぱ、ぱ、パイナップル!」
「ルアー」
「あ、あ、アケビ!」
「……ずっと果物しか言ってないけど、別に果物縛りっていうわけじゃないんだよ?」
「だって果物たべたいんだもん」
「そんなこと言ったって、こんな平原のどこに果物があるのさ」
見渡す限り木が一本も生えていない。草ばっかり。
建造物も見当たらないし、川もない。
普通だったら遭難状態だけど、僕には魔術や神術があるから水には困っていない。
食料には困ってるけど。
あれ、これって遭難なのかな?
「ユート、くだものくだもの!」
「だいたい、このしりとりだって空腹を紛らわせるために始めたんじゃない。なのに果物ばっかり言ってたら意味ないでしょ」
「だってー」
「僕だって辛いんだよ? もう何日も食べてないんだから」
最後に食事をしたのはいつだっただろう。少なくとも数日前ではないね。
こんなことだったら、前回立ち寄った街でもっと多く食料を買っておくんだった。
「そもそも、リンの占いでこっちに歩いてきたんじゃない。こっちの方から何か感じるー、とか言って」
「占いじゃないもん未来予知だもん」
「ごめんごめん、で、その未来予知によるとこっちなんでしょ」
「……たぶん」
たぶんって、そんな曖昧なの?
もっと自信があるものだと思ってた。
「でも、この先にはおーとがあるんでしょ?」
「うん、王都ね。この先にあるはずなんだけどなぁ」
この平原は前に地図で見たことがある。地図で見てもかなり広かった。
確か王都があったはずだけど、方向が間違ってたらと思うと心が折れそうになるよ。
「とりあえずあの小高い小山の上まで行ってみよう。何か見えるかもしれないし」
「……うん」
リンを落ち着かせてひたすら歩く。
正直、僕の頭に乗っかってるリンよりも歩いてる僕の方が辛い。絶対に。
永遠と続くような同じ景色にも飽きてきたよ。そろそろ別のものが見たい。
「ねー、ユートー」
「なに?」
「ひま」
「なら、またしりとりでもーー」
「それはもういやー!」
だよね。
「あ、そういえば僕のリュックの中にゲーム機が入ってるけど」
「……リンはボタンにとどかないの」
「カードゲームは……、歩きながらじゃ無理か」
「何か他にはー?」
「将棋とか? あ、でもルールを説明しないといけないし、それにリンには難しいか」
だったら何があるかな。
人数制限がなければ他にも思いつくんだけどな。
「まちー!!」
「街? そんなゲームあったっけ?」
「ちがうの! あれ!」
視線を上げると、その先には大きな街がぼんやりと見えた。
「やっと着いたか。よかったよ、方向が間違ってなくて」
「早く行こ! ユート!」
「はいはい」
リンに急かされて、ちょっと走って行く。もちろん神力で身体強化してね。
「おー、おっきいね」
「ねー」
近くまでくるとその大きさがよくわかる。
一番奥に見えているのは王城かな?
「ちょっといいかな」
「なんだい?」
「ここって王都で合ってる?」
「そうだよ。あんた、旅行者かい?」
「うん、旅をしていてね」
「そんなにちっこいのにたいしたもんだね。まぁ、ゆっくりしていきな」
やっぱりここは王都で間違い無いようだ。確か、記憶が正しければレオードっていう人が国王だったはず。
「でも、つい三日前に国王様が亡くなってね。今では一人娘のリエナ姫が女王様さ」
「何があったの?」
「病気らしいね。以前から調子は悪かったみたいだよ。ま、そんなわけでちょっとばたついてるかもしれないけど、楽しんでいきな」
病気、ね。
僕は神力を持ってるから病気にはかかったことがないんだけど、やっぱり病気っていうのは怖いね。
「あと、その頭の上の人形は落とすんじゃないよ。壊しても知らないからね」
……やっぱりどこへ行っても、リンは人形に見られるんだね。
そのあと親切に宿の場所まで教えてくれたおばちゃんにお礼を言って、手持ちのものを換金した後、宿をとった。
予約いっぱいで入れないということもなく、簡単に部屋を取ることができた。
「さて、ひとまずやることは……」
「「ご飯だね!」」
流石の僕もお腹が空いた。
水だけではお腹は膨れても満たされることはないんだ。
時間もちょうど昼時でいい時間帯。
僕たちはすぐに食堂へと駆け込んだ。
「ご馳走さま」
「ごちそーさま」
いつもなら一人前で十分だけど、あまりの空腹で二人前食べてしまった。
リンもこれまで我慢してきた食欲をぶつけるように、自分の体積の十倍くらい食べていた。
本当に大丈夫なの? 破裂しない? と不安だったけど、本人が満足げだったからよしとしよう。
お金はさっきそれなりに手に入れたんだけど、今回の食事でかなり減ってしまった。
リンが高級な果物ばかり食べたからね。高かったんだよ?
本人はそんなこと関係ないみたいに僕のフードの中でくつろいでるけど。
そのあとすぐにリンは寝た。
お腹が膨れたから寝るのはいつものことだから放っておく。
疲れているから僕も休もうとも思ったんだけど、お腹がいっぱいすぎて逆に寝にくい。
なので、街の中を散策することにした。
この街に入ったときも思ったけど、この街は活気がある。
生活している人たちの目が輝いてるっていうのかな。
きっと国王が良かったんだろうね。
自分の気の向くままに、そして街の人に話を聞きながらゆっくりと街を回った。
「今まで見てきた街の中でもかなり過ごしやすそうな街だね」
この街の人たちは助け合いで生きている。
さっきも荷物を盛大に撒き散らしてしまった人がいたんだけど、周囲の人たちがすぐにフォローしていた。
迷子の子供がいれば、近くの衛兵らしき人が親身に母親を探していた。
信号を無視するような車もまだ見ていない。
「こんな街もあるんだね」
確かにこの街は過ごしやすい。
でも、悪事を考える人にとってはいいカモだ。
僕みたいに他国からやってきた人の中にはきっとそんな人もいる。
そして痛い目を見るのはきっとこの街の人だろう。
「ま、僕が考えても意味ないか」
とか呟いた瞬間に、突然銃声が響いた。
今まで見てきた国の中でもかなり過ごしやすそうな街は、とか言っておきながらこれだよ。
視線の先では、覆面をした男たちが二十歳前くらいの女の子を車に押し込んでいるところだった。
「姫さま!!」
さっき車でさらわれたのが姫なら、あの女性は付き人だったんだろうね。
拳銃で撃たれて足を怪我してしまったようだ。
でも、怪我など関係ないかのように必死に車を追いかけようとしていた。
「私の、私のせいです! 私が姫さまを外にお連れしなければ、こんなことには!!」
あんなに無理に動かせば、足が動かなくなってしまうかもしれない。
僕はその女性に近づいて、膝を折る彼女の肩に手を置いた。
「落ち着いて」
「……誰ですか」
「心配しないで、少なくともさっきのやつらの仲間ではないから」
「お願いします! どうか、助けを呼んでください! 姫さまが、姫さまがさらわれてしまったのです!」
「わかったから、落ち着いて。その傷は深い。あまり無理をして動かすと二度と動かなくなってしまうかもしれないよ」
「私のことはどうでもいいのです! 一刻も早くこのことを衛兵たちに伝えてください! お願い、します……!」
女性は泣きながら僕に言った。
それが痛みのせいのか、それとも悔しさからなのか。
僕には後者に見えるね。
「【癒せ】」
「え、……痛みが消えた?」
「じゃあ、ちょっと待ってて。その姫を連れてくるから」
「え?」
僕は神力で身体強化すると、一気に駆け出した。




