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第一章:消えゆく夢と色あせた世界

穏やかな夢と、残酷な悪夢の境界線がどれほど近いか、あなたは考えたことがあるだろうか?


朝比奈ハルキにとって、その境界線はほんの一瞬の瞬きに過ぎなかった。過酷な受験勉強を終え、十七歳の少年は二月の美しい桜の下で、自由な新生活が始まるものと信じていた。しかし、彼の見慣れた世界は突如として灰のように消え去り、色あせた、不気味な空白だけが残された。


次に目を覚ましたとき、彼を待っていたのは見慣れた自室の天井ではなく、狂気に満ちた異世界だった。夜空には血の月が君臨し、悍ましい怪物たちが咆哮で静寂を切り裂く世界。チート能力も、英雄の加護もない。卒業したばかりの高校生が持つ唯一の装備は、ただの体操服一着と、文字通り剥き出しの双拳だけだった。


血は流れ、悲鳴は響き渡り、一歩進むごとに絶望が彼の心を蝕んでいく。燃え盛る戦場と、死を暗示する黒き塔の狭間で、ただ「家に帰りたい」という切なる願いだけで、この世の地獄のような世界を生き延びることができるのだろうか。


朝比奈ハルキの、血と涙、そして再生に満ちた過酷な旅路へようこそ。

* 二月の半ば、咲き始めたばかりの桜にうららかな朝の光が降り注ぐ。受験勉強に追われる過酷な日々を終えた彼は、重い疲労感を抱えたまま目を覚ました。窓辺に咲く桜のつぼみは美しいと人は言う。しかし彼の目に映るその景色は、魂の奥底にある深い哀愁を体現しているかのようだった。


今日は、早く終わってほしいと願っていたはずの学生生活が、ついに幕を閉じた最初の朝だった。しかし奇妙なことに、その朝は静まり返っていた。耳をつんざく目覚まし時計の音も、母が自分を叩き起こす声もしない。もう学校へ行く必要もなく、親友たちや……あの彼女と一緒に机を並べることもない朝が来たのだ。


呆然とした面持ちでベッドから這い出た朝比奈ハルキは、学生という身分を終えたばかりの、未練に満ちた少年だった。一階に降りて母親を呼んでみたが、返事はない。ただ、母がいつも長期の出張で家を空けがちであることを知っていたため、驚きはしなかった。母が自分を深く愛してくれていることも分かっている。冷蔵庫を開けると中身は空っぽだった。彼はいくつかの買い出しをするために、スーパーへ向かうことに決めた。


玄関のドアを一歩踏み出したとき、最初に感じたのは、肌を刺すような冷たい風だった。風は家々の隙間をすり抜け、まるで彼を捕らえようとするかのように舞い降りてくる。スーパーに近づくにつれ、ハルキは周囲に誰もいないことに気づき始めた。スーパーの中も同様だった。電気は点いているものの、いくら周囲を探し回っても、絶望的なほどに人っ子一人見当たらなかった。


学校の近くにある広場に辿り着いたとき、彼の目に飛び込んできた光景は、彼を底なしの恐怖へと突き落とした。それは、背後にそびえる高校の校舎よりも巨大な、圧倒的な巨躯だった。その巨体の全身からは神々しいほどの黄金の輝きが放たれている。しかし、そこから放たれる空気は息が詰まるほどに重苦しかった。その「何か」には顔がなかった。唯一分かったのは、かつて頭部であっただろう場所から、遥か青空の彼方へと一本の巨大な柱が伸びていることだけだった。そのあまりの異様さは、彼の語彙では到底表現しきれないほどの怪異だった。


ハルキは一歩、また一歩と後ずさりし、必死に走り出した。しかし、彼の身体に異変が起き始める。ふと視線を落とすと、彼の肉体は冷たい風に溶け込むように、少しずつ消え去りつつあった。足の指先から両手へと、何の前触れもなく、ただ静かに侵食されていく。パニックに陥りながらも、彼は声を上げることもなく、ただ運命を受け入れた。これは夢だ、自分に訪れるはずのない、悪質な悪夢に過ぎないのだと考えたからだ……。


……


……。 ……


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「……おい……おい……大丈夫か、少年」


ハルキは重い瞼を開いた。その顔にはまだ、あの悪夢の恐怖がべっとりと張り付いたままだ。しかし、目の前にあったのは見慣れた我が家の天井ではなく、一人の男の顔だった。見知らぬ男が家の中にいるという事実に、彼は愕然とした。


だが、ハルキが周囲を見回したとき、自分が横たわっている場所が自宅ではなく、薄暗い洞窟の中であることに気づいた。壁には子供がいたずらで描いたような不格好な絵が殴り書きされており、周囲には、かつて自分がプレイしたゲームに出てくるような発光する水晶が転がっている。この場所の唯一の出入り口は、男の背後にある通路だけのようだった。彼はゆっくりと身体を起こし、男に問いかけた。


「……あなたは誰ですか? ここは一体どこなんだ?」


「俺はアコリア(Aquallia)王国から来たしがない商人さ。ここを通りかかったときに山賊の群れに奇襲されちまってな、奴らから必死に逃げ隠れているところだ。走っている途中でこの洞窟を見つけて飛び込んだんだが、入ってみたらお前さんがそこで倒れていたのさ」


「アコ……何だって? 冗談だろ。あんたたち、ドッキリか何かの撮影でもしてるのか? はは、種明かしならもう結構だよ!」


ハルキは、自分がバラエティ番組の笑えないドッキリに引っかかっているのだと確信し、大声で笑い飛ばした。しかし次の瞬間、老商人は彼の口を強引に塞いだ。老人の身体はひどく痩せ細っていたが、ハルキの口を抑えつけるその腕力は、異常なほどに強靭だった。ハルキの目には、この老人がただ「迫真の演技」をしているだけのように映った。老人の顔が、文字通り生きた心地のしない、極限の恐怖に染まっていたからだ。そのとき、洞窟の奥から重々しい足音が響いてきた。


「あのクソジジイ、いやがったぞ野郎ども! ついに捕まえたぞ、ハハハハハハハハハ!」


老人をおののかせる山賊たちの下卑た笑い声。ハルキはまだ、彼らの名演技に感心すらしていた。しかし、その笑い声の直後に起きた出来事は、ハルキのこれまでの人生において、永遠に消えないトラウマとなった。山賊の一人が、傷跡だらけで手首に赤黒い汚れのついた大きな無骨な手で、老人の小さな頭を乱暴に掴んだのだ。


(この場面の詳細は、ここでは語らないでおこう。もし読者のみなさんが今後の章で詳細な描写を望むなら、言ってほしい。本当は自分の脳内にある思考をすべて書き殴りたいところなのだが……)


老人に「それ」を行った後、奴らは恐怖で狂い、外へ出せと絶叫するハルキの元へと歩み寄ってきた。その場の光景は、言葉で表すことすら悍ましいものだった。血、悲鳴、そして山賊たちの残虐な笑い声が混ざり合い、狂気に満ちた絵画を完成させるための、歪んだ筆跡のように絡み合っていた。


「頭、このガキはどうします? ……いっそ、ぶっ殺しちまいますか?」


「いや、身なりを見るにあのジジイの身内だろう。金を持っていそうだ。家族から身代金をふんだくるための人質として、生かして連れて行くぞ」


「おおおお! さすが頭、冴えてますねぇ!」


背後に控える男たちが一斉に歓声を上げる。


「だが、うるさすぎるな。静かにさせろ」


ハルキはなおも絶望の中で叫び続けていた。山賊の一人が、トゲのついた無骨な棍棒を振り上げ、ハルキの頭部へと容赦なく叩きつけた。激しい衝撃と共に、彼の意識は急速に遠のいていった。


「おい、死んじまったんじゃねえだろうな?」


一人が不安げに口を開く。


「心配すんな。あのジジイだって5発以上は耐えたんだ、ハハハハハハハハハ!」


どれほどの時間が経ったのだろうか。ハルキは朦朧としながら目を覚ました。脳をドリルで抉られるような激痛が走り、思わず悲鳴を上げそうになったが、極限の恐怖が辛うじて彼の喉を締め付け、声を押し殺した。彼は自分が、大柄な山賊の分厚い肩に逆さ吊りで担がれていることに気づいた。前方では、リーダー格の男と他の山賊たちが無言で足早に歩みを進めている。あの血生臭い死の洞窟を離れ、一刻も早くこの森を抜け出そうとしているようだった。


辺りはすっかり薄暗くなっていた。意識が激しく揺らめく昏睡状態で、ハルキは無意識に、鬱蒼と生い茂る木々の隙間から夜空を見上げた。その瞬間に目に入った光景に、彼の瞳孔は恐怖で収縮し、全身が凍りついた。


異世界の夜空には、おぞましくも、二つの月が浮かんでいたのだ。


一つは、彼が毎晩見慣れていた故郷の空にあるものとよく似た、柔らかな銀色の月。しかしそのすぐ隣、不気味な暗雲の合間から覗いていたのは、一回り小さな第二の月だった。その月は、滴る生血のように禍々しく赤く染まり、冷酷で邪悪な光を放っていた。まるで、地上の万物を見下ろす悪魔の眼球のようだった。その血の月光が揺れる木の葉を照らし出し、静まり返った森を、死臭の漂う魔戦場へと変貌させていた。


残酷な現実がハルキの精神に容赦なく叩きつけられる。ここは絶対に地球ではない。すべてはあの奇妙な夢、自分をこのクソッタレな場所に放り込んだ、呪わしい悪夢から始まったのだ。彼がパニックと頭痛の挟み撃ちにあって悶絶しているそのとき、突如として山賊の一人が、裏返った声を張り上げた。


「り、火竜りょくりゅうだ! 火竜が出たぞ!!!!」


「ふざけるな! 奴らが活動する時間じゃねえだろ! 何かの間違いだ、本来なら奴らは朝にしか……」


その男が言葉を言い切る前に、茂みから飛び出してきた「何か」が、彼の頭部を一噛みで粉砕した。その生物は、ハルキがかつて見たこともないほどの凄まじい業火を全身から噴き上げていた。大きさは馬ほどもあり、トカゲを極限まで巨大化させたような姿をしている。全身はマグマのように真っ赤に燃え盛る鱗で覆われていた。怪獣は鋭い牙を剥き出しにし、今しがた絶命した男の残骸を貪り食い始めた。


その凄惨な光景を目にした残りの山賊たちは完全に狂乱し、隊列を崩して命からがら森の奥へと散り散りになって逃げ出した。しかし、この深く危険な森を闇雲に走るなど、自殺行為に等しい。それでも、数人の比較的勇敢な男たちが巨大な刀を構え、その化け物を打ち倒そうと躍り出た。


しかし不可解なことに、男たちの刃がその燃え盛る鱗に触れた瞬間、すべての剣がドロドロに溶け落ちてしまった。まるで魔法としか思えない力をその生物が有しているという事実は、信じがたい悪夢だった。最初の獲物を仕留め終えた化け物は、ゆっくりと振り返り、残された山賊たちを冷酷に見据えた。それは、これから始まる血の饗宴に歓喜するような、悍ましい肉食獣の笑みだった。


一人、また一人と無慈悲に屠られていき、ついにその怪物の視線は、最後の生き残りとなったハルキと、彼を担いでいた山賊へと向けられた。躊躇うことなく、化け物は凄まじい速度で突進し、山賊の身体に喰らいついた。ハルキは地面へと激しく叩きつけられた。怪物が山賊の肉を骨ごと噛み砕く光景が、ハルキのわずか数メートル先で繰り広げられていた。


「なんでだよ?? なんでだよぉっ!……俺が何をしたって言うんだ。なんでこんな目に遭わなきゃいけないんだよ! 帰りたい、家に帰りたいよ! 誰か頼むから助けてくれ! 死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくないんだよぉぉぉ!!!!!……」


ハルキの絶叫は、再び極限の絶望を体現していた。しかし、身体に刻まれた生存本能が彼を突き動かし、どうにか立ち上がらせた。その頃には、化け物は山賊を平らげ終えていた。


しかし奇妙なことに、ハルキが必死に逃げ出しても、その怪物はただそこに佇むだけで、彼を追ってこようとはしなかった。おそらく、すでに腹が満たされ、矮小な獲物を追う気が失せたのだろう……。それはただその場に立ち尽くし、必死に逃走するハルキの背中を、じっと凝視しているだけだった。


悪夢が一時的に去り、ハルキの全身は激しくガタガタと震えていた。この世界のあまりの残虐さに胃が限界まで収縮し、彼は近くの大木の根元に崩れ落ちると、胃液を激しくぶちまけた。先ほど目撃したすべての恐怖を、身体の中から無理やり搾り出そうとするかのように、猛烈に嘔吐した。


胃の中が酸っぱい消化液だけになるまで吐き散らした後、彼はフラフラと立ち上がった。この世界の、そしてここに住む者たちの容赦のない残酷さを身を以て知った彼は、一つの真実を理解した。家に帰りたいのなら、どんな手段を使ってでも、生き延びなければならない。


「……あいつ、もう追ってこないよな? あの生物は一体何なんだ……。もしかして、地獄から来たのか? いや、ここ自体が地獄なのか? もしこの世界に、あんな化け物がいるなら……俺を元の世界に戻してくれる『何か』もあるはずだ。だけど、今一番大事なのは、何としても命を繋いでこの森を抜けることだ。あの化け物どもから、できるだけ遠くへ離れるんだ」


幸運なことに、夜が明けかける頃、ハルキはついに森の境界線へと辿り着いた。目の前に広がった光景に、彼は言葉を失った。どこまでも続く鮮やかな緑の草原が地平線の彼方まで伸びており、それはまるで大海原の波のように緩やかに波打っている。その草原の小高い丘のあちこちには、不気味で死の気配を漂わせる、漆黒の巨大な塔がそびえ立っていた。


草原には羊や馬に似た生物たちが駆け巡っていたが、ハルキにはそれらが自分の知る大人しい家畜とは根本的に異なるものであることが直感で分かった。この世界の空は、吸い込まれそうなほど美しい魅力を放っており、早朝の澄んだ風に乗って、淡い青色をした雲がゆったりと流れていく。そのあまりにも平穏な景色に、彼は一瞬、自分がかつて暮らしていた故郷にいるのではないかと錯覚しそうになった。


草原を吹き抜ける涼やかな風が、都会のそれとは完全に異なる、清浄で心地よい空気を彼に運んでくる。ハルキが傷だらけの裸足をその草地へと踏み入れたとき、草の葉がまるで意思を持っているかのように、ごくかすかな力で彼の足首に優しく絡みついてきた。


「……これ、何なんだ? 動けるけど……ここの草、まるでみんな生きているみたいだ。なんで俺の足に絡みついてくるんだ?」


しばらくして、ハルキは自分の足にあった無数の擦り傷の痛みが和らいでいることに気づいた。完全に完治したわけではなかったが、どうやらこの草には、触れた者の傷を一定のレベルまで癒やす治癒能力があるようだった。その極上の心地よさに、彼はこの世界が持つ本来の残虐さと過酷さを一瞬だけ忘れた。ハルキの顔に、草たちの純粋な優しさに対する微かな微笑みが浮かぶ。彼は心の中で感謝を呟いた。


「……この世界の心地よさや平和が、どれほど残虐さを隠すための偽りの器に過ぎないとしても……その奥底には、まだ信じられる『良いもの』があるんだな」


彼の痛みを十分に和らげ終えると、草たちはまるで役目を終えたかのように、静かにその足を解放した。ハルキは再び地平線の彼方へと視線を向けた。そこには、かなり高い防壁に囲まれた小さな家々の影がかすかに覗いていた。それはまるで、ハルキがかつてプレイしたRPGに出てくる王国のようだった。


この世界についてもっと知るため、ここに住む人間について知るため、そして山賊たちを蹂躙したあの化け物の正体や、我が家と呼べる場所への帰還方法を見つけるためには、あそこへ向かうのが最善の選択だろう。距離を測るに、あそこへ辿り着くには少なくとも3日は歩き続けなければならないようだった。


ハルキは、果てしなく続くかのように広がる緑の草原を一歩ずつ踏みしめ始めた。ゲームのような世界の中で、まさか自分が本当に文字通り歩いて旅をすることになるとは、想像すらしていなかった。彼の胸の奥に、この忌々しい悪夢が一日も早く終わり、家に帰れるようにという、微かな、しかし確かな希望が芽生え始めていた。


今の彼の身にまとっているものは、自宅にいたときから着ていた一着の体操服だけ。そしてどういうわけか、彼はこの過酷な異世界で、文字通り「徒手空拳」の身一つで生き延びなければならないのだ。それは間違いなく、あまりにも過酷な旅路の始まりだった。


私はベトナム人です。読んでいただき、本当にありがとうございます。日本の文化についてまだ深くは知りませんが、日本という国、そして日本の漫画が本当に大好きです。心から感謝を込めて。 — ティエン・ダット (TienDat-Vn)

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