露顕(ところあらわし)
時代柄、生前に何度か三日夜餅は食べたことはあるが、今日のよき日に雅は「うれしきを何に包まむ唐衣」と思わず雅は口ずさんだ。
小笹が運んできた一口大の餅を頬張る横で、加代子は雅が飲み下すのを見ながら、不思議そうにしている。
「加代子さんも召し上がります?」
雅に薦められて加代子もひとつ食べてみる。餅はお団子のようにほんのりとした甘みがあった。
「美味しい。」
そう言ってにっこりと笑い、すっかり打ち解けた雰囲気の加代子を見て、雅はこのままこうしていられたら、どんなに幸せだろうと思った。
寛いだ様子の雅は「いい天気ですね」と言いながら、開け放たれた蔀から外を眺めている。
外は初夏の爽やかな晴れ間で、春には黄緑色をしていた木々の葉も、いよいよ青さを増して生気に満ち溢れていた。
(背の君、かあ・・・・・・。)
一日目は洋服を着ていた雅は、二日目、三日目は直衣を借り受けたのか、夢に見たのと同じように着こなしていて、様になっている。
よくスーツ萌えとか制服萌えとかいうけれど、自分にその気があるのかと自らを疑うくらいには、この艶やかな姿に目を奪われた。
初日と二日目は明け方少し前になると、そう離れていないものの別の部屋に帰っていったのに、何故だか今日は朝寝していて加代子が目を覚ますと、単衣を着ただけで寛いでいた。
青白い光にその姿が目に焼き付いて、離れない。「その後も、色気がだだ漏れなんだけど」と内心評して、加代子はまともに雅の顔を見られる気がしなかった。
加代子は小笹に「人前ではこうするといいですよ」と習ったように、扇を開くと赤くなり始めた顔を隠す。
そんな風に加代子が一人悶々としている事など気が付かずに、小笹が「この後、西の対に渡られませ。」と雅に促すと、「承知しました」と雅が答えた。
「支度もあるのに長居をしてしまいましたね。小笹にもすっかりお世話になってしまって。」
「とんでもない事にございます。一日目の朝はひやりと致しましたが。」
灯火は消えるし、靴もそのままで。
加代子の枕元に置いた後朝の歌とは別に、雅は小笹に色々と便宜を図ってもらったらしかった。
雅と小笹のやり取りをぼんやりと見ていると、その様子に気がついた雅が「まだ眠たいですか?」と訊ねてくる。
口元を扇で隠したまま「少し」と言えば、小笹は呆れ顔になり、雅は「つらいでしょうが今日は起きていて下さいね」とあやしてくる。それにむうと頬を膨らませると、雅は可笑しそうに喉を鳴らして笑った。
「そう言えば、すごく今更なんですが、加代子さんは《なごみ屋》に居たんでしたよね?」
こくりと頷く加代子は、なごみ屋で何が起こったかを順を追って話す。
「襲ってきたのは会ったことのない者だったのですね?」
「あ、でも検非違使って斎さんが言ってた。」
「検非違使?」
「うん、赤い服で、白い杖を持ってて・・・・・・。」
「検非違使が何のために?」
「不和の林檎を取り除くとか何とか――。」
それで斎が怒ってくれて、検非違使の男を店の入口を吹き飛ばして追い払った事と、その後、彩女が怒って店を飛び出した事、それを追ってうっかり店先に出てしまった事を話した。
「検非違使に捕まって、意識が遠くなって・・・・・・。気がついたら、ココにいたの。」
検非違使なら検非違使庁に連れていかれるはずなのに、何故、この根の国に運ばれたのかは、加代子にも分からないようだ。雅はその辺は凛に聞いた方が良さそうだと判じた。
「ところで、凛はどうなったの? 笛は持ってたみたいだけど、呼んでも出てこないし・・・・・・。」
「こちらに来た際に霊力の殆どを、入口の桜門に奪われてしまいましたからね、今はぐっすり眠ってますよ。」
恐らく元のように人型を取るとしたら、高天原に戻って、もうひと月眠ってからといったところだろうか。
「素戔嗚尊によれば、ここは奇稲田姫を護るために作った邸らしいですからね。冥界に出入りをしたり、中に暮らしていたりしている者の霊力を少しずつ持ち寄って、この状態を維持しているのでしょう。」
火産霊神が根の国を去った今、伊邪那美命の眷属となった自分が、素戔嗚尊に次いで霊力が高いのだろう。高山で酸素の薄さに身体が慣れず戸惑うような、そんな感覚が三日前からずっとしている。
「それにしても、聞けば聞くほど、斎に損害賠償請求されそうな話でしたねえ。」
雅がため息混じりにぼやくと、加代子はバツが悪かったのか、そっと視線を外す。
「こうして離れている間に、さらに話が拗れていなければいいのですが。」
「また規格外な事が起こりそう?」
加代子が訊ねると、雅は「そうですね」と話す。
やはり、ここで幸せな時を過ごしていたいという願いは叶わないようだ。
最初は右手の甲だけに刻まれた唐草模様は、火産霊神がくれたペンダントの効果も虚しく、昨夜の時点で、まるで弓籠手を身につけているかのように右の肩全体から鎖骨部分にかけてまで広がっていた。
服を着ていれば見た目にはそれと分からないから国津神や妖には気づかれないかもしれないが、天津神には伊邪那美命の眷属であることを見抜かれてしまうだろう。
高天原における最大勢力の天照大神や龍翁が、擁護の意を示してくれたというのに、今の自分の状態は排除に動かれても文句は言えそうにない。
それに表向きは一枚岩に見える高天原も、その実、天照大神達以外にも派閥はあるから、そちらから狙われる可能性もある。
現に長年つきあいのあった轟でさえ、自分と加代子を排除しようと、執拗に追ってきたくらいだ。何か事が起きる前に高天原の安寧を揺るがす不安因子を取り除こうとする勢力がいても不思議ではない。
眉間に皺を寄せ、雅がみるみる思案顔になるから、加代子は心配そうな表情になる。
「大丈夫?」
加代子が訊ねると、初めてあった日のように雅は冷ややかな笑顔を作り「大丈夫ですよ。何とかしますよ」と言った。
言外に「だから、大人しくしていてくださいね」と言われた気がする。
「はい・・・・・・。」
加代子がさっきとは違う意味で視線を逸らす。一瞬流れたその微妙な空気に、小笹は雰囲気を変えようと二人の間にある器に手を伸ばした。
「ああ、そうだ。小笹はこちらに一緒に付いて来るかい?」
不意な申し出に器を下げる手が止まる。
「他の者と違って、この根の堅洲国に縛られていないのだろう?」
素戔嗚尊は加代子に女房を付けるのにあたって、あまり根の堅洲国に縁付いていない者を采配してくれたと話していた。根の堅洲国に縁付いている者は、今の状態の須勢理毘売命をこの邸に置く事をあまり良しと思わなかったようだ。
だから、そうした者は本殿や西の対屋に采配し、この東の対屋にはそれ以外の者を配したらしい。
中でも筆頭に置いた小笹は、幼い時分にこの世界に迷い込み、須勢理毘売命が保護した者で、咎人でも無ければ、素戔嗚尊の眷属でもない。
「琴子に付いていたように、また付いてきてはくれないかい?」
すると、小笹は少し驚いた顔をした後、にっこりとして「素戔嗚尊がお許しくださるなら」と笑う。
「素戔嗚尊は《超のつく親馬鹿》だと火産霊神が仰ってましたし、かつては右近として付いていた実績もあるのです。お許しくださるのでは?」
雅がとても楽しそうに言うから、加代子は何となく面白くなくて口を尖らせる。
「娘婿に優しい舅になれるようには見えないけれど。」
雅はその言葉に苦笑すると「では、素戔嗚尊のお相手は加代子さんにお願いしますね」と笑った。
◇
露顕の儀を行う為、西の対に渡る。
本当は夜通しやるとの事だったが、小笹が加代子の体調を理由に上手く取り計らってくれたようで、昼にごく身内を集めてささやかに行われる事になったようだ。
とはいえ、盛装はするようにとの事で、雅と別れた後は四、五人がかりで寄ってたかって着替えさせられ、今は歩きにくい長袴で、しかも裳と引き腰を引き摺るようにして歩くという凄くストレスのかかる格好になっている。
(こんな格好、しょっちゅうしてられないよ・・・・・・。)
一週間、だいぶ慣れたと思っていた平安装束はまだまだ序の口だったのだと思い知らされる。
渡殿で立ち止まり、小笹に「もう無理」と目配せしたが、小さく横に首を振られる。加代子はため息が出そうなのを噛み殺すと、再びゆるゆると進み出した。
雅と媒酌人となる火産霊神が来るまで、少し待つようにと囁かれて立ち止まると、漸く着いた部屋には、何人もの人影が見え、一番奥には素戔嗚尊が既に坐し、やや緊迫感を保ちながらも、傍目には和やかに話をしているようだった。
衣擦れの音で気がついたのか、素戔嗚尊は話を止めて加代子の方を見る。そして、嬉しそうに目を細める。
小笹に言われていた通りの挨拶をすれば、小笹が「準備が整ったようです」と言われ、そのまま小笹の誘導に従い、先へ進む。加代子は小笹に言われた通り、礼を欠かないようにする事と、引き腰に足を取られて転ばないように気を付けるので必死だったが、御簾の向こうでは誰もが加代子の様子を見守っている様子だった。
しかし、それを見計らったようにして素戔嗚尊に雰囲気の似た男性が「父上」と呼び掛ける。
「いかがした? 八嶋士奴美神。」
「今日という良き日にかような事を伺うのは失礼とは存じながら、宴が始まる前に一同を代表してお尋ね申し上げます。」
「構わぬ。申してみよ。」
「此度の露顕の儀ですが、須勢理毘売命とその婿がねのお披露目と遣いより連絡を受け馳せ参じました。そして、女人は確かに須勢理によく似ているのですが、本当に・・・・・・?」
そうして言い淀み、辛そうな声色で「須勢理が居なくなってから幾年、今になって須勢理が戻ったのを信じろというのですか?」と訊ねる。
加代子には背を向けるような位置だから、顔までは見えないものの、その声色はどこか懐かしく感じるから不思議で加代子は二人のやり取りに聞き耳を立てた。
「ああ、そうだ。須勢理は戻った。」
感慨深そうに語る素戔嗚尊に八嶋士奴美神は「ですが、須勢理の夫たる大己貴命は幽世に封じられておりましょう?」と話す。
しかし、素戔嗚尊は御簾越しに衣冠姿の雅の姿を見つけると、目を細めただけで、それ以上は語らない。
「何やら騒がしい事になっていますね。」
不意に隣に立ち小声で囁いてきた雅に、加代子は思わず素っ頓狂な声が出かかり、何とか堪えると少しムッとした表情でこくりと頷いた。
「ああ、良くお似合いですね。」
「でも、これ、物凄く大変なんだけど。」
小声で加代子が囁くと、雅は「でしょうね」と笑い、同じく姿を現した火産霊神は、半裾姿で「それでいつ入ったら良いんじゃ?」と部屋の様子を眺めながら、雅の袖を引いた。
「そこは敏腕ウエディングプランナーの小笹さんにお任せです。」
確かに小笹は細やかに各方面に指示を出し、あれこれ采配を振るっていて、ウエディングプランナーのようだ。
しばらくすると部屋の中がようやく落ち着いた様子で、小笹は火産霊神に「どうぞ」と促す。
「ふむ、では参ろう。」
そう言って火産霊神はスタスタと進んでしまったが、雅は加代子の手を取ると「ゆっくりで良いですから、安心してください」と言い、一人で進む自信を失いかけてる加代子を勇気づけた。
やがて姿を現した新郎新婦の様子に、八嶋士奴美神だけでなく、一同、目を丸くさせて口を揃えて「大己貴命?!」と驚きの声を上げる。
「父上、これは一体?!」
「須勢理の婿は古来からこの者と決まっていよう? 野に火が放たれても死なん奴だ。」
そう言って素戔嗚尊は苦笑すると、媒酌人としてやって来た火産霊神と、本日の主役である雅、加代子をすぐ近くの席に呼び、座るように促す。
加代子は小笹と雅の介添えがあって何とか座れたが、雅は難なく衣冠を着たまま座り、一同に礼をする。その姿が様になるどころか、板についている様子だったから、加代子は見とれてしまった。
「人の世に転生し、千歳あまり。今は時任 雅として、死神をしております。」
「死神? 大己貴命ではないのか?」
困惑する一同に、素戔嗚尊は加代子を見ると、「今日は良き日ぞ」と一同に声を掛ける。
ざわついていた一同はサッと波が引くように静かになった。
「須勢理毘売命も大己貴命も今は昔。だが、何の縁か、二人の生まれ変わりはこうして我が前に現れた。この者らが真実、一同の知っている者に縁があると証明しよう。」
加代子はそれを聞くと驚きのあまり目を見開き、雅と小笹を確認する。その言葉に話を聞いていなかったのか、雅も僅かながら緊迫した面持ちになり、素戔嗚尊の話に耳をすませていた。
「時任 雅。この者はかつて授けた生大刀、生弓矢を難なく受け取った。それらを具現化せよ。」
その願いに雅はどこかほっとした表情になり、一度目は大刀を、「では弓矢を」と促せれて同じようにして弓矢を生み出した。
その様子に見ていた一同は「ああ」と脱力したように声を上げ、「本物だ」と嬉しそうにする。
「島崎 加代子。この者も同様に天詔琴を掻き鳴らした。」
加代子はそれを聞くとこの格好で自分も琴を弾かねばならぬのかと、緊張した面持ちになったが、雅の事を受け入れた一同はザッと音がするかのように礼をする。
「この婚儀に異議のあるものは申し出よ。」
しかし、誰もそれについて反論するものはなく、素戔嗚尊が「よろしい。では、あとは三献の儀と参ろうではないか」と笑みを零した。
◇
三献の儀を終えた後、宴はいよいよ華やかさを増し、管弦の調べに興が乗ってきたのか、火産霊神が「そうじゃ、お主の舞をまた見たい!」と騒ぐ。
「その代わりに愛宕神社で式を挙げる予定でしたが、こちらに会場を移しましたので。」
「ほう、火産霊神が愛宕の社を貸すと約束するほどの舞か? ならば、一指披露せよ。」
「しかし、かなり呑んでおりますし、醜態を晒しかねません。」
雅はそう言って断るものの、火産霊神も素戔嗚尊も「出し惜しみするな」と言う。
雅は加代子に助けを求めるような目をしてきたが、いつの間にかやってきた八嶋士奴美神と五十猛神に両側から「早よう」と袖を引かれて立たされていた。
「須勢理だって、お主の舞を見たいと思うておるぞ?」
八嶋士奴美神と呼ばれた素戔嗚尊に似た雰囲気の美丈夫に「なあ?」と言われると、加代子は気恥ずかしくて、頬を桜色に染めてこくりと頷く。
「加代子さん?」
「だ、だって、愛宕神社で見たの、凄く格好良かったもの。」
小声でそう呟けば、小笹はくすくすと「御簾越しにはあらで、見まほしゅうと申されております」と代弁する。
「そうですか。吾妹子がそこまで仰るなら仕方ありませんね。」
雅はにこやかにそう返したものの、加代子はその刺さるような視線に思わず目を逸らし、小笹は横でくすくす含み笑いをしている。
「酔いに任せての舞ですので、どうかお許しを。」
雅は諦めたように火産霊神と素戔嗚尊に断りを入れて、庇に出ると、管弦の音に合わせて、延喜楽を舞い始める。
そのゆったりとした動きに、袖は風を孕み、翻り、加代子は愛宕神社で見た時と同じようにして、雅の舞に見蕩れた。
まるで「風」そのもののよう――。
どうやら感じたままに口にしていたようで、近くにいた八嶋士奴美神は「ああ、確かに爽やかな薫風のようだ」と言祝ぐ。
そしてその言葉に乗って、いつもはチラチラと振る雪のような淡い光の数が増え、雅の舞に乗ってキラキラと反射した。それを見ていた火産霊神と素戔嗚尊の口からは「ほう」と驚きの声が上がる。
雅が袖を振るたびに、蛍のように仄かな光が軌跡を描き、やがて上へ上へと上っていく。
幻想的な――。
そう、あまりに幻想的な景色に、誰もが雅が舞を終えるまで声を発せなかった。
ただ一人、素戔嗚尊を除いては。
「昔も今も、お主は相変わらずの変わり種だな。」
魂振る笛に、魂呼ばいの舞。規格外にも程がある。
「まさか、私も、このような事態になるとは思いませんでした。」
庇から戻ってきても、まだ蛍火のような光が追い掛けるようにくっついてきていて、そのせいか雅はこの場の誰よりも神々しく見える。
「かつて宇都志國玉神として名を授けたのだ。死神とはいえ、これくらいの事はしてもらわねばなるまいよ。」
そう言って素戔嗚尊は可笑しそうに笑い、火産霊神は「婿いじめは許さぬぞ? 雅信はお気に入りだからの」と釘を刺す。
雅はそんな二人のやり取りを他所に加代子の隣に戻ってくると「さて、この事態、どうしましょうか?」とにっこりとした。
「わ、私のせい?」
「最終決定は加代子さんでしたからね。」
「う・・・・・・。」
言葉を詰まらせている加代子の様子に、二人のやり取りを見守っていた八嶋士奴美神は、「生まれ変わっても、同じなのだな」と感慨深そうに笑う。
そして、五十猛神が「大己貴命が戻ってきたのなら、高天原も恐れ成すだろうよ」と笑うと、素戔嗚尊は「その事だが」と五十猛神を窘めた。
「此度の露顕の儀であるが、高天原にはまだ秘して置いて欲しい。今の段階で天照大神や月読命と事を構えるつもりはない。」
力強い声でそう宣言すると、暫くの間、みんなしてあんぐりとした顔で素戔嗚尊を見る。やがて我に返った五十猛神が「しかし! 我らを虐げてきた高天原に拮抗できる唯一の者ですよ?!」と騒いだ。
素戔嗚尊が煩わしげに眉間に皺を寄せる。途端にさっきまで騒がしかった宴の席は一気に静かになった。
「恐らく、そう遠くない日に八岐大蛇が目を覚ます。」
その言葉に、一同、サッと青ざめる。加代子は真っ青になって固まった小笹の手をそっと手に取ると素戔嗚尊を見た。
「その贄は須勢理。」
素戔嗚尊がそう続けると、再びざわめきが起こる。
「それ故、二柱と争いをしている場合ではない。」
火産霊神が「事はこの世界の危機ぞ」と言えば、周りも青ざめながらも頷く。
素戔嗚尊が「それゆえ、今はまだ秘して置いて欲しい」と言えば、一同、納得の表情となった。
「祝いの席で済まぬな。」
「いえ、お気遣いくださりありがとうございます」
素戔嗚尊が酒を煽るように呑むのを見届けると、雅はその盃に酒を注ぐ。
そして、「今宵の宴の御礼に一曲、奏しましょう」と言うと青竹を取り出して、ひょうと吹き始める。それにつられて、そろりそろりと管弦が鳴り始めた。
その後は露顕の儀も恙無く進んだが、雅の舞に感嘆の声をあげた時のような高揚した雰囲気はなりを潜めてしまった。




