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春の灯―ハルノヒ―  作者: 絲瀬


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出会い

四月。

実希は、新しいバイト先での初日を迎えていた。

短大時代から、とある特殊な家庭教師をしていた実希は、自分の今いる生徒が小学校を卒業するまで、と決めて短大卒業後もフリーターをしていた。


そして今回、新しく掛け持ちを始めたのが、このバイト先だった。


バイトと言っても、事務作業のバイトで社員と同じような研修が今日から行われるらしい。


研修会場にいた同期には、主婦が圧倒的に多かった。そんな同期の中で、一人、フリーターがいた。

泰生。年齢不詳のこの男は、初対面の実希に向かって、とんでもない発言をする。


「君もフリーター?」

「そうですけど……」

「じゃあ俺と同じでチャラチャラしてるんだ」


は?この人何?


それが泰生の第一印象だった。


泰生がどんな理由でここにいるのかは知らないが、チャラチャラと言うなら一緒にしないで欲しい。


「何ですか? 急に」


実希は怒った口調で答える。


「何怒ってんの? 図星だからでしょ」


実希の怒りに気付いていながら、煽る泰生。


これ以上、この人と話すと絶対に苛つく。

そう考えた実希は、泰生の側から離れた。


こいつとだけは、絶対仲良くなれない。


ずっとそう思ってた。



――入社してから、一ヶ月。


昼食を食べに行こうとオフィスの外に出ると、泰生がいた。


(げ……こいつかよ)


内心、そう思いながら「お疲れ様です」と横を通り過ぎようとした。


「お昼? 行くの?」


突然話しかけてきた泰生に、何で話しかけるんだと思いながらも答える。


「そうですけど」

「どこ行くの? いつもぼっち飯してるもんね」


この男はどこまで幼稚なんだろう。

社会人になって、一人で食事を取れない方が問題だと思うが。


それにぼっち飯には理由がある。

同期はほとんど主婦で、主婦の方たちは半日で帰ってしまう。

かと言って、先にいる先輩とも現状関わりがないため、特定のお昼を一緒に食べる人はいないのだ。


一方、泰生は数少ない男性アルバイトの為、先輩の女性陣たちに可愛がられ、いつも囲まれていた。


「余計なお世話。そっちこそ、いつもの先輩たちと食べないんですか」


「最近俺あの人たちと食べてないよ。マダムの悪口大会に付き合わされるのはごめんだし。俺のこと、見てなさすぎじゃない?」


「……逆に何で見てると思ったんです?」


「何でだろ。思ったから」


やっぱりこの男と、まともな会話は出来ない。

そう判断した実希は、「じゃあ」と言って去った。


はずだった。



後ろから、「どこ行くか知らないけど俺も行く」と言いながら着いてくる泰生。


(こいつと昼なんて、ごめんなんだけど)


「いや、来なくていいです」


実希は振り返って、泰生を睨みながら言った。

それでも、泰生はヘラヘラしている。


こいつとまともに話してたら、昼休みが終わってしまう。

そう思った実希は、気にせず歩き出した。


カフェに入って、注文した商品を受け取り、席に座る。

泰生も、しっかり隣に来た。



「……隣やめて欲しいんですけど」

「何で?」

「あなたと話したくないから」

「いいじゃん」


本当に話が通じない。もう無視しよう。

実希はイヤホンを着ける。

好きな音楽を聴いて、下がったテンションを元に戻そうと思った。


泰生は、そんな実希を時折眺めていた。


この日を境に、泰生が実希のランチに着いてくることが増えた。


「着いてこないで」と言っても、泰生はお構いなし。


段々、実希も諦めモードに入っていた。


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