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破滅する悪役王子に転生した武士、生後三秒で腹を切ろうとして妖精に泣いて止められる  作者: めるしー


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番外編⑥「わたしが、選んだ光」

王都の、外れ。

小さな、救護院(きゅうごいん)に。——柔らかな、光が、満ちて、いた。


「——はい。もう、大丈夫。痛みも、すぐ、引きますからね」


亜麻色の、髪を、後ろで、ひとつに、束ねた、娘が。

寝台の、子供に。そっと——手を、かざす。


すみれ色の、瞳の、奥から。あたたかな、光が、こぼれ。

擦りむいた、子供の、膝が。——みるみる、塞がって、いった。


「わぁ……! お姉ちゃん、すごい!」


「ふふ。——もう、無茶しちゃ、だめ、だよ?」


——アンジェ。


かつて。"聖女候補"と、呼ばれた。——平民の、娘。


今は、こうして。

名も、なき、人々の、傷を。——一人、また、一人と。癒やして、いる。





——その、様子を。


ちょうど、救護院の、視察に、訪れた、アルフォンスの、隣で。

わたし(ひかり)は。——そっと、見つめて、いた。


『……ねえ。武士さん。——知ってる?』


原作(げんさく)のね。——あの子は。本当なら』


『"聖女様"として。国中に、讃えられて。攻略対象の、誰かと、結ばれて。——物語の、ど真ん中に、立つ、はずの。"ヒロイン"だったんだ』


光の、聖女。選ばれし、乙女。

——(まばゆ)い、ほどの、栄光が。約束されて、いた、少女。


その、すべてを。

彼女は。——ついぞ。手に、しなかった。





「——あら。アルフォンス、殿下」


顔を、上げた、アンジェが。

ふわり、と——微笑んだ。


そこには。

かつての。あの、何かに、追い立てられる、ような。——強張った、影は。もう、どこにも、なかった。


「息災で、あったか。アンジェ殿」


「はい。——おかげさまで。毎日、てんてこ舞い、ですけど」


くす、と、笑って。

アンジェは。——濡れた、布を、片付け、始める。


「でも。——今が。いちばん。……"自分で、選んだ"毎日だなって。そう、思える、んです」





「……わたし。ずっと。——何かに、突き動かされてる、みたいな。そんな、感覚の、中に、いました」


ぽつり、ぽつりと。

アンジェは、語る。


「あの方を、断罪、しなきゃ。——あの、席に、立たなきゃ。そう、しないと、いけないんだって。……いつも。胸の、奥を。見えない、何かに——()かされて、いて」


「でも。——今は。その、声が。きれいに、消えて、くれました」


彼女は。

窓の、外の。——穏やかな、陽だまりを、見やった。


「だから、今は。——生まれて、初めて。"わたしが、どう、したいか"で。歩けてる、気が、するんです」


『……アンジェ』


「殿下。——どうか。ロザリンド様にも。イザベラ様にも。——お伝え、ください」


アンジェは。

姿勢を、正し。——深々と、頭を、下げた。


「わたしを。あの、見えない、檻から。——連れ出して、くださって。……本当に。ありがとう、ございました、って」





「——礼には。及ばぬ」


アルフォンスは。

静かに、首を、振った。


「あの場で。己の、言葉で。真実を、語ったのは。——他ならぬ、そなた自身よ」


「そなたは。誰の、筋書きでも、なく。——己の、足で。立った。それは。——並大抵の、ことでは、ない」


「重畳。——実に。あっぱれな、生き様よ」


「……ふふ。殿下に。そんな風に。——古めかしい、言葉で、褒めて、いただくと。なんだか……照れちゃい、ますね」


『出た。"あっぱれ"いただきました。——武士さんの、最上級の、褒め言葉』





夕暮れ。

帰り道。


『……ねえ。武士さん』


わたしは。

ぽつり、と——呟いた。


『原作の、アンジェはさ。——きっと。"ヒロインの座を、失った、可哀想な、女の子"。——そういう、扱いに、なるんだと、思う』


『——でも、さ』


救護院の、窓に、ともる。

あたたかな、明かりを。——振り返って。


『あんなに。——いい顔で、笑う、ヒロイン。わたし、原作でも。……見た、こと、ないや』


選ばれし、舞台を。——自分から、降りて。

彼女は。己の、足で。歩き、始めた。


誰かに、書かれた、まばゆい、栄光より。

ずっと。ささやかで。——ずっと、あたたかい。


それは。

"ヒロイン"を、やめた、彼女が。

——生まれて、初めて。自分の、意志で。掴み取った。


たった一つの——光、だった。


——最後まで、読んでくださって。ありがとうございました。


幕末の武士が、よりによって“破滅する悪役王子”に転生してしまう。

そんな出オチみたいな思いつきから始まったお話に、エピローグまでお付き合いいただけて、本当に嬉しいです。


書いていて、いちばん好きになってしまったのは。

アルフォンスより、頭の中のひかりでした(笑)。

物語を外から眺めているだけだった彼女が、たった一人のために飛び込んでいく——あれはちょっと、読み手のわたしたちみたいだな、と思いながら書いていました。


“破滅”しか書かれていない台本も。白紙にしてしまえば、その先は、自分たちで書いていける。

たぶん、そんなお話が書きたかったんだと思います。


生後三秒で腹を切ろうとした武士が、結局ただの一度も腹を切らないまま、「生きていたい」と思える誰かに出会う。

そこまで見届けてくださって、ありがとうございました。


それでは——また、別の世界で。

めるし〜。


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