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あたしだってムカつく時は本気でムカつくんだから。

 お久しぶりです。予定よりも遅れてしまって申し訳ない。ちゃんと書いてあったんですけど思ったより忙しかったorz


 水無瀬と村瀬ってなんかかぶるから村瀬を村上に変えさせていただきましたw

 計画力がなくてごめんなさいorz 短い上にあんまし話は進んでないです。






 決めた。あたしはもうこの先稔とは口を聞かなければいいことにした。もしかしたらそっちの方が人生楽になるんじゃない!? やっべ。超名案じゃん、あたし。



「じゃあ稔ちゃん? ちょっといろいろ説明してもらおうか?」



 そんなことを言いながらにっこり笑ってるあたしは現在屋上で稔と対面中。


 つい十分前、ホームルームが終わった瞬間に固まる教室中の先生生徒をほっといて、稔はニコニコ笑いながら席についた。隣であたしはそんな稔を殺す勢いで見ていたけど、あたしなんて存在してないように無視しやがって。

 ついでに斜め前の水無瀬があたしを見てふっと笑ったのは見逃してないからな!



 稔はあたしの顔を見て引きつった笑みを浮かべている。だけど瞬時にあたしが笑みを顔から消すと、稔はすぐに視線を泳がせた。



「セットにしたいとは言ってたけどさ、なんで恋人役? なんでよりによって、恋人役?」

「え、いや、だってほら、面白いじゃん?」



 今ここでこいつを殺しやろうか。


 あたしの恐ろしい形相を見た稔が慌てて取り繕うとする。



「だ、だって! ビジュアル評価重視だから、必然的に主要人物の二人は美男美女がいいでしょ!?」

「ふざけんじゃないよ! 今どういう噂が回ってるのか知ってる上で、どうしてああいう配役になるのよ!!」

「仕方ないでしょ!! 他にいい役が見つからなかったんだもん!」

「もんっていうな! 役なんて普通にいっぱいあるでしょーが! だいたいハーミアとライザンダーのキャラがどうやったらあたしと水無瀬君に合ってるっていうのよ! 構成力はどうした、構成力は!!」

「そんなもんは捨てた!」

「捨てるな!!」



 三つの部類で評価されて、その総合点で優勝するとかほざいてながらも結局ビジュアル重視どころかそれだけしか気にしてねぇじゃねぇか!

 相も変わらずあたしが睨み続けると、開き直ったかのように稔が話だした。



「とにかく、監督には逆らえないって言ったはずだから、彩那に拒否権はない!」

「どうしてそうなんのよ! あんた本当にあたしの親友!?」

「練習は放課後から始まるから絶対に来なさいよ! 来なかったら外してくれるかなとか思っても無駄だからね! 外さないからね!」

「........」



 あたしの発言を無視した上に釘を刺された。行かなかったら役を違う人に回すかなとか密かに思ってたのに。本当に余計な親友の分かち合いだよ。

 そそくさと屋上を後にして行く稔を怒鳴りつける気力も失せて、あたしは仕方がないから放課後までは鬱憤晴らしは自重することにした。







 そしてその日の放課後、午後三時半。中心人物の四名以外は決まっていないということもあって、教室の中は嫌にガランとしていた。まあ、教室の外に群がっている人達を除いたらだけど。

 殆どうちの学年全員が集まってるんだけど。そんなにあたしと水無瀬が恋人を演じる所を見たいのか。そうか。

 .....くっそ稔!! 絶対にいつか後悔させてやる!!


 ムカムカムカという効果音をたてているあたしを無視して、稔はあたし達四人を椅子に座らせながら説明をしていた。



「最初のシーンが宮殿のシーンで、ハーミアのお父さんがハーミア、ライザンダー、ディミートリアスを連れて殿下の前に来るから、そこからねー」

「はーい」



 っていう返事をしたのは村上だけで、他三人は眉をあげて台本を見ていた。

 ....なんっだこれ。いや、シェイクスピアの時代だし、翻訳されてるんだから仕方がないっちゃ仕方がないんだけど....なんでこんなに台詞が、こう、クサいの? あたしこんなやり取りを水無瀬としないといけないわけ?

 ああ、だめだ。朝の怒りがまたこみ上げて来た。



「ヘレナはまだ出番ないから、神楽さんは横で見てていいよ」

「分かった」

「彩那と水無瀬君は村上と一緒にここに配置ね。お父さん役とシーシウスはまだ決まってないから私が台詞言うけど。...ってちょっと。そこの二人。聞いてる?」



 稔から声をかけられてあたしと水無瀬が同時に顔をあげる。それからあたし達の顔に書いてあるものを読み取ったのか、一瞬だけ表情に恐怖が走った。だけどそこはやはり腐っても立原稔。一切触れずにあたしと水無瀬をさっさと位置につける。



 因みに『真夏の夜の夢』あるいは『夏の夜の夢』はシェイクスピアが1590年代に書いた喜劇だ。なんだか、『夏の夜の夢』の方が一般的に使われているらしく、『真夏の夜の夢』は直訳で、どちらかというと古くから親しまれている名前なんだとか。


 全五幕からなり、だいたいの劇の舞台はアテネ近郊の森で行われる。主要人物は男女四人、ハーミア、ライザンダー、ディミートリアス、ヘレナであり、全員が貴族だ。んでまあ、この四人が見事な四角関係を成り立たせているわけ。ハーミアとライザンダーは恋人なんだけど、ハーミアにはお父さんのイージアスが決めた婚約者のディミートリアスがいて、ディミートリアスはハーミアのことが好きで横から彼女を奪い取ったライザンダーのことは毛嫌いしてるんだけど、ハーミアもライザンダーも『はっ! お前となんか結婚しねぇよ!』って感じで(いや、多分違うんだろうけど)、ハーミアの友達であるヘレナはそんなディミートリアスに切ない片想いをしていて、三人の関係を余計に複雑にしているわけなんだけど。

 ...簡単にいうと、ハーミアとライザンダーが恋人で、ディミートリアスはハーミアが好きで、ヘレナはディミートリアスが好きってわけだ。


 まだまだ序盤だからこの四人とかイージアスとかイージアスが話してる公爵やら女王しかいないんだけど、他に妖精とか職人さんとかもたくさんいる。まっ、あたし達がやってるのは本当に最初の方だからまだ妖精とかのことは考えなくていいと思うんだけど。



 あたし達が台本を手に取ると、稔がうん、と頷いた。



「まだ最初だから台詞に集中するだけで、細かい演出とかは後で決めるからねー」

「うん...」

「分かった」

「そこの女。テンションあげて」

「誰のせいでこんなテンションだと思ってやがる」

「んじゃあイージアスがハーミアを連れて来る所からねー」

「......」

「村上も彩那の隣で待機して」

「ああ」



 いっそ清々しいほどに無視したなこいつ。

 村上があたしの隣に立つのを確認してから、稔は台本に視線を落とした。



「んーと、イージアスが『まったく、困り果てております....』ながっ! ちょ、この台詞長いから省略するわ」

「うおい」

「どっちにしろこのあとにシーシウスが『ハーミア、考え直すことはできないのか?』なんちゃらかんちゃらってなって...えーと...」


 

 稔が眉を寄せながら台本に書いてある台詞を目で追って行く。


 因みにシーシウスというのはハーミア達が暮らしているアテネの公爵の一人。どっかの女王であるヒポリタ姫と結婚をする話をしてると、イージアスがヘレナ以外の三人を引き連れて来て、ハーミアがディミートリアスと結婚しないんであればハーミアを殺すしかないとかなんとか言う。アテネの中で法律なんだとか。

 なんちゅー法律だよ。



「まいっか。全部行くよー。んーと『ハーミア、考え直すことはできないのか? 父親というものは子にとって神も同然なのだ。そのために子をどのようにするのかは父親の思いのままではないか。ディミートリアスも立派な若者だろう?』はいハーミア」

「...『ライザンダー様も立派なお方でございます』..」

「声が小さい!!」

「『ライザンダー様も立派なお方でございます』!」

「よろしい。シーシウスがディミートリアスは父親に好かれてるんだからはよ結婚しろ、的なことを言って」

「いや言ってないよ」

「はい、ハーミア!」

「はぁ...。『父は私のことを理解なさろうとはしないのです』」

「シーシウスが『いや、お前だって父親を理解していないのではないか?』と言って」

「『ご無礼をお許しください。何がこのように私を強くしてるのかが、あ、強くしてるのか分かりません。殿下の御前でこのように自分の思いをさらけだすことはあまりにもはした...ん? あ、はしたないか。あまりにもはしたないことかも知れません。でも私には止める事ができないのです、この思いを。もし父の決めた結婚を拒んだ時は、あ、時には、この私にどのような重い罰が与えられるのでしょうか』」

「噛み噛みだね...」

「うるさいよ! だいたい台詞が全部長い!」

「当たり前でしょ! シェイクスピアなんだから! だいたいあんたの台詞には感情が全然乗ってない!」

「細かい演出はいいってさっき言ってたじゃん!」

「感情くらいは乗せろよ!」



 キィー!! という感じでお互い睨み合っていると、水無瀬と村上が慌てて仲裁に入った。神楽さんも座っていた椅子から立ち上がると足早にこっちに近づいて来た。



「まあまあ! 立原も有賀もちょっと落ち着けって。立原もさ、ここはみんなで台詞を読み合ってからどんな感じなのかを掴んだ方がいいんじゃねぇの?」

「感じ?」

「そっ。だって結構古い時代の劇だろ? 観客にももっと親近間湧かせる様にさ、台詞ももうちょっと馴染みやすくしたりできるんじゃないのか?」

「そりゃあ、多分平気だと思うけど...」



 村上の提案に稔が眉を寄せる。因みにあたしはその案には超賛成。

 困った表情を浮かべた稔に水無瀬が笑いかけた。



「そんなに力まなくても平気だよ、立原さん。俺達にはまだまだ時間あるし、台本があれば家で練習も出来るし、ね?」

「....うん」



 小さく稔が頷くと水無瀬も村上笑った。隣にいた神楽さんも少し微笑を零してから、口を開いた。



「稔ちゃん、ここはさ、みんなで座って台詞をいろいろいじってこうよ? 二人の言う通り私達にはまだまだ時間があるしねっ」

「.......」



 なんとなか不満そうに見えたけど、あたしもその案に素早く賛成すると、稔も渋々頷いた。







 結局その日の練習は台詞をいじるだけで終わり、外であたしと水無瀬が恋人を演じるのを見たがっていた方々には申し訳ないことをした。

 ざまぁみろ! 面白がってみるからだバカ共!!

 .....なんかテンションがおかしいな。今日はいろいろあったせいで。


 あたしは、演技をするためにどけた椅子とか机とかを元に戻しながら、ゾロゾロと帰って行く野次馬を見て溜息をついた。

 どうすっかなぁ...。猛烈な勢いでこのことが学校中を回るような気がするのはあたしだけか? だってさ、だってさ! なんかよく分からない噂が出回ってた時だって真っ先に久我先輩に問いつめられたよね!? その噂が消えて間もない時にこんな劇をやるんだったら普通に回るよね!?


 もう一度溜息をついて椅子をしまうと、隣で気配を感じてふと顔をあげた。

 水無瀬が飄々とした様子で机を押していた。

 ...こんなにあたしが悶々と考え込んでるのになんだその『え? 何? 何か問題でもあったけー?』みたいな様子。ああもう尋常じゃないくらいにムカつく。

 睨みつけてから椅子から離れようとすると、有賀、と小さく言う声が聞こえた。少し目を見開いて首を動かすと水無瀬が机に腕を置いたまま真っ直ぐとこっちを見ていた。

 .......くっそ。しばらく直視してなかったから気にしてなかったけど、久しぶりに顔を見るとくっそかっこいいなこいつ。



「何?」



 みんながこっちを見てないのをさり気なく確認してから返すと、それを見た水無瀬がふっと笑った。



「何?」



 さっきよりも強く言うと、水無瀬が少しだけ首を傾げた。

 ...こいつ、何をすれば余計にかっこよく見えるのかを熟知してやがる。



「お前さ、いつまで俺のことを無視するつもり?」

「別にしてないでしょ。話してないだけだよ」

「なんで?」

「............」



 いい加減にしねぇと本気で泣くぞ。

 ピクッとあたしの眉が跳ね上がったのを見て水無瀬の顔に張り付いていた笑みがますます大きくなる。

 もうなんなのこいつ。



「もうそういうのやめてよ。本気でムカつく」

「.........」



 言い放ってからさっさと背を向けると、あたしは黒板を綺麗にしていた稔の傍に歩み寄った。

 稔はあたしを見てから後ろにいる水無瀬にも視線を投げたけど、今回はさすがに何かを察したのか何も言わずに黒板消しをあたしの手の中に入れた。

 無言で黒板を消し始めてから、あたしはさり気なく後ろに視線を向けると、机に手を置いたまま水無瀬がこちらに背を向けて動かない様子で立っていた。


 .......いつまでも同じ反応を返すと思うなよ。








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