『デジタル・ステップ』 第28話 「三が日とコタツの魔力」
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それでは、本編をお楽しみください!
正月三が日。
それは、学生にとって一年で最も堕落を許される、甘く危険な三日間である。
「……あー、お茶飲みたい。誰か淹れてきて」
「無理。私いま、足の指先まで完全にコタツと一体化してるから。ケント行ってよ」
「はあ!? 俺は今タクトと対戦中だろ! リナ、頼む!」
「えー、私も今みかんの白い筋を完璧に取る作業で忙しいんだけど」
暖房が効いたリビングの中央。
数日前に導入されたばかりの大型コタツは、見事に六人の高校生を飲み込むブラックホールと化していた。
テレビではお正月の特番が垂れ流され、テーブルの上には山盛りのみかんと、食べかけのポテトチップス、そしてトランプの束が散乱している。
初詣の熱気はどこへやら、1月2日の午後ともなると、全員が完全に「お正月モード」という名のスライムに成り果てていた。
「もう……誰も行かないなら私が行くよ。みんな動かなさすぎ」
見かねたユヅキが、重い腰を上げてコタツの布団をめくろうとした、その時だ。
「あっ! ダメユヅキ、開けないで! 冷気が入る!」
「保温性が下がるだろ! 隙間を開けるな!」
マナミとケントが同時に叫び、ユヅキの腕をガシッと掴んで布団を元に戻させた。
「……じゃあ誰がお茶淹れるのよ」
ユヅキがジト目を向けると、全員がスッと目を逸らし、コタツの奥深くへと首まで潜り込んでいく。
その見事なまでの怠惰っぷりに、ユヅキは呆れを通り越して笑ってしまった。
結局、ジャンケンで負けたタクトが半泣きでキッチンへ向かい、急須でお茶を淹れてくることになった。
「はい、お茶。……あーあ、一回外に出たらめっちゃ寒いじゃん。俺のポジション誰か詰めてよ」
「タクトくんお疲れ様。はい、綺麗に剥けたみかんあげる」
リナが完璧に筋を取り除いたツヤツヤのみかんを差し出すと、タクトは嬉しそうにそれを受け取り、再びコタツの定位置へと潜り込んだ。
「あー、あったかい……。ていうかさ、お正月ってなんでこんなに眠くなるんだろうね」
シオリが、座椅子に背中を預けたまま、ふぁあ、と大きなあくびをする。
「わかる。食べて、テレビ見て、寝て。人間の三大欲求をコタツの中だけで消費してる感じ。最高すぎる」
マナミが湯呑みを両手で包み込みながら、しみじみと呟いた。
彼女の言う通りだった。年末年始の慌ただしさを抜けた後の、この「何も予定がない空白の時間」こそが、三が日の最大の醍醐味なのだ。
画面の中の芸人がドッと笑いを取り、それに釣られてケントやタクトも声を上げて笑う。
リナはシオリの髪を三つ編みにして遊び始め、マナミは三個目のみかんに手を伸ばしている。
「マナミ、あんたお昼にお餅三つも食べたのに、まだ入るの?」
ユヅキが呆れて言うと、マナミは「みかんは水分だからノーカウント!」と堂々と宣言した。
「お前それ絶対あとで体重計乗って悲鳴上げるパターンだろ」
「うるさいなケント! お正月太りは日本の伝統文化なの! 今からダイエットのこと気にしてたらお餅の神様に失礼でしょ!」
「なんだよお餅の神様って」
くだらない言い合いをBGMに、ユヅキはコタツの中でこっそりと足を伸ばした。
自分の足先が、誰かの足にコツンと当たる。
「あ、ごめん」「ん、いいよ」という短いやり取り。
外は凍えるような寒さなのに、この狭い四角い空間の中だけは、信じられないほど暖かくて平和だった。
病気もない。老いの恐怖も、今は遠い。
遺伝子の構造や、身体を巡るナノマシンの存在なんて、この怠惰で心地よいコタツの中では何の意味も持たなかった。
彼らはただ、お茶をすすり、みかんを食べ、テレビを見て笑う、どこにでもいる普通の高校生だ。
「よし、お茶も飲んだし、ババ抜きしよ! 負けた人、夕飯の買い出しね!」
マナミが元気よくトランプを切り始めると、全員から「ええーっ」と不満げな声が上がる。
「外、絶対寒いじゃん……」
「俺やだ、絶好調にコタツと癒着してるもん」
「文句言わない! ほら、カード引いて!」
強制的に配られたカードを手に、また賑やかな声が響き始める。
コタツの魔力に囚われた六人の三が日は、どこまでもゆるく、そしてとびきり暖かく過ぎていくのだった。
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アナログの肉体が抱えるノイズ(脆弱性)と、デジタルの最適化。
もし病気も寿命もある「完璧に理にかなった機械」が存在したら、生肉であることの価値はどこにあるのか。そんな思考実験のようなヒューマンドラマです。
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