「ヒューマンストーリー」 二十一話:職責
板垣「子供連れの方です。」
自衛官A「ご苦労様です。あとはこちらに任せてください。」
板垣「お願いします!」
2人の警務官にそう伝えると先程保護した子供連れの女性が電車に乗れるよう手続きを始めた。
板垣「桐嶋二曹・・・」
桐嶋「どうした?」
板垣「俺、思うんですよ・・・もしかしたら今のこの状況はそんなに大したことじゃなく・・・なんとかなるかもしれないって・・・」
桐嶋「楽観が判断を狂わすぞ・・・俺が震災で学んだことだ・・・」
板垣「でも・・・」
桐嶋「御殿場でのことを忘れたか?・・・今のこの状況だってそうだ、周りを良く見てみろ。まだ俺たちにまで伝わっちゃいないが警察の動きが慌ただしくなってる・・・恐らく警戒線に配置されてる消防も同様だ。」
板垣「てことは・・・」
桐嶋「すぐそこに来てるかもな・・・」
そう話す桐嶋二曹からも独特の緊張が伝わってくるのが分かった。
桐嶋「家族には連絡したのか?」
板垣「はい。一応・・・遺書も・・・」
桐嶋「恋人には?」
板垣「いえ、あの・・・」
桐嶋「最期になるかもしれんぞ・・・連絡しとけ。」
板垣「はい。すみません。」
俺は自分の携帯を開いた。そこには不在着信19件と表示されており全て同じ連絡先からだった。
板垣「あ・・・」
桐嶋二曹はその画面を目にした瞬間笑みを浮かべた。
桐嶋「愛されてるな・・・」
板垣「あははは・・・すみません。」
桐嶋「そのすみませんってのはどういう意味だ?」
桐嶋が先程とは違う意地の悪い笑みを浮かべた。
板垣「いえ、そういう意味では・・・」
桐嶋「冗談だ。早く掛けてやれ!」
板垣「すみません・・・」
俺は着信履歴から不在着信の連絡先への発信ボタンを押した。
板垣「あー、もしもし?」
携帯「もしもし!大輔!?」
板垣「あ、うん。ごめんね優奈。遅くなって。」
携帯「本当だよ!電話にも出てくれないしメールも返してくれないから本当に心配したんだよ!?」
電話口の彼女はとても興奮していた。興奮気味の声から先程までの必死さが伝わってくる。
板垣「ごめんね。ちょっと仕事で出られなくてさ・・・」
携帯「仕事ってどこに居るの!?御殿場って確か・・・」
板垣「うん。今は御殿場じゃないんだ。えっとここは西の浜松の方かな。」
携帯「まだ静岡なの!?」
板垣「うん。ここはまだ、大丈夫かな。」
携帯「まだ大丈夫ってどういうこと!?」
板垣「優奈落ち着いてちゃんと聞いて。今俺が居るところは比較的落ち着いているところなんだ。だから俺のことはまだ大丈夫。」
携帯「でも、そこって静岡県なんでしょ!?そんなところに居たら・・・」
板垣「ここにはまだ逃げ遅れた人たちが居るんだ。だから俺はその人たちのことは守らなくちゃいけない。」
携帯「でも、そこももうすぐ危なくなるんでしょ?そんなところに居たら・・・」
板垣「優奈!これが俺の仕事だから・・・」
俺がそういうと彼女は俺の考えを分かってくれたのか何も言わなくなった。
板垣「優奈。今どこに居るの?」
携帯「えっと今山口県だけどこれから九州に渡るところだよ。」
板垣「そっか。優奈の家族は?」
携帯「もう名古屋に居るみたい。」
板垣「そっか。それじゃ大丈夫だね。」
携帯「大輔。」
板垣「ん?」
携帯「また、いつもみたいに会えるよね?」
板垣「当たり前だろ?どうしたんだ急に。」
携帯「本当は凄く心配。生きて帰ってきてくれるか不安になる。」
板垣「そんなすぐに死なねぇよ!桐嶋さんだってタフだし、そのために普段から訓練してんだ!」
携帯「うん。分かってる。そう言うと思ってた。」
板垣「それなら・・・」
携帯「だけど!約束して欲しい・・・絶対に死なないって!また生きて私と会ってくれるって!」
板垣「あぁ。約束だ!仕事が終わったら、優奈の親御さんに挨拶しないとな・・・」
携帯「うん・・・!」
桐嶋「お取り込み中申し訳ないんだけど・・・結構状況がまずくなってきたらしい。すぐに中隊に合流しろだと・・・」
桐嶋二曹が深刻な表情を浮かべながらこちらに近付いてきた。
板垣「り、了解。ごめん優奈!そろそろ切るね!優奈も気をつけて!」
携帯「あ、大輔・・・」プツッ
-----山口県・下関市・関門橋前-----
優奈「大輔・・・死なないで!」
そこには携帯を握りしめ涙を流す女性が居た。ただ1人の人間の帰りを待ちわびて・・・。




