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破滅する悪役王子に転生した武士、生後三秒で腹を切ろうとして妖精に泣いて止められる  作者: めるしー


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番外編④「奥方には敵わぬ」

——あの、星空の、告白から。幾度かの、季節が、巡って。


アルフォンスと、ロザリンドは。——晴れて、夫婦に、なった。


何より。——穏やかに、喜んだのは。彼の、母君だった。


生まれたての、我が子を。「呪い児」と、世が、こぞって、恐れた、あの日も。

ただ一人。胸に、抱きしめて——その、命を、繋いだ、王妃。


この、母は。——誰よりも、よく、知って、いる。

我が子が。どれほど、まっすぐで。どれほど、情に、(あつ)い、子で、あるかを。


だからこそ。

今、彼女の、胸を、満たして、いるのは。——驚きでは、なく。


ただ、静かな。——安堵にも、似た。よろこび、だった。


「……よかった。本当に」


幸せそうな、二人の、門出を、前に。

王妃は。そっと、目元を、押さえて——柔らかく、微笑んだ。


「世が、何と、言おうと。——あの子の、隣に。手を、取り合える、お方が、できた。母は……それだけで、もう。——十分ですわ」


(……王妃様の、その、お顔。——うん。気持ち、すっごく、分かる)


そして。——その、傍らで。


わたし(ひかり)は。

ここ最近、ずっと。——別の、意味で。頭を、抱えて、いた。


だって。わたしの、声と、姿が、届くのは。今も、昔も——アルフォンス、ただ一人。


つまり、わたしは。この、新婚夫婦の。睦まじい、日々を。

二十四時間。——特等席で、見せつけられる、はめに、なって、いる、わけで。


『——いたたまれない! いたたまれないってば——!!』





朝。

アルフォンスは。妻の、前で、きっちりと、正座を、して。深々と、礼を、した。


「——奥方。今朝も、ご機嫌、麗しゅう。息災で、何より、にござる」


「ふふ。アルフォンス様は。——相変わらず、ですこと」


『朝の、挨拶が。完全に。——主君への、登城の、ノリ!』





そんな、新生活で。


ロザリンドは。——あることに。全力を、注いで、いた。


「わたくし。——決めましたの。殿下に、ふさわしい。立派な、(きさき)に、なる、と」


王子に、嫁ぐ、とは。

やがては。——この国の、王族として。万民の、前に、立つ、ということ。


ロザリンドは。来る日も、来る日も。

宮廷の、作法を、(そら)んじ。幾つもの、国の、言葉を、修め。

大広間での、立ち居振る舞いを——一分(いちぶ)の、隙も、なく。磨き上げて、いった。


王宮の、家政(かせい)を、采配(さいはい)させれば。女中頭(じょちゅうがしら)すら、舌を、巻く、ほどの、手腕。

慈善の、催しを、取り仕切らせれば。誰よりも、気高く。誰よりも、行き届いて。


……ただ。

その、打ち込み方が。——少々。常軌を、逸して、いた。


夜更けの、灯火(ともしび)の、下。

寸分の、隙も、ない、礼の、所作を。何百回と——繰り返す、ロザリンド。


『……ねえ。もう、夜中だよ? ロザリンド、また、寝てない……!』


かつて。十年もの、あいだ。

たった一つの、復讐心を。あれほど、執念深く、研ぎ澄まし、続けた——その、芯の、強さ。


それを、今は。——"よき、妃に、なる"ことに。一切、手心を、加えず。まっすぐ、注いで、いる。


『花嫁修行に……復讐と、まるっきり、おんなじ、熱量、ぶつけてるよ。この人……!』


——と。

その、時。


すっ、と。

背後から。アルフォンスが。——自らの、上着を。そっと、彼女の、肩に、掛けた。


「奥方。——根を、詰めすぎ、ぬよう」


「! ……アルフォンス様」


「そなたが。誰より、この、役目に。真摯(しんし)で、あること。——(それがし)は、よう、存じて、おる」


アルフォンスは。

疲れの、滲む、その、横顔を——(いた)わるように、見つめた。


「なれど。——気高さとは。"完璧さ"の、ことでは、ない。そなたは……ただ、そこに、()るだけで。すでに、誰よりも、気高い」


「……っ」


ふ、と。

ロザリンドの、肩から——力が、抜けた。


そして。

ほっと、緩んだ、その、顔で。——彼女は、微笑む。





——その、不意の、笑みを。

まっすぐ、見て、しまった、アルフォンスは。


……ぐらり、と。——大きく、動揺した。


(……い、いかん。心の臓が。妙に、早鐘を、打って、おる)


すっ、と。

アルフォンスは、立ち上がり——縁側へと、向かう。


「……こんな、時こそ。精神、統一」


腰の、光丸を、手に。すうっと——正眼に、構える。


「妻の、笑み、一つで。これほど、心、乱れるとは。——(それがし)も、まだまだ……未熟」


びゅっ、びゅっ、と。

凛々(りり)しい、横顔で。庭の、素振りを、始める、アルフォンス。


「——修行、だ……!!」


『ときめきを——!! 修行で、なかったことに、しようと、してるーー!?』


ひかりの、絶叫が、響く。


『好きな人に、ドキドキするのは。未熟じゃ、ないからね!? ——ふつうだから、ね——!?』





そんな、彼が。

——ある、静かな、夜。


寝室の、窓辺で。月を、眺める、ロザリンドの、隣に。

そっと、腰を、下ろして。——珍しく。改まった、声で、言った。


「ロザリンド殿。——一つ。聞いて、ほしい、ことが、ある」


「……はい?」


アルフォンスは。

彼女の、琥珀の、瞳を——まっすぐに、見つめた。


「そなたが。これまで、堪え忍んで、きた、十年。——家を、焼かれ。母君を、奪われ。たった一人で。憎しみだけを、頼りに、生きて、きた、その、月日」


「……アルフォンス様」


「その、痛みを。その、孤独を。——某は。生涯、忘れぬ」


アルフォンスの、声は。

静かで。けれど——どこまでも、揺るがなかった。


「もう。——復讐に、生きずとも、よい。これからは。——それがしが」


「生涯を、かけて。そなたに、礼を、尽くす。——そなたが。二度と。あんな、涙を、流さずに、済むよう。この身の、ある限り。——守り、抜く」


「それが。——そなたを、(めと)った、武士の。果たすべき、義であり。……何よりの、望み、よ」


——ロザリンドの、琥珀の、瞳から。

つう、と。一筋。——涙が、こぼれた。


それは。

かつての。憎しみの、涙でも。悲しみの、涙でも——なかった。


「……ずるい、ですわ。アルフォンス様は」


ロザリンドは。

その、涙を、拭いもせず。——ふわり、と、微笑んだ。


「そんな風に、言われたら……わたくし、もう。アルフォンス様から、一生。——離れられ、なく、なって、しまいますわ」


「——望む、ところよ」





『…………』


わたしは。

何も、言えずに。——ただ、ぐすぐすと。洟を、すすって、いた。


すると。

ロザリンドが。ふと、(ちゅう)を、見上げて——くすっと、笑った。


「ふふ。——ひかり様。また、お泣きに、なって、らっしゃるの?」


『——なっ。な、なんで、分かるの!?』


「だって。——夫が。こんなにも、よい、お顔を、する、時は。きまって。あなたが、傍に、いて、くださる、時、ですもの」


姿も。声も。——誰にも、届かない、はずの、わたしを。

この、人は。ちゃんと——"家族"として。数えて、くれて、いる。


『……ほんと。ずるいなあ。——この、夫婦は』





——その、直後。


照れ隠し、なのか。

ロザリンドが。ちょん、と。彼の、頬に。口づけを、すると。


「——っ!? せ、精神、統一……ッ!!」


またしても。

耳まで、真っ赤な、顔で。素振りに、走ろうと、する、アルフォンス。


「だから、逃げないで、くださいまし——!!」


すかさず、その、袖を。

ロザリンドが、笑いながら、掴んで——引き、止める。


青空の、下。

今日も、この、(うち)は。——にぎやかで。あたたかい。


……夫が、武士で。妻が、元・悪役令嬢で。頭の中に、妖精が、住んでいる。


そんな。——少しだけ、風変わりな、一家の。

幸せな、日々は。


——まだまだ。これからも、続いて、いく。


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